トークンエコノミー×グルメSNS「シンクロライフ」、トークンへの転換権を付与したスキームで資金調達

つい先日、グルメSNS「シンクロライフ」がトークンエコノミーの仕組みを導入することで、同サービスをさらにユニークなものにしようとしていることをお伝えした。

具体的には良質なレビュアーなど、プラットフォームに貢献しているユーザーが報酬として独自トークン(SynchroCoin)を受け取れる仕組みを設計。将来的に保有するトークンをレストランの食事券と交換したり、食事代金の支払いに使えるようにしたりすることで、独自の経済圏を作ろうという取り組みだ。

この構想の実現に向けて、シンクロライフを運営するGINKANは8月10日、セレスと元サイバードホールディングス代表取締役会長の小村富士夫氏を引受先とする第三者割当増資により、総額8000万円を調達したことを明らかにした。

セレスとは業務提携も締結。モッピーなどアクティブ会員が350万人を超えるスマホ向けポイントメディアの基盤を持つセレスとタッグを組み、メディア間のシナジーやブロックチェーン技術の実サービスへの活用に向けた研究開発を進める方針だ。

なお今回の資金調達はGINKANの子会社であるSynchroLife, Limitedが発行するトークンへの転換権を付与した形での、株式の第三者割当増資というスキームを採用。詳細については後述するが、これによって株式市場への上場や事業売却以外のエグジットも可能になるという。

AI活用で好みにあった飲食店をレコメンド

シンクロライフは、ユーザーがレストランでの食体験を投稿できるグルメSNSだ。

特徴のひとつがAIを活用したレコメンドシステムによる、パーソナルキュレーションの仕組み。ユーザーの投稿や観覧履歴を始めとしたアプリ内でのアクションを独自のアルゴリズムで学習・分析することで、使い続けるほど自分の好みに合った飲食店が見つかりやすい仕様になっている。

同アプリにはすでに17万件以上のレビュー、42万枚の写真が掲載。現在は日本語のほか英語や韓国語、中国語にも対応し、82ヶ国でユーザー登録、48ヶ国でレビュー投稿がされているという。

そして8月2日にβ版をリリースした新バージョンでは、ここにSynchroCoinというトークンの概念が加わった。冒頭でも触れた通り、良質なレビューや飲食店情報の登録、編集、翻訳といったプラットフォームに貢献したアクションに対して報酬が付与されるようになる。

コミュニティを加速する手段としてのトークン

ここでおそらく多くの人が気になるのが「良質なレビューとはどんなものか」「トークンを付与したところでどれほどの効果があるのか」といった点ではないだろうか。

この点についてGINKAN代表取締役CEOの神谷知愛氏に聞いてみたところ、各ユーザーが持つスコアや各レビューの性質、そしてそこに対する「行きたい」などの反応をスコアリングする仕組みのようだ。シンプルに言えば「そのレビューは誰が投稿したものか、そしてそれに対してどんな反応があったか」が基準になる。

もう少し補足をすると、そもそもシンクロライフには以前から「経験値」というゲーム要素が導入されていて、トークンのようなインセンティブはないものの同じようなシステムが回っていた。

ユーザーは投稿した口コミのサービス貢献度に応じて経験値を獲得でき、経験値がたまるごとに称号(初段〜神)がランクアップする仕組みを導入。例えばまだ誰も投稿していない店舗や投稿が少ない店舗のレビューを書いたり、他のユーザーの参考になる(「行きたい」が多くつくなど)レビューを書いたりすると経験値が貯まるようになっている。

ここですでにレビューをスコアリングする機能は実装されていて、しかもこのシステムがシンクロライフのコミュニティを拡大するのに大きな影響を与えてきたのだという。それは投稿数や写真枚数の増加はもちろん、店舗情報の追加や修正、閉店依頼といったアクションにも繋がったそうだ。

「実は以前からアプリ内通貨のような仕組みをやりたいという思いはあった。今まではレビューや情報提供を通じて飲食店やプラットフォームに貢献しても、それはボランティア的な位置付け。そこにトークンという経済的な要素を入れることで、ユーザーのモチベーションや継続率も上がるのではと考えた。トークンはもともと動いているコミュニティを、さらに大きく強固にするためのものだ」(神谷氏)

今までにないグルメコミュニティの可能性

シンクロライフでは報酬用として全体の20%となる2000万トークンをプールしていて、そこから1週間ごとに一定量を分配するように設計されている。つまり毎週スコアの集計が行われ、その値に応じたトークンがもらえるというわけだ。

現時点でトークン付与の対象になるのは飲食店のレビューと店舗情報の作成。今後は情報の翻訳や加盟店舗の紹介などに対してもトークンを提供したいということだった。

神谷氏いわく「レビューではなく、良質なレビューであることが重要」というように、とにかくレビューを書けばトークンがもらえるという仕様ではなく、トークンの付与はあくまでサービスへの貢献度が高いアクションに限定する。

その一方で「消費者が気軽に楽しめる環境を作ることがキャズムを超える鍵」とも話していて、加盟店舗で食事をした際に還元リワードとして一定割合のトークンが付与される仕組みを作る計画。この還元率を店舗が設定できるようにすることで、顧客を呼び込む集客ツールとしても機能するようにしたいという。

その先にはトークンをレストランの食事券と交換したり、食事代金の決済で利用したりできるようにする予定。もしこのサイクルが上手く回れば、今までとは違ったグルメコミュニティができる可能性もあるだろう(もちろん加盟店をどれだけ開拓できるかなど、超えなければならない壁はある)。

トークンへの転換権を付与したスキームによる調達

最後に今回の資金調達のスキームについても少し触れておきたい。冒頭でも紹介したように、今回はGINKANの子会社であるSynchroLife, Limitedが発行するSynchroCoinへの転換権を付与した形での、株式の第三者割当増資という形を取っている。

GINKANではこれまでエンジェルラウンドで小村氏らから3000万円を調達しているほか、昨年香港法人のSynchroLife, LimitedにてICOを実施。755イーサ(日本円で約5000万ほど)を集めた。

ただこのICOを取り巻く環境はまだまだ不透明な状況にある。今回は神谷氏に加えセレスの担当者にも話を聞くことができたのだけど「一部ではICOをしていると監査法人が監査契約を結んでくれないとか、投資家から出資を受けづらいといった話も聞く」のだという。

GINKANとセレスのメンバー。前列の左から2番目がGINKAN代表取締役CEOの神谷知愛氏

セレスではこれまで仮想通貨・ブロックチェーン領域の事業展開や、関連するスタートアップへの出資を推進してきたが、アプリケーションレイヤーへの投資はまだ多くないそう。シンクロライフについてはトークンエコノミーとの相性なども鑑みて出資をしたいと考えた一方で、ICOをしていることがひとつのネックになった。

「(セレスは)事業会社なのでそこまでエグジット、エグジットと言う訳ではないが、取締役会などで話をする際にはそのストーリーを話す必要はある。もし仮に監査法人がつかなかった場合にどうするかを相談した上で『だったらトークンへの転換権をつければいいのでは』という話が出てきた。ビジネスとしてきちんと成功すれば、その裏側にあるトークンは値上がりしていると考えられるためだ」(セレス担当者)

トークンへの転換権を行使することで、IPOやM&A以外でのイグジットも仕組み上は可能になり、これがスタートアップの新たなオプションにもなりうるというのが双方の見解。フレキシブルな資金調達の手段を作ることで、スタートアップ界隈へはもちろん「トークンエコノミーの発展にも寄与できれば」という。

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TechCrunch Japan

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