ドライバー向け音声ゲームの開発のDrivetimeにアマゾンやグーグルが約12億円を投資

完全な自動運転車は、もう目の前まで来ているかも知れない(いや、まだ先かも)。それに向けて、ドライバーが運転席で時間をつぶすための車内用アプリを開発する、あるスタートアップが投資ラウンドを獲得した。

Drivetime(ドライブタイム)は、運転中に音声で楽しめるクイズや、ゲームや、インタラクティブストーリーを作っているが、このほどゲーム関連スタートアップに多額の投資を行っているMakers Fund(メイカーズ・ファンド)主導による1100万ドル(約11億8000万円)の投資を獲得した。これには、Amazon(アマゾン)がAlexaファンドを通して、Google(グーグル)はGoogle Assistant Investmentsを通して参加している。

現在、Drivetimeのプラットフォームには8つの“チャンネル”があり、限定的な無料版と有料サブスクリプション版(月9.99ドルまたは年99.99ドル)でゲームやストーリーが楽しめるようになっている。同社は、今回の投資を使ってカタログの内容を増やす計画を立てているが、同時に、自身も長年にわたり車内体験のための音声サービスやコンテンツの充実に力を注いでいる今回のビッグネームの戦略的投資会社との関係を、さらに深めるためにつぎ込むという。

共同創設者でCEOのNiko Vuori(ニコ・ブオリ)氏は、究極の目標をTechCrunchにこう話した。「Drivetimeを車のための『インタラクティブ・コンテンツのシリウスXM』に成長させ、独立したコンテンツのチャンネルを数百に増やす」(【訳注】シリウスXMは米国とカナダで通信衛星を使い放送を行っているデジタルラジオ局)。

この目標のために、今回の投資にともない、Drivetimeは米国時間9月9日、鍵となるコンテンツの契約を発表した。

Drivetimeは、米国の長寿クイズ番組「Jeopardy!」(ジェパディ!)と提携して、プラットフォームにクイズチャンネルを開設し、ドライバーが自分の知識を試したり、他のドライバーや知っている人たちと競ったりできるようにする。「ジェパディ!」チャンネルは、同テレビ番組が持つ膨大な知的財産からコンテンツの提供を受ける。さらに、ナレーションは番組司会者のAlex Trebek(アレックス・トレベク)氏が務めるなど、細かい部分にも凝っている。またプレミアムユーザーには、平日に毎日新しいクイズが出題される。

「ジェパディ!」ゲームのソーシャル要素は、できるべくしてできた。サンフランシスコに本社を置くDrivetimeの創設者はみな、ソーシャルゲームの大手Zynga(ジンガ)の出身者だ。ブオリ氏と共同創設者のJustin Cooper(ジャスティン・クーパー)氏、 Cory Johnson(コリー・ジョンソン)氏は、ともにジンガを退社したあと、Rocket Games(ロケット・ゲームズ)という別のスタートアップで働いていた。ロケット・ゲームズは大手ゲーム会社Penn National(ペン・ナショナル)に1億7000万ドル(約183億円)のイグジットを達成している。この記録的な成功例は、この新しいスタートアップに今回のそうそうたる顔ぶれが投資を決める理由にもなっている。

「ソーシャルおよびインタラクティブのフォーマットは、音声エンターテインメントの次なるフロンティアです」と、Makers Fundの投資パートナーであるJay Chi(ジェイ・チ)氏は声明の中で述べている。「10年来の仕事仲間であり、新しいプラッフォフォーム構築では記録的な業績を残したニコ、ジャスティン・クーパー、コリー・ジョンソンは、最高のチームとしてこのアイデアを実現してくれます」。

「ゲームと娯楽は、アレクサの使用事例として顧客が最も好むものです。Alexaが多くの車両に統合されることで、このカテゴリーは人気を増す一方となります」と、AmazonのAlexaファンドでディレクターを務めるPaul Bernard(ポール・バーナード)氏は、また別の声明で述べている。「Drivetimeは、車の中で楽しむ音声主体のゲームへの特化で際立っています。私たちは、彼らと共にアレクサオート体験を拡大し、運転席に座る顧客にできる限り楽しい時間を提供することを大変に楽しみにしています」

今回の3つの投資企業からの投資に先立ち、Drivetimeはおよそ400万ドル(約4億3000万円)の資金調達を行っている。Felicis Ventures(フェリシス・ベンチャーズ)、Fuel Capital(フュエル・キャピタル)、Webb Investment Network(ウェブ・インベストメント・ネットワーク、メイナード・ウェブ氏のファンド)、Access Ventures(アクセス・ベンチャーズ)などからの支援だ。

現在の彼らのアプリのインストール数とユーザー数についてはブオリ氏は明言を避けたが、調査会社App Annie(アップアニー)の資料によれば、大ヒットとまではいかないが、iOSAndroidでそこそこの数字を記録している。

その代わりに、Drivetimeは別の数字に目を向けさせたがっていた。実質的な市場規模だ。北米だけで1億1000万人のドライバーが利用しているという。

そして、これまで順調に築き上げてきたこの実績の上に「ジェパディ!」チャンネルが加わることになる。現在、最も人気が高いカテゴリーがクイズだ。2番目が曲当てクイズ、3番目が朗読となっている。

Drivetimeの前提が面白い。ドライバーは囚われの身の顧客であり、今までは彼らのために提供される娯楽は比較的限定的で、音楽かおしゃべりぐらいしかなかったというものだ。

しかし、個人向けのアシスタントアプリやAmazon Echoなどの家庭用ハブに後押しされて、自然言語に対応した音声ベースのインターフェイスやインタラクティブ機能が発達したことで、新たな機会が開かれた。ドライバーがもっと積極的に参加できる、インタラクティブな音声ベースのコンテンツが開発できるようになったのだ。

交通事故を誘発しないかと心配されるかもしれない。第4代米国大統領の名前や、米国憲法の父と呼ばれた人が誰だったかを思い出そうと(同じ人です)気が散ってしまうことはないのか。

ブオリ氏は、それは逆だと主張する。声を出すことが要求されるインタラクティブなゲームに参加することで、ドライバーの注意力は高まるというのだ。

「安全には何重にも気を遣っています」と彼は言う。「ひとつには、 Alertness Maintaining Tasks(注意力維持作業、AMTs)の安全に関する考え方を採り入れています。また、私たちの製品は予防策にもなります。Drivetimeで遊んでいる間は、その他のことに気を取られることがありません」

現在のコンテンツは、運転中にするべきではない行為にドライバーが向かわないよう抑制する効果があるということだが、運転の必要性が少なくなれば、ドライバーが時間をつぶすためのコンテンツを提供するという別のチャンスも増えてくるのは明らかだ。

長い目で見ると、「ジェパディ!」との契約は、その他の人気テレビ番組を基にしたチャンネルの開設につながる可能性がある。「ジェパディ!」の権利を持つSony Pictures Television Games(ソニー・ピクチャーズ・テレビジョン・ゲームズ)は、「Wheel of Fortune」(ホイール・オブ・フォーチュン)と「Who Wants to Be a Millionaire」(フー・ワンツ・トゥー・ビー・ア・ビリオネア、訳注「クイズ$ビリオネア」のオリジナル版)の権利も持っている。

「Sony Pictures Television Gamesと共同で、世界で最も偉大なクイズ番組「ジェパディ!」を、最も娯楽に飢えているオーディエンス、つまり、毎日家と職場の間を行き来している北米の1億1000万人の通勤者に提供できることを、とてもうれしく思っています」とブオリ氏は声明の中で話している。

面白いことに、AlexasのスキルやGoogle Homeやその他のスマートホームハブのアプリが成長し、アプリの操作や情報の検索を音声で行う方法が人気を呼んでいるにも関わらず、ブオリ氏によれば、Drivetimeと同じ方法でドライバーに音声ベースの娯楽を提供する競合アプリ開発企業がひとつも現れていないという。

そのためDrivetimeは、今のまま余裕をもってユーザーを増やすことができる。さらに、レガシーな知的資産の有効活用や新しいビジネスを求めるパブリッシャーやコンテンツ企業との契約も楽に増やせる。

「Drivetimeは、車に乗ったドライバーのための安全で刺激的な娯楽開発の先陣を切る開拓者です」と、Googleアシスタント投資グループの代表Ilya Gelfenbeyn(イリヤ・ジェルフェンベイン)氏は声明で述べている。「移動中に音声を使って生産性を維持する人たちが、どんどん増えています。AndroidやiOSのスマートフォンでGoogleアシスタントを使ってテキストメッセージを送ったり、電話をかけたり、手を使わずに遊んだり。私たちはDrivetimeと同じビジョンを掲げています。日々の通勤をもっと楽しくするために、彼らと仕事をするのが楽しみです」

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(翻訳:金井哲夫)

投稿者:

TechCrunch Japan

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