ドローンで中国におけるフードデリバリーを再定義するMeituan、自転車や自動車で行きづらい場所へ配達

深圳にあるピックアップキオスクの最上部に着陸するMeituanのフード配達ドローン(画像クレジット:TechCrunch)

深圳の繁華街に隣接する混雑した歩道で、20代の女性がスマートフォンのアプリから、フードデリバリー大手のMeituan(美団)でミルクティーを注文している。10分もしないうちに、真珠のように白い飲み物が、どこでも見かける宅配バイクの荷台ではなく、ドローンの荷台の段ボール箱に載せられて曇天から降臨し、道端の小さなキオスクに届けられる。このシーンに欠けているのは、天使の聖歌隊だけだ。

中国最大級のインターネット企業であるMeituanは、過去2年間で人口2000万人近い深圳市全域の8000人の顧客に1万9000食を空輸してきた。この試験プログラムはわずか7つの地区で展開され、厳選された加盟店からのみ利用することができる。それぞれの地区の長さは3kmだ。SF作家が描くように窓の外を飛ぶのではなく、街角にある指定のキオスクに配達される。しかしこの試験はMeituanの野望の概念実証だ。同社は今、空中配送の野望を拡げる準備を整えた。

Tencent(テンセント)傘下のMeituanだけが、都市の空を小さな飛行機で埋め尽くしたいと考える中国のテック大手ではない。MeituanのライバルであるEle.meを運営するAlibaba(アリババ)、そしてeコマース大手のJD.comも近年同様のドローン配送サービスに投資している。

試験的なプログラムを経て、Meituanは深圳全域での商業的なドローン配送サービス運営を申請したと、同社のドローン配送部門の責任者であるMao Yinian(マオ・イーニエン)氏は2021年12月のプレスイベントで語った。9月に提出されたこの申請は現在、深圳の航空当局の審査を受けている。実際のスケジュールは政府の決定次第だが、認可は2022年の予定だ。

「当社は郊外での実験から中心部へ向かいます。これは当社のオペレーション能力が新たなレベルに達したことを意味します」と、Meituanのドローン事業の技術専門家であるChen Tianjian(チェン・ティエンチエン)氏は同イベントで話した。

空飛ぶ食事

現時点では、Meituanの配達用ドローンはまだそれなりの人手を必要とする。例えば、ミルクティーの注文。ミルクティーができあがると、Meituanのバックエンドの配送システムが人間の運搬担当を割り当てる。その人間がモール内の加盟店からミルクティーを取ってきて、複合商業施設の屋上まで運ぶ。そこには、同社が設置したドローン離着陸パッドがある。

深圳のショッピングモールの屋上に設置されたMeituanのドローン離着陸パッド(画像クレジット:TechCrunch)

離陸前に検査員が飲み物を入れた箱が安全かどうか確認する。その後、Meituanのナビゲーションシステムが、集荷キオスクまでの最短かつ安全なルートを算出し、離陸する。

もちろん、ドローンを使って食品を配達することの経済面での実行可能性は、まだ証明されていない。カーボンファイバー製のMeituanの小型飛行機の重量は約4kgで、約2.5kgの食品を運ぶことができる。これは、チェン氏によれば、2人分の食品の重さに相当する。もし、誰かがミルクティーを1杯だけ注文したら、残りのスペースは無駄になってしまう。各キオスクが受けることができる注文は約28件だ。ピーク時には、顧客が速やかに料理を取りに来ることに賭けることになる。

また、新しい宅配ボックスでは、発生するゴミの問題もある。Meituanは、キオスクの横にリサイクルボックスを設置したが、顧客が容器を持ち去ることは自由だという。ゴミ箱に捨てる人がいてもおかしくはない。

米国から得た教訓

2017年から2018年にかけて、中国の民間航空局は、米連邦航空局が行った低高度空中移動に関する研究を参考にして、米国の「後を追い」始めたとチェン氏はいう。それから間もなく、中国の規制当局は、新進のこの分野のガイドとルールの策定を開始した。Meituanも同様に、米国のドローンのルールなどを研究したが、両国は人口密度や消費者行動が著しく異なるため、画一的な解決策があるわけではないことは認識している。

深圳にあるMeituanのドローン着陸キオスクで注文品を受け取る客(画像クレジット:TechCrunch)

米国人の多くは郊外のゆったりとしたところに住んでいるが、中国やその他多くのアジア諸国では、人々は都市部に密集している。そのため、米国のドローンは「耐久性に重点を置いている」とチェン氏はいう。例えばGoogle(グーグル)やAmazon(アマゾン)が開発したドローンは傾向として「垂直離着陸が可能な固定翼型」だが、Meituanのソリューションは小型ヘリコプターのカテゴリーに入り、複雑な都市環境により適している。

米国で生まれた技術は、しばしば中国で、類似した開発にヒントを与えてくれる。Amazon Prime Air(アマゾン・プライム・エア)の場合は、将来がバラ色というわけでもない。Amazonのドローン配送事業は目標としていた時期に間に合わず、従業員を解雇していると報道されているが、同社はドローン配送部門が「大きな前進を続けている」と話す。

チェン氏は、Prime Airが「明確な戦略を持っていないようだ」とし、Alphabet(アルファベット)のWing(ウィング)が注力する近隣配送と、UPSが得意とする長距離輸送の間で「揺れ動いている」と主張する。さらに、こう続けた。

低高度航空物流における中国と米国の競争からわかるのは、自身の戦略的位置を把握することが重要だということです。無人航空機の設計は誰でもできます。問題は、どのような顧客に、どのような無人航空機を使うかです。

規制について

ドローン配送の安全性について尋ねると、チェン氏は、Meituanのソリューションは「民間航空局」が定めたルールに「厳密に従う」と答えた。北京に本社を置く同社が深圳を試験の場に選んだのは、ドローン大手DJIの本拠地であること、無人航空機のサプライチェーンが成熟していることだけが理由ではない。経済的な実験で知られるこの南部の大都市は、中国で最もドローンに友好的な政策を掲げていると同氏は話す。

Meituanの各ドローンは、深圳の無人航空機交通管理情報サービスシステム(UATMISS)に登録される。飛行中は、5秒ごとに正確な位置をUATMISSに通知することが義務付けられている。さらに重要なのは、迂回の手間をかけてでも、人混みや市街地を避けられるよう、ナビゲーションシステムが作動していることだ。

Meituanのドローン宅配ボックスから受け取ったミルクティー(画像クレジット:TechCrunch)

今回テストしたドローンは、このモデルでは3回目の試験機だ。15m離れたところで聞こえる騒音は約50dBで、これは「昼間の街頭レベル」に相当するとチェン氏はいう。次世代機では、さらに静粛性を高め「夜間の街頭レベル」まで騒音を低減させる予定だ。だが、小型航空機にとって、静かすぎるということはない。規制当局は、騒音を許容できるレベルにすることが「より安全である」との見解を示している。

人の手を借りる

Meituanは、中国における数百万の宅配便をすべて無人航空機に置き換えるつもりはない。だが、自動化により、過負荷気味になっている同社の配送プラットフォームの負荷を軽減できる。同社の配車アルゴリズムは、乗員の安全よりも事業の効率性を優先しているとされ、国民と政府の両方から批判を浴びている。労働者の確保が困難なため、労働集約型の産業はすでにロボットの助けを求めている

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Meituanの目標は、人間とロボットのコラボレーションの最適点を見つけることだ。深圳の道路インフラはスクーターのドライバーやサイクリストに優しくないことで有名だが、空中移動はそうした地上の障害物によって制限されることはない。ドローンは大きなインターチェンジの上空を飛び、宅配業者がピックアップしやすく、顧客の最終目的地まで配達しやすい場所まで食事を運ぶことができる。

Meituanは、すでにさらなる自動化を視野に入れている。例えば、消耗したドローンのバッテリーをスタッフが手作業で交換することに代わる、自動バッテリー交換ステーションに関する研究と開発を行っている。また、レストランから近くのドローン離陸場まで、ベルトコンベアのようなシステムで商品を移動させることも検討している。これらのソリューションの大規模展開にはまだ何年もかかるが、明らかにフードデリバリーの巨人は自動化された未来へと滑り出している。

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(文:Rita Liao、翻訳:Nariko Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

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