ドローン動画「A World Artists Love」のアニ・アコピアン監督が語る制作秘話

「ドローンはカメラ」とAni Acopian(アニ・アコピアン)氏は率直に切り出した。「空を飛べる。空飛ぶスーパーカメラなわけ!私は、ドローンの敏捷で魔法のような性能を駆使したフィルムやテレビ番組を見たり、鳥瞰撮影のような定番ではない形でドローンを使うのが大好きなんです」。

ロンドンのレコードレーベルであるAWAL(Artists Without a Label、レーベルを持たないアーティスト)のために彼女が監督し制作したこの1分間の動画「A World Artists Love」(アーティストが愛する世界)は、無人航空機の潜在的な表現力に敬意を表すものになっている。机の上から飛び立ち、ガラス戸から外に出て、階段を通過して、車の中を通り向ける。レストラン、空のプールで遊ぶスケートボーダー、廃車置き場、庭のプールでのパーティーなどを見て回る。社会的距離の確保によって我々全員を夜行性の変人にしてしまう前の、太陽燦々の南カリフォルニアの陽気な映像だ。

ワンカットで撮られたように見えるが、じつは複数のカットをつなぎ合わせている。単独で見ても素晴らしい5つのショットを1本につなげた、まさに編集の魔法だ。ドローン・パイロットRobert McIntosh(ロバート・マッキントッシュ)氏の功績も大きい。彼は、2012年、Spike Jonze(スパイク・ジョーンズ)監督作品「Pretty Sweet」にも、自作ドローンを使った撮影で参加している。

重さ120gのこのドローンは、GoPro Hero 6(ゴープロ・ヘローシックス)のカメラ部分を取り出して組み立てられた。カメラは、レーシング用ドローンに組み込まれて配線されている。その結果、手の平サイズの繊細なバッテリー寿命は3〜5分というドローンが出来上がった。だがこの小ささによって、4K映像を撮影しながら非常に敏捷に飛び回れる性能が得られた。マッキントッシュ氏はレース用のFPV(一人称視点)ゴーグルを装着し、撮影監督のEric Maloney(エリック・マロニー)氏からの無線による指示に従い、ドローンをゆっくり飛ばした。

アコピアン監督によれば、撮影とは現場スタッフの機転を必要とする作業であり、60人のエキストラを使うシーンともなれば、なおさらだという。それぞれのエキストラには、個別に動きが与えられている。カメラの広角レンズに映り込まないよう遠く離れた場所から監督が拡声器で送る指示に従い、彼らは演技する。

「出演者を配置し、ドローンの飛行経路の交通を遮断してのリハーサルを事前に行うことは不可能でした」と彼女。「なので最大の難関は、毎朝、違う場所に集まるごとに、ドローンの飛行経路、出演者の配置や動き、視覚効果用マーカーを調整して、そこから日が沈む2時間前までにできるだけリハーサルを重ねるということでした。何かうまくいかないことがあれば、やり方を変えました。シーン全体がまったく撮影できないというリスクを避けるためです」。

どのシーンも、当然のことながら、何テイクも撮影された。最高15テイクというシーンもあった。さらに、繊細な小型ドローンは何度か墜落を経験したが、それでもほとんど損傷はなかった。

「みんなが凍り付いた事故がありました。パーティーの参加者がケーキをぶつけられるシーンです」とアコピアン氏。「女優が一歩後ろに下がったんです。そこはドローンの通り道でした。ドローンは彼女の髪の毛に絡んで停止しました。幸いにも彼女は無事で、髪の毛を少し切るだけでドローンを引き離せました。そして担当者が20分ほどでドローンを修理して、20分後、そのシーンを撮り直しました。彼女は2回、顔にケーキをぶつけられることになったんです。本当のヒーローよ」。

撮影が終わると、動画はマッキントッシュ氏が開発した画像安定ソフトウェアであるReelSteady(リールステディー)で処理された。このソフトウェアは、3月にGoProに買収されている。その後、視覚効果専門のAlpha Studios(アルファ・ステューディオズ)がシーンをつなぎ、1本の継ぎ目のわからない作品に仕上げた。

「最初は、すべてのシーンのトランジションを完全に境目なく、わからなくしようと考えていたのですが、場所や機材の関係でトランジションを定形化する必要がありました。そこで私たちは、ひとつのショットをどこで終えるか、そして次のショットをどこから始めるかをAlpha Studiosと緊密に作業し決めていきました」と、プロデューサーJeremiah Warren(ジェレマイア・ウォーレン)氏は話す。「Alpha StudiosのKaitlyn Yang(ケイトリン・ヤング)は現場の視覚効果責任者ですが、そのトランジションのポイントを決める要の人物でした。彼女のチームが、ポストプロダクションで視覚効果を使いシーンの融合を行ったからです」。

その結果、ドローンはお決まりのショットだけを撮るものではないことが、そしてその過程で奥深い物語をもたらしてくれることが、美しく端的な形で示された。

「ドローン撮影の未来は明るいと私は感じています。一目でいかにもドローンっぽいと思わせることなく、その他の方法では難しい斬新なカメラの動きをもたらすものとしてドローンが使われるようになるでしょう」とアコピアン氏。「高く飛ばす必要はないんです。ドローン、とくにレース用のFPVドローンには、記憶を呼び起こすときの感じを美しく再現してくれる、流れるような感覚があります。もっと多くの人がこれを試して内的体験を再現してくれるようになれば、新しい物語の手段が生まれるだろうと私は期待しています」

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(翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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