ニオイ“可視化”センサー開発のアロマビット、ソニーらから2.5億円を調達

ニオイを可視化するセンサーを開発、サービスを提供するアロマビットは3月4日、総額2億5000万円の資金調達を行ったことを明らかにした。第三者割当増資の引受先は、ソニーのコーポレートベンチャーキャピタルSony Innovation Fundと、既存株主で名称非公開の事業会社だ。

アロマビットは2014年12月の創業。小型のニオイイメージングセンサー、つまりニオイを可視化できるセンサーを開発し、センサーを使った製品や、取得したデータをもとにしたサービスを提供するスタートアップだ。

アロマビット代表取締役の黒木俊一郎氏によれば、社名には「共通言語による情報共有が難しかったニオイ(アロマ)を、データというデジタル言語(ビット)を使うことで言語化し、ニオイに関するコミュニケーションを楽にしたい」という思いが込められているそうだ。

目には見えないニオイを可視化する、と言われてもイメージが湧かない人も多いかと思うので、少しそのセンサーの仕組みを説明してみたい。

従来のガスセンサーは、ニオイに含まれる特定の成分(分子)に反応する。アロマビットが開発するニオイ識別センサーは従来型センサーと異なり、生物の鼻のように、さまざまな成分を含むニオイをパターン認識することが可能だ。

ヒトの鼻なら約300〜400のセンサー(嗅覚受容体)があり、ニオイ分子に反応する。生物はその複数のセンサー反応の組み合わせパターンで、嗅いだニオイを判断する。アロマビットのニオイイメージングセンサーは、これを機械で模倣したものだ。

このセンサーは、クォーツ時計やコンピュータのクロック発振回路にも使われる水晶振動子をセンサー素子として、その上にニオイ分子を吸着する吸着膜が設置されている。ニオイ分子が膜の表面にくっついたり離れたりして質量が変わると、素子の共振周波数も変化するので、その変化を計測することでニオイ分子の様子をデータとして捉えることができる。

アロマビットでは3年半ほどの初期開発を経て、この1〜2年は企業向けにニオイセンサーやシステムなどの提供を行ってきたが、2018年12月にはデスクトップ型のニオイ測定装置「Aroma Coder – 35Q」を製品化した。Aroma Coderでは、35種類のニオイ吸着膜が35素子に搭載されている。35種のセンサー出力データを一度で1つのパターンとして取得でき、合計で約5京通り(5×10の16乗)以上の「ニオイ可視化パターン」出力が可能だ。

Aroma Coderでは35素子を1つの装置に搭載したことで、測定時間を数分に短縮。よりニオイの「解像度」が高く、複雑なニオイを可視化できるようになっているという。

またアロマビットではデスクトップ型製品と同時に、企業が自社製品にニオイセンサー機能を搭載できる組み込み型センサーモジュールを、システム開発キット(SDK)として提供開始している。これは顧客企業がターゲットとなるニオイを指定すれば、それに応答しやすいニオイ感応膜5種類の組み合わせをアロマビットで選定し、カスタム化したセンサーモジュールと測定ソフトウェアを提供してくれるというもの。製品開発が進んだあかつきには、月産数個〜数万個で標準センサーモジュールの量産化も可能だ。

黒木氏は「この精度のニオイイメージングセンサーを小型軽量・低コストで、量産型で提供できる企業は、グローバルでもまだ出ていないので引き合いも多い。理論や実験段階でなく、製品が出ている点が我々の強み」と話す。

水晶振動子を素子に採用したのは価格弾力性の高さと量産可能性の高さからだというが、黒木氏は「今後はMEMS(微小電子機器システム、マイクロマシン)や半導体などにも応用したい」とも話している。

これまでに累計400社での採用がある同社プロダクト。導入されている業種は食品、日用品、コスメなど想像が付きやすいものから、産業機械、ロボティクス、モビリティ、農業など、ニオイの情報をどう使うのか、にわかには想像が付かない分野にも広がっている。

用途としては品質管理、商品開発などがあり、「これまで人に頼ってきた製品の品質管理を、データとして客観的に判別する」「ある香りにAという成分が含まれていることは分かったので、作りたい香りから逆算して足りない成分Bを知るために分析する」といった使われ方をしているそうだ。

産業機械、ロボティクスの分野では、産業油の変化をニオイで感知することでクオリティコントロールを行うといった例も。またモビリティの分野では今、MaaS(Mobility as a Service)展開が盛んで、車内外の異常検知などを目的にさまざまな車載センサーが積まれるようになっている。その一環としてニオイセンサーも取り上げられているようだ、と黒木氏は述べている。

黒木氏は「ニオイの可視化、センサーによるニオイデータのデジタル化は、五感の中でも一番遅れていたが、今後、大手企業が参加し、AIや機械学習によるニオイのビックデータ分析も始まることで、市場ができ、ニーズも一層増える分野になる」と述べ、「このトレンドを捉え、ニオイの可視化分野で、グローバルでデファクトスタンダードとなることを目指す。ニオイ可視化で世の中の役に立ちたい」と話している。

アロマビットでは、2017年2月にみらい創造機構と個人投資家らから1億5000万円を調達。その後、今回のラウンドにも参加している匿名の事業会社から資金調達を行っており、今回の調達はそれに続くものとなる。

今回の調達により、アロマビットでは既存製品の高機能化や小型化、量産化など開発を進めるほか、「セールスマーケティングのグローバル化を図り、北米、ヨーロッパなどにも進出したい」と黒木氏は述べている。また、ニオイのデータベース拡充を自社で行うことで、「ニオイセンサリングと可視化の分野で、世界レベルの競争優位性を確立したい」ということだった。

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TechCrunch Japan

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