バーチャル理科実験プラットフォームを世界中で販売するLabsterが新たに約63億円調達

165億ドル(約1兆7260億円)の運用資産を持つベンチャーキャピタル企業のAndreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)は、バーチャルなSTEM(科学、技術、工学、数学)実験シミュレーションを教育機関向けに販売するEdTechスタートアップに数百万ドル(数億円)を投じた。

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コペンハーゲンに拠点を置くLabster(ラブスター)は、学校向けにバーチャル理科実験プラットフォームを販売している。同社は米国時間2月10日、著名なシリコンバレーの企業が主導するシリーズCラウンドで6000万ドル(約63億円)の資金調達を行ったと発表した。このラウンドには、これまでも同社に投資していたGGV Capital(GGVキャピタル)、Owl Ventures(オウルベンチャーズ)、Balderton Capital(バルデントン・キャピタル)も参加。Labsterはこれまでに総額1億ドル(約105億円)を調達したことが知られている。

Labsterは、多くのEdTech企業と同様、新型コロナウイルス流行の影響でリモートワークの必要性が強調される中、自分たちの有効性を見出してきた。2020年4月には、210万人以上の学生が所属するCalifornia Community College(カリフォルニア・コミュニティ・カレッジ)のネットワーク全体にサービスを提供する契約に署名。その数カ月後には、GGVのJenny Lee(ジェニー・リー)氏を取締役会に迎え、アジアでの事業を拡大するために、900万ドル(約9億4500万円)の株式発行による資金調達を行った。

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「A16z(Andreessen Horowitz)は、大きな影響力を持ち、大規模な世界的成功を収める可能性のあるテクノロジー企業への投資に非常に興奮しています」と、Labsterの共同設立者でCEOのMichael Bodekaer Jensen(マイケル・ボデカー・ジェンセン)氏は述べている。「Labsterが大規模に学習を革新するプラットフォームであるという事実が、彼らを惹きつけたのです」。

今回の新たな資金調達により、Labsterはスタッフの増員、ラテンアメリカやアフリカを含む新たな地域に向けた成長、教師をより良くサポートする新製品の開発に、投資を行うことになる。

ジェンセン氏は、Labsterがこれまでない巨額の増資を行ったことにより、同社の評価額が「劇的に上昇した」と述べている。とはいえ、まだ10億ドル(約1050億円)の大台に乗っていないことを同氏は認めており、黒字化を達成したかどうかについてもコメントしなかった。

しかしジェンセン氏は、新たな資金調達によって、このスタートアップ企業が2つの大きな目標に一歩近づいたと考えていると語った。その1つ目は、今後数年で1億人の学生にサービスを提供すること。そして2つ目は、世界中の誰もが自分でシミュレーションをカスタマイズして構築できるプラットフォームを目指すということだ。

「私たちはコンテンツ企業ではありません」と共同創設者はいう。「私たちは没入型学習のためのプラットフォームです」。

Labsterは現在、対面式の授業をサポートして強化するためのeラーニングソリューションを販売している。

教育機関が選択したサブスクリプションに基づいて、参加者の学生はさまざまな段階の仮想実験室にアクセスできる。細菌の増殖や分離の理解から、太陽系外惑星の生物多様性の探求まで、多彩な実験が想定されており、各種シミュレーションのほか、特定の概念を描いた3Dアニメーション、シミュレーションのリプレイ、クイズ問題、バーチャル学習アシスタントなどが用意されている。

画像クレジット:Labster

ジェンセン氏は、最終的にLabsterが、あらかじめ決められた学習トラックを超えて、カスタマイズ可能な没入型学習の世界に移行する可能性を示唆している。Inspirit(インスピリット)など他のスタートアップもまた、Minecraft(マインクラフト)やRoblox(ロブロックス)のようなゲーム形式による創造性を、世界中の学生たちの日々の学習にもたらすことを目指している。

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Labsterはそのプラットフォームの目標に合わせ、現在はバーチャルリアリティへの取り組みを停止している。大規模な数のヘッドセットを用意する必要があるからだ。

「VRは学習には適していますが、我々は教育機関がすでに持っているハードウェアを理解し、それに対応したサービスやソリューションを提供する必要があります」と、ジェンセン氏は語る。多くの教育機関は全学生分のヘッドセットを購入する余裕がないことをつけ加えた。

Labsterがバーチャルリアリティから離れ、没入型の学習環境を構築する方向に向いているという事実は、単なるブランディングのための決定ではなく、拡張性の高いEdTechの未来が、ゴーグルのようなものではなく、カスタマイズ可能なウェブページのようになるかもしれないということを示唆している。

「設立当初の頃は、それを構築すればすぐにすべての教師がやって来るだろうという、ちょっとナイーブな起業家精神が間違いなくありました」と、ジェンセン氏は語った。「VRは、私たちが飛びついて思ったほど革命的なものではありませんでした」。

新たな投資の一環であるLabster Portalは、教師が没入型シミュレーションを個々の生徒がどのように使用しているか、どのような授業を一緒に組み込むのが適切かを理解するためのダッシュボードだ。同社はまた、国全体や州または地域レベルで教育機関と提携することにも力を入れている。ジェンセン氏によると、契約規模が大きくなればなるほど、導入費用を節約できるため、割引額も大きくなるとのこと。Labsterは最近、デンマーク全土にその技術を導入する契約を締結した。

Labsterは現在、2000以上の総合大学、専門大学、高校にプラットフォームを提供している。

「新型コロナウイルスが収まった後、成長は鈍化するでしょう」とジェンセン氏はいう。「教育機関との会話では、ポストコロナの時代にLabsterをさらに新しく革新的な方法で活用していくにはどうすればいいかという話が増えています」。

カテゴリー:EdTech
タグ:Labster資金調達eラーニングVR

画像クレジット:MR.Cole_Photographer / Getty Images

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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

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TechCrunch Japan

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