パソコンやスマホ、スクーターなどの電子機器サブスク事業成長に向けて独Groverが約79億円調達

商品を自分で所有するのではなく、一時的に利用するために少額の支払いをするという循環型経済のコンセプトを取り入れたスタートアップ企業Grover(グローバー)が、ヨーロッパにおける事業、さらにその先を見据えた規模拡大のために6000万ユーロ(約79億円)の資金調達を行った。同社はベルリンを拠点とし、パソコンやスマートフォン、ゲーム機やスクーターなどの電子機器を一定の料金で貸し出すサブスクリプションモデルを展開している。

調達の内訳は、株式で4500万ユーロ(約59億円)、ベンチャー融資で1500万ユーロ(約20億円)である。

Groverの登録者数は2020年9月時点で10万人。現在は15万人で、2021年中に3倍の45万人の登録を目指すとしている。市場拡大を目的に資金を活用し、ドイツやオーストリア、オランダ(すでに事業は稼働中)における事業成長や、スペインや米国におけるローンチも予定されていて、さらに健康やフィットネスデバイス、消費者向けロボットやスマート家電などの製品も新たに取り扱っていく。

また、そのレンタルサービスにおけるイノベーションに投資していく計画もある。2020年のコロナ禍によって多くの人が金銭面の余裕がなくなり、この先どのような機器が必要になるかなど、将来のことを計画することが難しくなったことで、多くの人が消費を少なくして自身や他の人が持つものを有効活用することに関心を持ち始めた。

「消費者は製品購入時に、使いやすさや柔軟性、長く使えるかどうか、という点を評価するようになりました。テクノロジーが実現する生産性や娯楽、大切な人とつながる機能などを考える際に特に顕著です」とGroverのCEOであるMichael Cassau(マイケル・カサウ)は話す。「新たな調達資金により、私たちは世界中のより多くの人々にこうした可能性を届けられるようになりました。これにより弊社にご登録頂いているみなさまに比類ない顧客体験を提供し、人々や事業がテクノロジーを使ってその恩恵を享受できるさらに革新的な方法を提供できるようになります。投資家のみなさまからの心強いサポートによって、当社のサービスがみなさまにお届けする大切な価値のみならず、Groverの大いなる成長可能性も確かなものとなりました。私たちはまだ、1兆ユーロ(約130兆円)のグローバル市場の入り口にいるに過ぎません」。

JMS Capital-Everglen(JMSキャピタルエバーグレン)はシリーズBの株式ラウンドを主導し、Viola Fintech(ビオラフィンテック)やAssurant Growth(アシュアレントグロース)、既存の投資元であるcoparion(コパリオン)、Augmentum Fintech(アグメンタルフィンテック)、Circularity Capital(サキュラリティキャピタル)、Seedcamp(シードキャンプ)、Samsung Next(サムスンネクスト)といった企業が参加、また名前が明かされていない企業創業者やエンジェル投資家もヨーロッパや北米などから参加。Kreos Capital(クレオスキャピタル)が融資を行った。

Samsungは戦略的投資家だ。Goverとともに2020年12月にサブスクリプションサービスをローンチしているが、同社のS21シリーズが選択可能なモデルとなっており、それ以外にもTab S7やGalaxy Aモデル、またプランによってはウェアラブルデバイスやスマートホームデバイス、テレビ、ノートブックなども利用できる。ドイツで開始されたSamsung Powered by Groverというサービスは、今回の投資の一部を利用して他の市場に展開していく計画もある。

この資金は、Groverが2.5倍(150%)の成長をした年の翌年に得られる。最も直近の年次レポートによれば2020年の9月の時点で10万人ものアクティブユーザーが存在し、同時期に1万8000台のスマートフォン、6,000ものAirPods、1300もの電子スクーターをレンタルしているとされている。また、最も直近の事業年度で、純収入は約4300万ドル(約47億円)、経常収益は年間7100万ドル(約77億円)で、EBITDAベースで黒字に転じている。

パンデミックの直前に250万ユーロ(約3億円)の融資を受け、2018年に4400万ドル(約48億円)をシリーズA調達、2019年には4800万ドル(約52億円)を株式と負債を合わせたプレシリーズBで調達した。評価額は開示されていない。

同社のサービスは、サブスクリプション経済モデルを中心とするサービスを形成するスタートアップ企業の広いカテゴリーに属する。サブスクリプション経済モデルは、クルマなどの資本を多く必要とするカテゴリーを扱うが、より手頃でインターネットで完結する音楽や動画配信といった消費可能商品も対象としている。

実際、物理的なDVDを届け、見終わったら次の映画を観るために返却してもらうというサブスクリプションモデルから始まったNetflixの歴史をなぞらえ、Groverは「ガジェットのNetflix」と呼ばれている。

クルマや映画と同じく、サブスクリプションでガジェットを所有することについては議論の余地がある。消費者は、手にするものが高額になればなるほど、購買余力に対して多くの割合を占めるようになればなるほど、自分のものとして所有するためにお金を出すことについて消極的になると考えられる。ガジェットの価値は消費者が購入した直後から下がっていくのだから尚更だ。

一方、現在では多くの消費者がサブスクリプションに登録し、普段利用しているサービスに電子的に支払いを行っている。Amazon PrimeやSpotifyと同様に、Groverを含め、物理的なものを扱うその他のサブスクリプションは、簡単にサービスを受けられるというモデルを物理的な商品に適用しようとしている。

小売業者にとっては、消費者に製品を提供する別の選択肢が生まれることになる。直接購入だけでなく、クレジットや後払いなどのオプションを提供することによって契約を成立させることが可能となる。ショッピングカートに入れたまま放置されたり、オンラインの競合他社に競り負けたりすることも現実ではよく見られるので、少しでも収益を上げることができればそれは勝利である。そして、商品のメンテナンスをGroverのようなサードパーティに任せ、ガジェットを実際に所有したいとする顧客に対しての割増金を設定したり、ビジネスの安全性を充分に高めたりすることができれば、直接販売よりもずっと利益率が高くなる可能性もある。

中古商品を使うことに懸念する人もいるが、状況は変わりつつある。消費者が自分の持っているものを再販売することを手助けすることで大きな成長を遂げた企業が数多く存在する。このトレンドの影には、購入者が支出を抑えたいと考える(そして販売者は多少なりとも支払いを受けることができる)ようになったことがあるが、すでに経済の中で用いられたものを使うことで、環境負荷を減らしたいと考える人が増えたことも関連している。ヨーロッパだけでも、4月第1週にはブライトンに拠点を置くMPBが約7000万ドル(約76億円)を中古カメラ設備マーケットプレイスのために調達した。その他最近の取引としては、中古マーケットプレイスであるスペインのWallapop(ワラポップ)が1億9100万ドル(約208億円)を調達し、衣料系に特化したVestiaire Collective(バスティエールコレクティブ)が2億1600万ドル(約235億円)を調達している

ここで興味深いのは、時流なのか、Groverがガジェットのサブスクリプションモデルに風穴を開けたからなのか、同社はこれまで紆余曲折のあった分野で躍進を遂げているように見えることだ。

米国のLumoid(ルモイド)も、ガジェットのレンタルに注目しており、大手小売業のBest Buy(ベストバイ)との契約を結び注目されながらも、サービスを行うのに必要な資金の調達に失敗し、最終的には閉業した。この市場に挑戦しているのはGroverだけではない。たとえばTryatec(トライアテック)Wonder(ワンダー)なども、スタートアップからの技術の挑戦に注目しているようである。

大きな問題は、Groverがそのレンタル、サブスクリプションモデルの市場をこれから見つけられるかどうかではなく、サプライチェーン管理、商品の発送と受け取り、必要に応じた調整や修復、それらにおける強力な顧客サービスを維持できるかどうかの経済性を解消できているかということだ。これまでに何度も見られていたように、あるレベルにおいて良いアイデアと考えられても、実際に実行するとなると非常に難しいということは珍しくない。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Groverサブスクリプションドイツベルリン資金調達レンタル循環型経済

画像クレジット:Grover

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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