ビットコイン開発のど真ん中にいるBlockstreamのサムソン・モウ氏がTechCrunch Tokyoに登壇

11月16日、17日の2日間にわたって渋谷・ヒカリエで開催予定のテック・イベント「TechCrunch Tokyo 2017」の登壇者が決まりつつあるので、順次お知らせしたい。まず1人目は、ビットコインやブロックチェーン関連の開発で知られるBlockstream社のCSO(Chief Strategy Officer)、サムソン・モウ氏(Samson Mow)だ。

Blockstream CSOのサムソン・モウ氏

Bitcoin Coreほかサイドチェーン技術に取り組むBlockstream社

Blockstreamは、ビットコインそのものと言えるオープンソース・プロジェクト「Bitcoin Core」の主要開発者が所属することでも知られる2014年設立のカナダ・モントリオール拠点のスタートアップ企業だ。BlockstreamのCEOであるアダム・バック(Adam Back)博士は、ビットコインのアイデアの根幹にもある「proof-of-work」(Hashcash)を1997年に発明した暗号学者としても知られている。

Blockstreamが開発しているのはサイドチェーン関連のプロダクトだ。ビットコインのような暗号通貨を実現している実体はブロックチェーンと呼ばれる分散型台帳だが、いろいろ制約がある。悪意がある犯罪者集団ですら自由に参加できてしまうネットワークであるのに、台帳の改ざん防止が暗号論的に担保されている、というのがブロックチェーンのブレークスルーだったわけだが、そこにはトレードオフがあった。トランザクション性能があがらず、スケールしないという問題だ。現在、ビットコインによる送金が確実になったと見なされるまでには6ブロックを生成する時間、1時間かそれ以上が必要だ(ビックカメラやメガネスーパーなどのビットコイン決済は少額決済を全手に0承認で即時送金しているので念のため)。

だったらビットコインのチェーンの横に、別のチェーンを接合して、そちらで処理をすればいいじゃないかというアイデアがある。「サイドチェーン」と総称されるものだ。

Blockstreamが開発する「Lightning」は、ビットコイン開発者コミュニティー全体で策定と実装が進んでいる「Lightning Network」(LN)と呼ばれるマイクロペイメントのためのサイドチェーンだ。LNは取引をするユーザー同士が専用のチャンネルを作り、そのチャンネル上で決済を行うというアイデアに基づいている。LN上の一連の決済は、チャンネルを閉じるときなどに、まとめてビットコインのチェーンに書き戻される。LNはラフな合意に基づく仕様があって、実装自体は数種類あるという極めてインターネット的な開発が進んでいる。LNを使うと0.00000001BTC(現在の価格だと0.004円)というきわめて少額の決済がデバイス間で即時に可能となる見込みで、BlockstreamもLNの1つを開発している。

Blockstreamが開発するサイドチェーンには「Liquid」というのもある。こちらは取引所間で流動性を持たせるための「ストロング・フェデレーション」と呼ぶ技術を開発しているそうだ。ビットコイン同様のビザンチン頑健性(Byzantinerobust)を持ちつつ、商用に耐えうるプライバシー(決済するアセットの種類や量が外部から分からない)を実現している、とホワイトペーパーにある。

そうそう、もう1つ、Blockstream関連でぶっ飛んだニュースが8月15日にあった。人工衛星からビットコインのブロック情報を地球上にばらまき続けることで、ネット接続のない地域でもブロックチェーンの恩恵に預かれるようにしようという試みだ。一瞬ネタなのかと思うような話だが、すでに動き出していて、ここからステータス情報をみることもできる。

で、ビットコインに何が起こっていて、今後何が起こるのか?

モウ氏が配っている「UASF」の帽子

さて、Blockstreamのサムスン・モウ氏だが、彼はUASF(User-Activated SoftFork)を強く支持するとした活動で知られている。今年夏の分裂騒動の根底にはハッシュパワーの偏りという問題があった。端的に言えば、ハードウェアに大金を突っ込めば、ビットコインのあり方や未来の方向性に対して大きな声を持ててしまうという問題だ。一部の強大なマイナーたちが自己利益最大化のためにビットコインの仕様を左右してしまうという懸念が出てきた。

個人の利用者にはもはや「投票権」はなくなっているかに思える。そこで使われたのがUASFだった。マイニングをしなくても、自分が支持する仕様(機能)を持つ実装のノードを立てることはできる。そうしたノードがネットワーク全体で増えれば、結果として参加者全体の声が反映された意思決定ができる。UASFの呼びかけは多くの共感者に支持された。それまでマイナーたちが拒否していたSegWit仕様は、こうして有効化されたのだ。ちなみにSegWitは、いまこの記事が出たのとほぼ同じタイミング(日本時間で8月24日)でビットコインのネットワーク上で稼働を始めたということで、関係者の間で、ちょっとしたパーティー気分が広がっている。SegWitは前述のLNを実装するためにも必要な技術ピースだったから、これは大きなニュースだ。

時間とともにハッシュパワーの偏りが起こって、それがコミュニティー運営にとって政治的問題に発展した。そうなる未来をビットコイン発明者のナカモト・サトシは予見できなかったのだろうか?こんなぼくの素朴な質問を来日中だったサムスン氏にぶつけたところ、

「サトシは神様じゃないからね」

という答えと苦笑いが返ってきた。ビットコインには設計・運営上の欠点がある。しかし、UASFを可能にした「version bits」と呼ばれる仕組みが考えられたのは2015年のこと、実際にBitcoin Coreに実装されてリリースされたのが2016年であることを考えると、コミュニティー運営のための仕組み自体も改善を進めていることが分かる。こうした改善は「BIP」(Bitcoin Improvement Proposals)と呼ばれる標準化されたプロセスを通して今も引き続き行われている。

プレイヤーごとに異なる思惑と欲望が交錯するビットコイン。とかく価格の暴騰と暴落ばかりが話題になりがちだが、内部ではもっとダイナミックな開発と変化が起こっている。そうした変化の渦中にいて、ビットコインの明るい未来を信じ、活発に発言をしている人物の1人がサムスン・モウ氏だ。

今後も暗号通貨やトークンエコノミーにおいて、ビットコインは基軸通貨的な役割を果たし続けることになるだろう。その来し方、現在、近未来のことを、サムスン・モウ氏には語っていただこうと考えている。今ならまだ一般チケット4万円のところ、超早割チケット1万5000円が販売中なので、以下のページから参加登録してほしい。

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投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。