フィンテック企業Marqetaの巨額IPOの内実

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(ささやかなお知らせ:来週、6月14日-6月19日は、Exchangeコラムとニュースレターはお休みとなる。ちょっとした休暇をとって新しいアイデアとともに米国時間6月21日から通常サイクルに戻る予定だ)

The Exchangeは、先週初めに、ほぼ強気のIPO市場を調査し、Monday.com(マンデー・ドットコム)とMarqeta(マルケタ)がここ数日でかなり大きなポイントを獲得したことを指摘した。言い換えるなら、ユニコーン市場は適度に健全であり、これは第3四半期の流動性にとっても良い兆候だ。

しかし、今日は広い視野をとる代わりに、Marqetaの公開だけに絞って考えてみたい。フィンテック企業たちにとって、Marqetaの適切な価格設定と堅調な株価推移は歓迎すべき結果だ。しかし、Marqeta自身は、そのデビューをどのように感じているのだろうか?

そのことを知るために、The Exchangeは、IPOの価格が決定し取引が開始された直後に、同社の創業者でCEOのJason Gardner(ジェイソン・ガードナー)氏に話を聞いた。私の親愛なる友人であり、TechCrunchの上司であるHenry Pickavet(ヘンリー・ピカヴェット)を悩ませるためにも、多くの話題をカバーしつつ文字数を抑えられるように、箇条書きで話を進める。

  • ガードナー氏は、Marqetaのロードショー中に、34時間Q&Aを行ったという。彼はそれを気に入っていた。話の詳細は、同社のIPOとはほとんど関係ないが、CEO自身のことを少し語るものだ。同じ13の質問に答えるのに、何時間もの時間をかけている。私なら気がおかしくなってしまうだろう。
  • Marqetaは、価格を高めに設定し、予想以上に多くの資金を調達した。ガードナー氏によると、同社は特に米国以外の市場では、人工的な成長(買収)を追求していくという。それは理にかなった動きだが、ただし彼は技術の質に対しては高いハードルを設定しているという。ガードナー氏は、技術力の劣る企業は買わないという。もし買ってしまったら買収後に再構築をしなければならなくなるからだ。ドライだね。
  • MarqetaはIPOの1年半前から社内で話し合いを始めていたので、公開企業への移行は比較的スムースだった。私の想像では、ここでガードナー氏が言いたいのは、株式公開をするということは、単に会計上の仕事だというだけではなく、文化的な向上にもつながるということだと思う。このことをもう一歩掘り下げたなら、SPACの価値が多少色あせて見えるだろう。
  • 会社が成長し上場したことで、ガードナー氏にとって何が変わったのだろう?彼の視点が、数カ月単位から数年単位へと、より遠くへと広がったということだ。Marqetaがさらに拡大していく中で、この変化は続いていくだろう。

私がこの記事を書いている金曜日(米国時間6月11日)の午後の時点で、Marqetaの株価はさらに6%上昇している。

Embrokerに何が起きた?

金曜日(米国時間6月11日)の朝に報じたように、世界のインシュアテック市場は、米国でも欧州でも大いに盛り上がりを見せている。その証拠を見つけるのは難しくないが、インシュアテック市場の現在の状況をよく表しているのが、先週の初めに行われたEmbroker(エンブローカー)の1億ドル(約109億7000万円)のラウンドだ。

Embrokerは、サンフランシスコに拠点を置くインシュアテック企業で、企業向けの保険を販売している。その商品は、サイバー保険、ビジネスオーナー保険、プロフェッショナル損害賠償などだ。おそらくそれは、最近、巨額のラウンドを調達したビジネスに特化した別のインシュアテックプロバイダーNext Insurance(ネクスト・インシュアランス)と通じるところがあるのかもしれない。

関連記事:中小企業向け保険テックのNext Insuranceが276.8億円を調達、1年足らずで評価額を4428億円超に倍増

インシュアテックという大きなカテゴリーに魅せられたExchangeのスタッフが、Embrokerのスタッフにいくつかの質問を投げかけてみた。ここでは、メールで行われたQ&Aを紹介する(太字はTechCrunch側。各Q&Aはわかりやすくするために多少編集されている)。

高いレベルから見たときに、Embrokerが提供するビジネス保険商品の損害率(ロスレシオ)は、私たちがよく知っている消費者向け自動車保険の損害率と比べて良いのか、悪いのか、それとも同等なのでしょうか?

はい、当社商品の損害率は、消費者向け自動車保険や家財保険などの他の保険商品に比べて大幅に優れています。また、これまでの当社の損害率は、他の確立された中小企業向け商品と比較しても良好です。

新ラウンドの評価額(バリュエーション)を交渉する際に、最近のインシュアテックのIPOが価格決定の議論に取り上げられたのでしょうか?

最近のインシュアテックのIPOは、公開市場での評価額の基準を提供していて、これはこの分野全体にとってすばらしいことです。しかし、私たちはそれを直接の比較対象としては使用しませんでした。なぜなら当社の損害率、リテンション、セールスとマーケティングの効率性は、現在公開している他のインシュアテック企業よりも大幅に優れているからです。

Embrokerが「サイバーリスク保険」を提供していることに興味を持ちました。ランサムウェアに対する市場の関心が高まっている中で、その製品の需要も以前より高まっているのでしょうか?また、それは社内の他の保険ラインに比べて経済的に利益を生むものなのでしょうか?

最近、注目を集めているサイバー犯罪に対する保険金請求を考えると、サイバー犯罪への対応は需要面でも価格面でも急速に成長している保険種目であると考えられます。保険金請求は今後も増加すると思われますが、サイバー領域に関する当社のモデルは、リスクを適切に評価するのに効果的であり、当社のプラットフォームへの投資によって、今後もそのような評価が可能であることを期待しています。

特にスタートアップ企業向けには、技術者向けのE&O(職業賠償責任)保険とサイバー保険をセットにしています。これは多くの創業者が独立したE&Oもしくは迫りくる脅威に対してサイバーポリシーを契約しているからです。

最後に、マーケティング費用がどのように推移しているのか気になります。Embrokerがまだ小さかった頃と同じように、効率的なセールスとマーケティングが行えているでしょうか?

マーケティング費用は毎年大幅に増加していますが、ターゲットとする市場でのシェアが拡大するにつれて、売上高に対する比率は一貫して低下しています。これによって、オーガニックな成長が促進されています。例えば、当社は現在、米国で活動中のVC支援企業の多くから保険をひきうけています。このことで多くの企業から資金調達の際に、当社に保険を依頼しようと思ってもらえるのです。

確かに言葉は多い。だが、このかたまりの中に、重要な情報が詰まっているのだ。Embrokerが自社の経済性をほとんどの上場企業よりも優れていると考えていることは注目に値する。この事実は、私たちがこれまで見てきたいくつかのIPOによって想像するようになったきたものよりも、インシュアテック企業間にはより広い経済的広がりがあることを示唆している。

また、Embrokerは、少なくともセールスとマーケティングの支出に関しては、営業レバレッジを持っている。それは、インシュアテック市場はインテリジェントなビジネス運営が不可能なほどには、混み合っていないことを示しているのかもしれない。もちろん厳しい事態の変化があっても、Tiger(タイガー)やその他からの数億ドル(数百億円)の追加投資で解決できるはずだ。

最後になるが、OKRソフトウェアに関して(詳細はこちら)、Koan(コーアン)は先週、82%の顧客増を報告した。混沌とした市場の中で頑張っている企業にとって、これはすばらしい結果だ。見るべきスタートアップだと思う。

では、1回お休みの後にまた。

カテゴリー:フィンテック
タグ:The TechCrunch Exchangeインシュアテック

画像クレジット:Nigel Sussman

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

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