フェイスブックがニューヨーク大学研究者からのアクセスを遮断、議員から反発を受ける

Facebook(フェイスブック)は米国時間8月3日、2人の学術研究者のアカウントを停止し、世界最大のソーシャルネットワーク上における政治広告や誤報を研究する力を奪った。

Facebookは、2人の研究者が「不正なスクレイピング」を行い、同社のプラットフォーム上でユーザーのプライバシーを侵害したと非難した。しかし、この主張に対し、Facebookの多くの批判者は、透明性に関する研究を阻止するための薄っぺらい口実だと酷評している。

Facebookが行動を起こした相手は、ニューヨーク大学の「Cybersecurity for Democracy(サイバーセキュリティ・フォー・デモクラシー)」プロジェクトに所属する著名な研究者で、以前からFacebookと対立していたLaura Edelson(ラウラ・エデルソン)氏とDamon McCoy(デーモン・マッコイ)氏の2人。この措置により、2人は「Ad Library(広告ライブラリ)」(これまでFacebookが行ってきた唯一の重要な透明性確保の取り組みだ)にアクセスできなくなり、さらにFacebookのモニタリングサービス「CrowdTangle(クラウドタングル)」から得られる人気投稿に関するデータも利用できなくなった。

Facebookとエデルソン氏やマッコイ氏との間には、過去に因縁がある。同社は2020年の米国大統領選挙の数週間前に、2人が作成した「Ad Observer(アド・オブザーバー)」と呼ばれるオプトインのブラウザツールを無効にして調査結果も公表しないように求める停止命令を送っていた。Ad Observerは誰でもインストールできるブラウザツールで、Facebookを1兆ドル(約110兆円)規模の企業に成長させた広告が、誰をどのようにターゲットにしているかを、研究者が知ることができるようにするものだ。

「この数年間、私たちはこのアクセスを使用して、Facebook広告ライブラリのシステム上の欠陥を明らかにし、選挙システムに不信感を植え付ける多くの政治広告の誤報を特定し、Facebookが党派的な誤報を明らかに増幅させていることについて調査してきました」と、エデルソン氏はTwitter(ツイッター)で述べている。

「Facebookは、私たちのアカウントを停止することで、これらすべての研究を事実上終わらせました。また、Facebookは、私たちのプロジェクトを通じてFacebookのデータにアクセスしている他の20数名の研究者やジャーナリストたちへのアクセスも、事実上遮断しました。それらの中には、Virality Project(バイラリティ・プロジェクト)と共同で行っているワクチンの誤報に関する調査や、私たちのデータを利用している多くのパートナーが含まれます」。

この事件をきっかけに、Facebookがより危険な行動におよぶ可能性において、透明性よりも不透明性を重視する姿勢が改めて批判されることになった。

翌8月4日になると、Facebookの行動は一部の連邦議会議員からも注目を集めた。民主党のRon Wyden(ロン・ワイデン)上院議員(オレゴン州選出)は、Facebookがユーザー保護の名目で研究者を罰する決定を下したことについて、同社が習慣的にプライバシーを侵害してきた長い歴史に照らし合わせて批判した。また、ワイデン上院議員は、Facebookが研究者のアクセス権を剥奪したのは、過去にユーザーのプライバシーを侵害したとして連邦取引委員会から出されたプライバシーに関する命令を遵守するためであるという同社の主張を「はったり」であると言い放った。

ロン・ワイデン
長年にわたってユーザーのプライバシーを侵害してきたFacebookが、その問題点を暴露する研究者を取り締まる口実として、プライバシー侵害という言葉を利用するのは、馬鹿げています。私はFTCに、この言い訳がインチキであることを確認するよう求めました。

ラウラ・エデルソン
今夜、Facebookは私のFacebookアカウントと、ニューヨーク大学のチームであるCybersecurity for Democracyに関連する数名のアカウントを停止しました。これにより、私たちはFacebookのAd LibraryデータやCrowdtangleへのアクセスができなくなりました。

民主党のマーク・ワーナー上院議員(バージニア州選出)も、Facebookの最新の論争について、この決定を「深く憂慮すべきもの」と意見した。ワーナー上院議員は、独立した研究者たちが「有害で搾取的な活動を明らかにすることで、ソーシャルメディアプラットフォームの品位と安全性を改善し続けている」と讃えている。

ワーナー上院議員は「詐欺や不正行為の主な原因となり続けているオンライン広告の影の世界に、より高い透明性をもたらすために、議会が行動を起こすべき時はとっくに来ています」と語った。

Firefox(ファイヤーフォックス)の開発元であるMozilla(モジラ)は4日、Ad Observerを擁護し、同社のストアフロントでこのブラウザ拡張機能を推奨する前に「コードレビューと同意フローの検証の両方を行って、2回レビューした」と強調した。Mozillaのチーフセキュリティオフィサーは、ブログ記事の中で、Facebookの主張は「まったく筋が通っていない」と述べている。

同日には、多くの独立した通信社、研究者、誤報専門家もFacebookの決定を非難した。The Markup(ザ・マークアップ)のJulia Angwin(ジュリア・アングイン)氏とNabiha Syed(ナビハ・サイード)氏は「Facebookのプライバシーに対するぞんざいなアプローチが、同社がこれほどまでに支配的になることを可能にしました」と、共同声明の中で書いている。

「しかし今、独立した研究者たちが、同社のプラットフォームとその影響力を調べようとすると、Facebookはユーザーのプライバシーを盾にして隠れようとしているのです」。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:FacebookSNS透明性ニューヨーク大学プライバシーFacebook広告ブラウザ機能拡張

画像クレジット:TechCrunch

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

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