ブロックチェーンで不動産売買が変わる

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編集部記:Don Oparahは Venture AviatorのCEOを務めている。

専門家はブロックチェーン技術による改ざん不能なデータ記録の活用でより安全になるニッチな市場をいくつか挙げている。例えば、 国際間のアート作品の取引、医薬品や高額商品の取引などだ。しかし不動産市場に与える影響はさほど注目されていない。

HomeInsightによると、一般的な住宅保有者は5年から7年で自宅を売却し、個人は一生の中で平均11.7回の引っ越しをするという。普通のアメリカ人にとって国際間におけるアート作品の取引が変わったからと言って何か影響があるわけではないだろうが、不動産市場の変更は毎年何百万人に直接的な影響を及ぼすことになる。

住宅を購入することは、多くの人にとって人生最大の買い物だろう。しかし、これまで購入までのプロセスを早めたり、購入者、貸出主、住宅保有者にとって安全な取引をしたりするためのテクノロジーの進化はほんの少ししか見られなかった。この記事ではブロックチェーンが不動産市場をディスプラトする3つの面を検討する。システムを加速させ、透明性を担保し、関わる全員にとって安全な投資ができるという点だ。

プロセスを加速させる

2014年の「鈍い」販売の後、住宅価格は急上昇し、2015年の秋には何人かの専門家が不動産市場はバブルに突入しているとして、グレート・リセッション(訳注:2008年の世界的な景気後退)までの急上昇よりさらに酷い状況だと警告するほどだった。住宅への需要はこれまで以上に高くなってるが、新しい住宅建設は少ないため、今ある物件価格が高騰している。2015年8月には住宅販売の一時的な低下があったものの、専門家は今後も住宅価格は上昇し続けると予想している。

販売住戸が足りていない状態で、アメリカの不動産市場がバブルにあるかどうか判決を考えている間にも、購入者と販売者はどちらもなるべく早く書類にサインをして、取引を完了させたいと願っている。しかし、古典的な不動産市場に「簡単で早い」というイメージはない。不動産取引はいつも複雑で面倒なものなのだ。

国の政府機関は不動産の取引や権利の引き渡しに数多くの規制やコストを課し、システムの速度が遅くなっている。設備や住宅全体の検査を含む販売時の義務や多様な販売制限により、購入者と販売者が取引の締結に合意していたとしても、住宅取引はかたつむりほどのスピードしか出せない。

古典的な不動産市場に「簡単で早い」というイメージはない

ブロックチェーンが地域の定める販売制限に与える影響はわずかだが、販売プロセスの経済的な認証の部分については大きな影響を与えるだろう。現在、多くの購入者と販売者は双方が取引を確実に遂行し、詐欺のリスクを低減させるためのセイフティーネットとしてエスクローや第三者機関による保証を利用している。

第三者による保証にはコストが伴うことも見過ごせない重要な要素だ。通常、物件総額の1%から2%かかる。そして、時間もかかるものだ。ブロックチェーンを使えば、仲介者(ここではエスクロー企業)を効果的に抜くことができる。ブロックチェーンの分散型データベースを使って認証を行い、第三者機関の保証のために費用をかけずとも、すぐに物件保有者は合法的に所有権を引き渡すことができるようになる。

詐欺のリスクを低減

これまで購入者と販売者がエスクローや第三者機関による保証を利用してきた主な理由は不動産詐欺に遭って損害を負うリスクを減らすためだ。

不動産詐欺は毎年何も知らない購入者に何百万ドルの被害を与えている。購入者と販売者が早急に取引を完了させたいという思いから、踏むべき安全手順を飛ばしてしまうことで被害が悪化している。さらにインターネットとコンピューターテクノロジーの進化で偽造書類や偽物の物件の告知が容易になっている。

「違う人物を物件所有者であるかのように装う偽造書類の作成が唯一の問題なのではありません」とサンフランシスコのBarbagelata Real EstateのオーナーであるPaul BarbagelataはMarketWatchに話している。「テクノロジーが進化し、インターネットを使って公証人の判子や物件の譲渡証明書の複製を作ることがこれまでより容易になってしまいました」。

最も頻繁に起きる不動産詐欺の1つがレンタル詐欺だ。

ForbesのMorgan Brennanが記事で取り上げたように、最も頻繁に起きる不動産詐欺の1つがレンタル詐欺だ。これは詐欺師が本当に掲載されている物件情報の詳細と写真をコピーして、別のサイトにあたかも自分たちがその物件売買のエージェントであるかのように装うものだ。なりすまし犯は、興味を持った購入者から価格の前払いを要求、あるいは安全な取引のためと偽りデポジットや「サービス料金」を請求する。購入資金があることを証明するために第三者(これも詐欺師の一員)にいくらか送金することを要求する場合もある。被害者が送金した資金を取り戻せることは稀だ。

送金者と受け取り主のログ、そして「デジタル上の物件所有権」を保存する100%改ざんすることができないリソースを持つブロックチェーンで効果的に物件の偽造証明書や詐欺師による物件掲載を過去のものとして葬ることができるだろう。固有の「デジタル上の物件所有権」を複製することはほぼ不可能となり、システムの中で1つの物件に直接紐付くようになる。詐欺師は保有していない物件を販売したり、告知したりすることが実質不可能となる。

完全な透明性を提供

数少ない一部の人たちだけが住宅を即時に購入する。そして購入者がモーゲージやローンに適格かどうかを証明するのは、管理体制と事務手続きの問題で苛立つほど遅く時間のかかるものだ。インターネットにはこのプロセスを早めるための情報で溢れているが、ブロックチェーンならそれを解決できるだろう。

ブロックチェーンを使って、人々は不動産、そして購入者と販売者自身にデジタルIDを付ける。これによりモーゲージのプロセスと所有権の受け渡しはスームレスにつながり、プロセスにかかる時間を大幅に短縮できるだろう。

購入者の場合、彼らのクレジット履歴と収入もすぐに認証できるようになり、銀行や弁護士、不動産仲介事業者へ手続きに行く時間を短縮できる。住宅の保有者は物件を所有していた期間などを含め、まとまった記録でその物件を所有していることを証明することができる。物件の所有者の履歴、修繕や改装箇所をリスト化した書類、住宅の保有と管理に付随する予想コストが紐付いたデジタル上のアイデンティティーを物件に紐付けることができるだろう。

一晩でこれらの変化が起きることはない。ブロックチェーン技術はまだ誕生したばかりで、革新的で先進的な考え方を持つ不動産企業が先陣を切って実例を生み、ブロックチェーンが取るべき正しい道であるとマスを説得しなければならない。しかし将来的に、この新しく安全なテクノロジーは物件の購入や売却、モーゲージや住宅ローンの申請の手間を減らし、そのプロセスも安全で透明性の高いものにするだろう。そして人々は自分たちと家族のために新しい家庭を築くという最も重要なことに注力できるようになる。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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