ブロックチェーンアプリとユーザー繋ぐ“ポータル”へ、ブラウザ連動型ウォレット開発のスマートアプリが資金調達

昨年頃から、TechCrunchの記事内でも「Dapps」というキーワードが登場する機会が増えてきた。

Dappsとはブロックチェーンを利用した分散型アプリケーションのことで、仔猫を育成・売買する「CryptoKitties」やモンスターを捕獲したり交換して楽しむ「Etheremon」といったゲームが有名どころ。もちろんゲームに限った話ではなく、たとえばLINEは自社のトークンエコノミー構想の中でQ&Aやグルメレビュー、未来予想など5つのDappsサービスを開発中であることを発表している。

今回紹介したいのは、そんなDappsとユーザーの距離を繋ぐ“ブラウザ連動型ウォレット”を開発するスマートアプリだ。同社は10月31日、セレスを引受先とした第三者割当増資により5000万円を調達したことを明らかにした。

なおセレスとは業務提携も締結。「くりぷ豚」(セレスとグラッドスリーが共同運営)においてメディアパートナーシップ連携を結んでいる。

スマホからDappsにアクセスできるブラウザ連動型ウォレット

スマートアプリが開発している「GO! WALLET」はイーサリアムに特化したブラウザ連動型ウォレット。従来はPCブラウザを通じて利用していたイーサリアム上で動くゲームやDappsアプリに、スマホからアクセスできるブラウザ機能を備える。

現時点ではCryptoKittiesやEtheremon、くりぷ豚を含むゲームのほか、複数の分散型取引所やDappsに関する情報を扱ったメディアなどが掲載。ユーザーはGO! WALLETアプリ内のブラウザ上から各種Dappsを楽しめる。

ウォレットとしては個人情報を登録せず匿名で利用できる点がひとつの特徴。利用のハードルを下げる一方でセキュリティ面を考慮して、ウォレットの秘密鍵はサーバーにも格納されず、スマホ端末アプリ内のみに保存される仕組みを採用した。

「GO! WALLET」のブラウザからアクセスできるDappsと、ブラウザから「くりぷ豚」を起動した際の画面

ブラウザ機能を持つウォレットアプリ自体はすでに出始めてはいるが、GO! WALLETでは多様なコンテンツを紹介する機能やブラウザの操作性を磨きつつも、それに留まらない仕組みを加えていく計画のようだ。

「コンテンツを紹介するブラウザ機能だけではなく、昔でいうiモードのようなプラットフォームをブロックチェーンベースのアプリケーションの世界で実現したいと思っている。その取っ掛かりとして最初に作ったのがウォレットアプリ。このアプリを引き続きブラッシュアップしながらも、連動したさまざまなサービスを作っていく」(スマートアプリ代表取締役社長CEOの佐藤崇氏)

Dappsの成功事例を作る

佐藤氏はモバイルサービスの黎明期だった2003年にビットレイティングス(その後アクセルマークに吸収合併)を創業。モバイル検索サービス「froute.jp」を含む複数のサービスに関わってきた人物だ。同社を離れた後にモブキャストに参画し、取締役としてプラットフォーム事業を推進。2015年にスマートアプリを立ち上げている。

同年6月にEast Ventures、山田進太郎氏、藪考樹氏などから3450万円を調達。最初の事業としてスマホ向けのアプリを紹介するメディア「AppCube」をリリースした。佐藤氏いわく「将来的にはサードパーティのアプリストアを目指したサービス」だったが、AppleやGoogleの公式ストアの機能強化が進み、デベロッパーやエンドユーザーからも強いニーズがなかったため2016年に撤退。そこから試行錯誤を続けていたという。

そんな佐藤氏がブロックチェーンに着目したのは2017年のこと。ブロックチェーンベースでアプリが作れることに関心を持ったことに加え、かつてモバイル業界で一緒にチャレンジしていた知人たちが相次いでこの領域に参戦したこともきっかけとなった。

「その中でWebとブロックチェーンを繋ぐ仕組みをベースとしたサービスを作るのがいいのではと考えた。PCでは『MetaMask』がすでに存在し、これと連動したサービスが出てきているけれど、当時スマホでやってるところはほとんどなくて。企画の整備を始めていた頃にCryptoKittiesが登場したこともあり、このマーケットはやっぱりくると感じてリソースを集中した」(佐藤氏)

ローンチを間近に控えた頃には同様の特徴を持つ「Trust Wallet」がBainanceに買収されるというニュースが話題になったりもしたが、まだまだプレイヤーは少なく、そもそもDappsの数自体が少ない状況。まずはDappsの市場を作りたいという思いで10月にGO! WALLETのiOS版をローンチした。

今回セレスとタッグを組むことに至ったのも、そのような背景の中で「自社単体でやっていてはなかなかスピード感が出ないと感じた」ため相談しにいったことがきっかけだ。

「サービス自体を洗練させて、GO! WALLET上でいろんなアプリケーションが展開できるようなデベロッパーを増やしていく必要がある。そのためにはどんどん送客していって、きちんとマネタイズできた成功事例を作っていかないと市場は大きくならない」(佐藤氏)

ユーザーとコンテンツを繋ぐポータルへ

今回佐藤氏に話を聞いていて興味深かったのが、現在のDapps市場がガラケーが主流だった初期のモバイルインターネット領域に似た状況だと表現していたことだ。

「当時は勝手サイト(非公式サイト)でサービスを作っていると、『砂漠に草を植えて何やっているの』と言われるような時代。多くの企業は着メロのコンテンツなどを作り、iMenuを通じて配信するのが主流だった。ただそこから少しずつ(勝手サイトを作る)コンテンツプロバイダーが登場することでマーケットが拡大していった」(佐藤氏)

これは黎明期のソーシャルゲーム業界にも似ていて、現在のDappsについてもまさに市場が拡大する大きなうねりの過程にあるのではないかと言う。

今後スマートアプリではパートナープログラムを通じて引き続きメディアやDappsデベロッパーとの連携を深めていくほか、ユーザーが今以上にカジュアルにDappsを使えるような取り組みや機能改善を行っていく方針。一例としてユーザーにトークンやアイテムを配布する仕組みも検討するという。

「(Dapps市場においては)まだまだユーザーとコンテンツが繋がる仕組みが足りない。ウォレットとしては安全性ももちろん大事ではあるが、いろいろなコンテンツを遊べるとか、操作性が優れているなどそちら側にフォーカスすることで、新たな市場が切り開けるのではないかと考えている」(佐藤氏)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。