プライバシーは「コモンズ」である

「コモンズ(入会/いりあい)とは、ある社会のメンバー員全員が利用できる文化的および天然の資源のことであり」、とWikipediaは言う、「共有であって私有ではない」。われわれは広告テクノロジーと共生関係にある監視資本主義の時代に生きている、と私は言う。つまり、プライバシーは単なる美徳でも価値でも商品でもない:それはコモンズである。

あなたは不思議に思うに違いない。プライバシーは〈定義からしても〉プライベートに所有されるものではないのか? どこかの13歳(と彼女の親権者)が彼女のプライバシーをFacebookに月額10ドルで売ると決めたことが、あなたや私、ましてや社会全体に何の関係があるというのか? たしかに、ティーンエージャーのルート証明を求めるのはいかがわしいと思うだろうが、もし〈大人〉が自分のプライバシーを売るとしたら、それは純粋に本人だけの問題ではないのか?

答は、問題ない、正確には、問題とは限らない。数が多くなければ問題はない。プライバシーの商品化が社会全体に影響を与えはじめなければ問題なない。プライバシーは投票に似ている。個人のプライバシーも個人の投票も、ふつうは本人以外にはほとんど無関係だが、個人のプライバシーが〈蓄積〉したり、なくなることは、個人の投票が蓄積するのと同様、とてつもなく大きな影響を及ぼす。

以前私はこう書いた。「こうした情報の蓄積は、蓄積された情報の中身、そして蓄積されていること自体が、『個人のプライバシー』問題なのではなく、大きな公共セキュリティの問題なのだ。これに関し、少なくとも3つの問題がある」。

  1. プライバシーの欠如は個人の思考の不一致に抑制効果をもたらす。プライベート空間とは社会の実験用ペトリ皿のようなものだ。プライバシーがないことは社会が認めないものの実験は一切できないことを意味している。違法である場合はなおさらだ。(ちなみに私の最近の記憶の中には、マリファナや同性愛のように、「今は違法」という長い長い歴史が、社会の権威主義が薄れるにつれて「明日は容認」」に変わりつつあるものが含まれている)。
  2. もしプライバシーが商品になると、金持ちだけのものになり、その金持ちはこの情報を非対称に利用して、現状を打破しようとする人々を脅したり迫害して、現状維持しようとする。
  3. 蓄積したプライベートデータは、大規模な世論操作に使われることが可能であり、おそらく使われるようになる。ケンブリッジ・アナリティカはとんでもない詐欺師だったが、そう遠くない未来には、彼らがクライアントに約束していたことが現実になりかねない。François Chollet[フランソワ・ショレ]がこう書いている、「AIに関して本当に心配していることがあるので注意を喚起したい。AIによって非常に有効かつ非常にスケーラブルな人間行動の操作が可能になり、企業や政府による悪意の利用の恐れがあることだ」

われわれのプライバシーは〈個別〉ではほとんど意味を持たないかもしれないが、〈集合〉になると決定的に重要なコモンズになる、と結論を下してよいかもしれない。何であれ個人のプライバシーを食い荒らすもの、とくに大規模なものは、そのコモンズにとって脅威だ。

私は、一人の人間がすべての行動のルート証明を月額20ドルでFacebookに売ることが、大きな社会問題になるとも、そうすることが倫理的に間違っているとも言っていない。個人のプライバシーを売ることは、まったく筋の通った正当な個人の判断かもしれない。公園で牛に牧草を食べさせることが、牛にとっても飼い主にとっても大いに意味があるのと同じように。

私が言っているのは、プライバシーを安く売ることは、社会にとっては、無償で差し出すことと変わらないということだ。実際には、もしプライバシーの商品化がコモンズの崩壊を加速するのであれば、むしろもっと悪い。同様に、繰り返しになるが、個人の投票は事実上あまり重要になることはないが、一企業が市民の投票権を月額20ドルで買ってもいいと思うだろうか? もしわれわれがプライバシーをコモンズとして守りたいなら、いや実際守りたいのだから、それを監視資本主義者に売ってもよい個人資産などと考えることはできない。プライバシーは、そしてわれわれは、それよりずっと大切なのだから。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

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TechCrunch Japan

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