プレシード投資、5つの誤解

【編集部注】著者のAnamitra Banerjiは、Afore Capital共同創業者である。

ここ数ヶ月の間にプレシード投資(シードステージよりもさらに早い段階での投資)が増えてきている。創業者たちがシードステージで求めるものと、マーケットが提供するものの間にギャップが広がっているためだ。とはいえプレシードを巡る話題は、まだまだ初期投資に関わる会社や投資家に対する偏見と、誤った仮定に基いている。

こうした誤解を打ち破るために、プレシードに関して良く耳にする5つの誤解のリストをまとめた。明日の偉大な企業たちのアイデアを支える私たちの情熱が、どのようなものかを共有しておきたい。

誤解1。プレシード投資家はアイデアに投資する(その他はあまり気にしない)

プレシード投資という言葉は、簡単な取引という印象を与える。素晴らしい実績を持つ創業者がアイデアを思い付き、投資家が小切手を書く、そしてもし上手く行かなくてもあまり問題にならない、なぜならそれは実験だから…。

ここでの誤解は、企業が取引データを持っていないので、プレシード投資家たちは、調査する材料があまりなく、深い評価を行うことができない、というものだ。このようなまるでゾンビのような取引は、現実とはかけ離れている。

Aforeのようなプレシード機関が行うファンドは、プレシードを他の投資と同じものとして扱う。ステージに応じた固有のリスクがあり、それを緩和できると考えている。創業者の信頼性と市場機会を評価するだけでなく、私たちは製品と流通という2つの特定の分野に焦点を当てる。私たちが興味があるのは、ユニークな本質を備えた製品と、斬新な流通アプローチであり、両者が短期間のうちにどのように機能するかを知りたいのだ。私たちは、これまでに創業者たちがその仮説を検証するために、どのような実験を行ってきたのかを調査し、「知りません」という答にたどり着くまで調べ続けるのだ。プレシードはデータとしての魅力は持っていないかもしれないが、その思考には多くの魅力がある。

誤解2。プレシード企業は、実際のシードラウンドを行うことができなかった連中だ

また世の中にありがちな誤解は、プレシード投資を求める企業は、単純にシードラウンドを行うには力不足なので、より小規模なラウンドを行うために、そのプレゼンや野望を削らなければならない、というものだ。この誤解によって、投資家たちがプレシードに関わるチャンスが奪われている。こうした不利な選択をしているのは、企業がより大きなラウンドを狙うには力不足だということを知っているからだ、という誤ったメッセージが伝わってしまうのだ。

プリシード資金を調達することで、製品の製造と流通を助け、最小限の資金で早期の支援を提供する。創業者たちは、シード投資家たちが最初の小切手を書くのではないということを徐々に認識し始めている。多くのシードキャピタルが登場するのは、企業の設立後平均2.4年である。Aforeは、プロダクト/マーケットフィット(プロダクトとそれを必要とするマーケットが存在すること)を実現する前の企業に資金を提供する、新しい種類のプレシード投資家の一員だ。まだプロダクト/マーケットフィットがなく、規模拡大の能力も持っていないスタートアップたちは、シード資金に対応する準備が整っていない。

プレシード投資家たちは、これまではもっと遅くなってから機関資本の導入を行うようなケースに資金提供を行い、友人や家族からの資金調達を補完するような役割を果す。プレシード創業者たちは、50万ドルほどを調達するが、それは自己資金での開始よりは優れており、大きなシードラウンドを行う際の、高バリュエーションと希釈化の可能性を排除する。

誤解3。プレシード投資は、オプションを増やしているだけだ

また別の誤解は、これらの最も初期段階に対する企業後援者たちは、実際には、彼らが何をしているのかを知らず、自分の投資がどうなるのかも気にしないないような、カジュアルな投資家であるというものだ。オプションベット(還付額の決まった少額ギャンブル)と同様に、そうした投資家は複数のオプションにお金を分散することで、失うものを少なくしているということだ。

オプションベットの対象に選ばれたい創業者はいないし、創業者たちも自分たちを高優先度で扱わない投資家を選ぶべきではない。Aforeのようなプレシードファンドは、ポートフォリオの成功によって生死が決まるプレシードに集中する、積極的な投資家たちだ。プレシード投資は、シードやラウンドAを先取りするためのオプションベットではない。彼らにとっては生きるための糧なのだ。

プレシードは、Bee Partners、K9、Pear、Precursor、Notation、Wonderのようなプレシード投資会社を含む、深く思慮深いコミットメントを行う機関投資家たちで構成された、急成長中のセグメントである。PitchBookやNational Venture Capital Associationによれば、市場のニーズをさらに反映して、2011年以降での企業に対する100万ドル以下のファンディングは減っている。

誤解4。プレシード投資は流行に過ぎない

プレシード投資なんて一時の流行りで、すぐに標準的なシード投資に吸収されてしまうに違いないという声は多い。これは、プレシードが、強気な投資市場のせいで急に現れただけだ、という不正確な信念に基く考えだ。

プレシードステージの企業は、シーズステージの企業とはかなり異なって見える。なぜなら、彼らは多くの支持層を持たず、収益もなく、プロダクト/マーケットフィットも実現していないからだ。そしてシード投資家たちは、そのレベルのリスクは受け入れ難い。コホート分析、正確なLTV/CAC比率、および販売ファネルをしっかりと押さえている企業と比べてしまうと、支持も収益もない企業に投資することは難しい。このリンゴとオレンジの比較(本来比べられないものを比べること)の下では、シード投資家たちは、プレシードに投資することはできないのだ。

もう1つの要因は、シードファンドの規模が大きくなっていることだ。ファンドの大きさが拡大するにつれ、シード投資家たちはより大きな金額の小切手を切ることを強いられる。いまやシードラウンドの規模は500万ドルに近付いている。パートナーの時間は、ファンドの大きさと比例しては伸びないことを考えると(まあイーロン・マスクは一日30時間投資するそうだが!)、シードファンドにとってプレシードサイズの50万ドルの小切手を切るのは簡単ではない。よって彼らはその時間と注目を、彼らのサイズに相応しいものへ注ぐようになるのだ。

機関投資家たちが、プロダクト/マーケットフィットに先んじて「最初の小切手」を切る意欲、経験、そして能力がある限り、プレシードラウンドが必要となる。

誤解5。プレシードファンドは本物の資金調達を実行できなかった奴等だ

プレシードステージに焦点を当てたVCファンドについての誤解も非常に多い。きっとこうしたことを耳にしたことがあるだろう:プレシードファームが自分たちをそのように位置付けているのは、より大きな資金調達を行うことができないからだ。彼らは本当はシードやシリーズA資金調達を行いたいのに、そうすることができなかったのだ。あるいは、そのような早期ステージ企業に投資したのは、彼らの本当の望みではなかったのだ、などなど。

しかし私の経験はそうは言っていない。私たちと組むパートナーたちは皆、早期ステージファンド環境におけるギャップの出現と同様に、ベンチャートレンドを早期に捉え、起業家としてそれを活用している。

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(翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

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