プレゼン資料コンサルに550万円を支払うべきか

ベンチャーキャピタル(VC)関連のツイートで、常軌を逸していてあり得ないと思えるようなコメントや声明を見かけることがある。そういうコメントに接すると、間違いに違いない、間違いでなければならないと思ったりする。Primary Ventures(プライマリーベンチャーズ)の投資家、 Jason Shuman(ジェイソン・シューマン)氏のコメントがその例だ。最近のシリコンバレーで、プレゼン資料のアドバイスにかかる料金についてコメントした。

彼の悲しい叫び声が聞こえるようだ。「心が折れる音がした」(シューマン氏は叫ぶような人ではないので気にしないでほしい)。確かに、多くの創業者がバブルについて心配している昨今、モノの価格はこれまで以上に高くなっている。最近にいたっては、すべてが少し狂っているように見える。「PowerPointファイルとちょっとした『考察』に数万ドル(数百万円)の価値があって、資金調達のタームシートをまとめるのに必要だ」というのは正気の沙汰ではないとも思える。

実際にはそれだけの価値がある。控えめに言っても、それだけの価値はあり得る。先週、「寄生虫コンサルというスタートアップが陥る罠を回避する方法」というタイトルの記事を書いた人間としてそう言わせてもらう。

間違いないのは、すべてのプレゼン資料コンサルに最高の価値があるわけではない。ニューヨークのウェストビレッジにあるすべてのクロワッサンに10ドル(約1090円)の価値があるわけではないのと同じだ。ただ一部の選りすぐりのコンサルは、彼らが要求する金額に値すると言える。

最高のコンサルは、WeWorkの壁に塗る石膏のような贅沢品ではなく、スタートアップに投資すべき重要なツールだ。スタートアップの仮説、製品、チーム、市場をきちんと説明できる形に落とし込むことは、本を読んだり、創業者の友人の資料をスキャンするだけでは学ぶことのできない質的なスキルだ。  1枚のスライドが間違っていたり、最悪の場合、箇条書きが1つ間違っているだけで、プレゼンの場で30秒以内にすべてが吹っ飛んでしまう可能性があるのだ。

信じてほしい。筆者はかつてVC投資家として、1つの文に固執していた。創業者の生涯をかけた仕事を会社という形にして、さらにそれを数枚のスライドに要約する過程で、私はたった8つの単語にこだわったことがあった。その8つの単語は意味をなしていなかった。何かが意味をなさないと、情熱と自信はすべて崩壊してしまう。8つの単語には間違って選んだ動詞と形容詞が含まれていた。

単に「良い」プレゼン資料コンサルは資金調達でわずかに影響力を発揮するにすぎないが、「スーパースター」は優れたタームシートを手に入れるだけでなく、スタートアップの軌道全体を根本的に変えることさえある。賭金の違いが結果を左右する。

もちろん、これができるのはプレゼン資料コンサルだけではない。良いPRコンサルなら、誰よりも優れた説得力で物事を推進できる。良いセールスコンサルは、創業初期に顧客を確保し、秩序だった清算か大規模なシリーズAに進むかの違いを生み出せる。良い製品マーケティングスペシャリストまたはプライシングのエキスパートは、潜在顧客を実際の顧客に転換し、解約率も減らす。

現在の創業者にとって難しいのは、シリコンバレーが十分に成熟した結果、こういったすべてのコンサルが利用できることだ。押し売り、ペテン師、資金はわずかなのになぜか羽振りの良いグルメ、魅力的なプレゼン資料で身を覆い隠している愚かなピエロがいる。

だが、プレゼン資料にアドバイスするサービスの市場が拡大した結果、スーパースターと呼べる人が市場に現れたのは確かだ。平凡な人が1年かかって提供するよりも多くの価値を1〜2週間で提供できる人々がいる。

創業者としてのあなたの仕事は、そういうダイヤモンドを絶えず探し、見つけたらどんなにコストがかかっても、あなたのアイデアに沿って彼らに働いてもらうことだ。場合によっては正気とは思えないコストであってもだ。

現在のハイテクスタートアップの特徴は、スーパースターという地層の上に基盤があることだ。スーパースターの才能は、優れた製品、VCからの多額の資金調達、最終的には理想的なイグジットを可能にする。スーパースターがもたらす勢いは本物だ。もちろん物事に絶対はない。プロセスのすべての段階で確率的に失敗の可能性が常にある。だが、愚かさが成功への道を開くことはほとんどない。

イノベーションのあらゆる要素と同じで、適切な人材と適切なアイデアに適切な投資を行うことがすべてだ。間違ったコンサルが間違ったアイデアに取り組むなら、5万ドル(約550万円)、いや50万ドル(約5500万円)払っても、何の役にも立たない。寄生虫はしょせん寄生虫にすぎない。だが、シードで得た資金を正しい人に払って正しい問題に取り組んでもらえれば、魔法が起こる。

料金の高さや、VCがスタートアップ自体よりプレゼン資料を重視することに怒りを感じるのは理解できる。そういったフラストレーションを感じるのは自然で、決しておかしくはない。だが、厳しい問いを避けるのはやめよう。あらゆるものに付加価値がある。その分野のトップエキスパートが自分の強みを理解し、専門知識を活用して料金を高く設定することは驚くにあたらない。

プレゼン資料コンサルに数万ドル(数百万円)を支払うことは、ベンチャーキャピタルからの資金調達を確保するための前提条件ではない。世の中には、会社のために資金を引っ張ってくるスキルのみを持っていて、そのスキルのために外部にお金を払ったことのない創業者もいる。

最終的には、あらゆるアーリーステージのスタートアップが同じ課題に直面する。やることが多すぎて時間がない。必ず何かをどこかで外注する必要に迫られる。頼んだ仕事の質は払う金額によって決まる。あなたの会社の資金を何に使うかが、あなたのスタートアップの行く先を決める。だから、それがプレゼン資料であろうと、他のことであろうと、最高の金額から目をそらしてはいけない。最終的に最高の金額をもたらしてくれる可能性があるからだ。

画像クレジット:Glow Images、Inc / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi)

投稿者:

TechCrunch Japan

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