ベンチャーキャピタルがみつめる中国のフィットネスブーム

This photo taken on June 19, 2016 shows Chinese enthusiasts practicing yoga at Futian sports park in Shenzhen, south China's Guangdong province.  
June 21 marks the International Yoga Day. / AFP / STR / China OUT        (Photo credit should read STR/AFP/Getty Images)

【編集部注】本記事はJenny Lee氏とHaojun Li氏によって共同執筆されたもの。Lee氏はGGV Capitalのマネージングパートナー。Li氏は上海を拠点に活動する、GGV Capitalのヴァイスプレジデント。

過去10年間で中国経済が急成長を遂げる中、無数の中産階級が誕生した。そして中国人はより豊かになっているだけでなく、より健康になっているのだ。どうやら中国ではフィットネスブームが巻き起こっており、ベンチャー投資家にとっては新興の健康系テック企業に投資する一世一代のチャンスだと言える。

健康にこだわる若者文化

とりわけ、18〜35歳の若者にあたる中国の巨大なミレニアル世代の人口(3億8500万人超)においては、記録的な数の人たちが、ジム通いやマラソンへの挑戦、エクササイズクラスへの参加やスポーツへの参加・観戦を行っている。彼らは、「新しい」資本主義下の中国で育った最初の世代で、親が体験したよりよっぽど多くのものを自分たちの人生に期待している

マズローの欲求段階説の通り、彼らは、共産主義の支配下で物不足に苦しんでいたこれまでの世代の人たちとは違い、住む場所と食べるものがあるという簡素な生活では満足できないのだ。高学歴で、インターネットに精通し、海外旅行を体験している中国の若者の欲求は、健康面を含めてとどまるところを知らない。特に若い女性は、健康的で引き締まった体型を保つことに必死で、そのスリムな体の写真をソーシャルメディア上で公開している。

中国の若者のフィットネスへの熱中具合は、中国のジム・フィットネスクラブ関連企業の売上が過去5年間で倍増し、今年はその額が50億ドル以上に達するという調査会社IBIS Worldの予測からも見て取れる。アメリカにおける同業界の市場規模である約250億ドルには届かないものの、中国の健康・フィットネス業界の方がずっと若く、成長スピードも桁違いだ。

「たった数年前までは、ウエイトリフティングに汗を流したり、きついエクササイズに息を切らす中国人女性はなかなかいませんでした」と中国のフィットネスブームに関する最近のWall Street Journalの記事には書かれている。それが今では、Nike、Under Armour、AdidasそしてThe North Faceといったブランドが、猛烈な勢いで中国に出店しその売上を伸ばしている。

多岐に渡る投資チャンス

中国で何かが流行すると、その人口サイズの影響から参加者は膨大な数になる。これが、ベンチャーキャピタルが特に3つのカテゴリーのスポーツ・フィットネススタートアップに強気の投資を行っている背景だ。

フィットネス・ヘルスアプリ。この大きなカテゴリーには、健康アプリや、フィットネストラッカー、健康に関する情報やコミュニティなど、モバイル主導の消費者向け健康プラットフォームが含まれる。これらのアプリは、特に2億8000万人に及ぶ中国の15〜25歳のスマートフォンと共に育った世代に人気だ。中国の若者は、ファッションに高い関心を寄せており、見た目を良くし、健康だと感じたいという一心からヨガ、ピラティス、マラソンなど世界のフィットネスの流行を追っている。

中国のミレニアル世代は、より健康で幸せになるための新たな手段を模索し続けるだろう。

彼らはアプリを使ってフィットネスのビデオを見て、グループエクササイズに参加し、進捗をトラッキングしながら食べるものを管理するのだ。特にゲームのようにゴール設定がされ、フィットネスを楽しめるアプリが中国のミレニアル世代の間で人気を博している。このカテゴリーには、ソーシャルエクササイズアプリのKeep(GGVの投資先)、Daily Yoga、ランニングアプリのCodoonやランニンググループの検索・スケジューリングができるYuepaoquanが含まれる。中国の若者は、段々とスポーツ鑑賞にも興味を持ちだしており、アプリを利用してお気に入りのチームの情報を追ったり、コメントしたりしている。

スマートフィットネスとスポーツデバイス。歩数や消費カロリーを計測するウェアラブル端末からゴルフスウィングやサッカーのキックフォームを向上させるためのデバイスまで、中国の消費者はフィットネスに参加するにあたって自分たちのデータを集めるのが大好きだ。投資家にとっては、このようなデバイスを開発する企業に投資することは「データ遊び」の一環だと言える。

デバイスを開発する企業が、集められたデータを使って健康や節約、減量といったユーザーにとってのゴールを達成する方法を解明できれば、「ガジェット」企業の枠を飛び出し、消費者・市場調査会社にその姿を変えることとなる。中国でこの業界を引っ張っているのが、FirbitMi BandMisfit、そしてNike+といったアメリカ・中国企業だ。

大自然と自由。今日の中国の若者は、自由の精神を信じている。彼らは、車や家を買うことで自由が奪われるのを恐れ、友人や趣味やキャリアにおける選択の自由を求めているのだ。この精神が、中国の若者のスポーツやアウトドアレクリエーションへの参加の仕方にも影響を与えている。

人々を「外出させる」のを促進するようなサービスを開発するテックスタートアップの市場は今後成長が期待できる。参加可能な地元のサッカーやバスケットのリーグを探すアプリや、短期集中トレーニングセッションの参加者をまとめるアプリがその例として挙げられる。

たった30年前の中国の若者は、十分な食料配給チケットがもらえるかどうかを心配していた。

さらに、このカテゴリーには最先端のテック企業も含まれている。GGVの投資先のひとつであるNiuは、中国都市部のミレニアル世代に人気の電動スクーターを製造しており、同社のスクーターは、入り組んだ北京の街中を移動するだけでなく、スモッグやストレスが溢れる環境から逃れるのにも使われている。週末には、山やビーチへNiuのスクーターを走らせる人の姿を見かけることがよくある。ハイキングやロッククライミング、サーフィンは全て、中国の若い消費者がどうしても体験したいと感じているスポーツなのだ。同様に台湾企業のGogoroは、スマートスクーターと専用のバッテリー充電インフラを販売している。

北京の街中に立ち並ぶジムやピラティススタジオ、さらにはThe North Faceのジャケットを着て山道でハイキングを楽しむ若者のグループを見ていると、たった30年前の中国の若者は、新しいLululemonのウェアを着れるくらい体が引き締まっているかよりも、十分な食料配給チケットがもらえるかどうかを心配していたという事実を忘れそうになる。

しかし、中国は驚くべきスピードで変化を遂げており、今日の中国の若者は他の先進国の若者となんら変わりなく、自己実現や個人の成功を求めているのだ。中国のミレニアル世代が、より健康で幸せになるための新たな手段を模索し続ける中で、投資家は中国のフィットネスブームが今後持続するだけでなく加速していくことをハッキリと見込んでいる。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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