ベンチャーキャピタルはメディア系スタートアップが嫌いなのか


編集部記: James Brooknerは、Station 12でメディアとエンターテイメント分野を担当するベンチャーキャピタリストだ。彼は、イギリスやヨーロッパのシリーズAやグロース段階の企業を注視している。

「コンテンツを作る人を雇っているなら、ベンチャーキャピタルと話すことはできない」。BuzzFeedのCEOであるJonah Perettiは、このような話とは無縁だろう。彼には、きっと多くのVCが投資したがっていた筈だ。しかし、彼は過去に多くの人からこの台詞を聞かされてきた。2006年にスタートアップの資金調達先を探していたころ、VCを怖じ気づかせるのに「コンテンツ」という単語一つで十分だということに彼は気がついた。

「私たちが事業を始めた頃の投資家は、ジャーナリストや報道、そしてその他のコンテンツを作るプロが関わる、いかなる事業にも投資したがりませんでした」。Perettiは昨年、そう話した。「皆、口を揃えて言うのです。コンテンツを作る人を雇っているなら、ベンチャーキャピタルと話すことはできない、と」。しかし10年近く経った今となっては、状況は大きく変わった。すでに、4回に渡るラウンドで累計4600万ドルを調達し、昨年の夏には、突然VCのAndreessen Horowitzから5000万ドルの出資を受けたことを発表した。

一体何が起きたのか?以前は、コンテンツを主軸としたビジネスにあんなにも消極的だったのに、何が彼らの考えを改めさせたのだろう?最初に彼らが懸念してことから掘り下げよう。Perettiが資金調達を開始してから間もなく理解した通り、当時VCは人をリスクだと捉えていた。コンテンツが主軸のビジネスは、安全な投資だと信じられてきたことへのアンチテーゼだった。一つのソフトウェアを作成し、それをスケールさせれば良いのではなく、コンテンツは人が継続して作らなければならない。一つ制作したら、また次を制作する繰り返しが求められる。

多くのVCにとって、これは馴染みのあるものではなかった。彼らの多くは、コンテンツ、エンターテイメント、メディアビジネスの経験が乏しかったのだ。IntelやPayPalといった巨大なテクノロジー企業を創業して得た利益を元にVCを始めたのなら、彼らの得意分野ではないコンテンツ中心のスタートアップに投資するのを躊躇うのは理解できる話だ。

今では、メディア分野の理解が深まった人が投資家としての機能を果たすようになってきた。これにより、コンテンツにフォーカスした事業の起業家が資金調達を行える良い環境が整ってきた。

世界規模でみると、事例はたくさんある。BuzzFeedのほかには、Vice Media、Contently、NowThis News、Upworthy、Business Insiderや、コンテンツベースのビジネスのホストを行うサービスなどが、近年VCによる大型投資を受けている。ポイントは、コンテンツを消費する人が増え、その影響力が強まったことだ。VCは、プロダクト、デザイン、ハードウェア、ソフトウェア、アルゴリズムを展開する企業だけでなく、かつては投資を避けてきたコンテンツベースのビジネスの起業家に目を向けるようになった。

スマートフォン、タブレット、コンピューター、テレビがどこでも使えるようになった。それに伴い、動画、オーディオ、文章といったコンテンツがどこからでもアクセスできるようになった。それはスケールするのが簡単になり、それらの価値を高めることにつながった。この時代のコンシューマーは、好きな時に好きなコンテンツにアクセスできることを求めている。この流れに乗るメディア企業(とそれに投資するVC)が利益を生み出し始めている。

少し前までのVCは、コンテンツは既に飽和状態にあり、作るのは簡単だが、オーディエンスを作るのは難しいと考えていた。しかし彼らは気がついた。コンテンツをシェアすることがとても簡単になり、投資家の目に魅力的に映る。同時にそれはコンシューマーがコンテンツの品質の指標となることを意味している。核心となるアイディアが強く、それが正しい形で伝わった時、事業は成功する。

インターネットとデバイスの多様化と浸透により、コンテンツの消費がしやすくなった。これにより、新興メディア企業はニッチなアイディアを世界中にいる特定のターゲットに届けることができ、世界規模のビジネスに発展することができた。例えば、Complex Mediaは、スニーカーとトレーナーの収集、インディーズ音楽といった多様な内容をカバーしている。また、The Dodoは、動物の話だけを特集している。このように、以前までは訴求することが難しいと思われていた内容でも成立するということを示す事例はたくさんある。

VCは、コンテンツ企業の成功はヒット作が出るか否かにかかっていることを示すために、Rovio(Angry Birds)やKing(Candy Crush)といったゲーム開発企業の成功を引き合いに出す。投資家の為にも投資利益を上げるため、B2Bビジネスと比較すると、VCはコンテンツビジネスに対し、ウイナー・テイク・オールの立ち位置を確立できる事業内容を求めることが多い。コンテンツビジネスの成果がB2Bのビジネスより、当たるか当たらないかの賭けに見えるのは事実だが、コンテンツビジネスに投資をして育てることは、コンシューマー向けインターネットビジネスと共通している部分もある。

RovioやKingのような企業は、SnapchatやFacebookのように成長してきた。ヒット作を作り、そのロイヤリティで続ければ良いといった単純な話ではないのだ。製品は継続的なイノベーションと開発を必要とし、素晴らしい価値を提供するプロダクトを作るには、ユーザー視点で製品を作り込んでいかなければならない。そのように考えると、コンテンツビジネスもVCがかつて投資してきたB2C向けの企業とさほど変わらず、VCもその事実に気が付いてきた。

この変化は、VCに限らず大手テクノロジー企業にも見られる。例えば、Netflixだ。彼らは長い間、他の企業が開発したコンテンツを配信してきたが、2011年に、House of Cardsというコンテンツをプロデュース、開発するために資金を投じた。これは、動画配信市場に重要な意味を持つ出来事だ。

注目を集めるコンテンツを作ることは、プラットフォームにとって、ユーザーを獲得して離さず、利益を出すための秘訣として捉えられるようになった。だからAmazon PrimeやNetflixが、自社の番組の開発に乗り出しているのだ。私たちも、イギリスにはコンテンツのプロデュースの成功事例があることから、この分野に着目している。ただ、ここに投資して利益を得るには専門的な知識が必要不可欠だ。

Amazon Prime、Xiaomi、Yahooやその他大勢の企業も、先陣を切った企業に倣い、コンテンツへの開発投資を始めた。彼らにとってそれが有益なら、VCにとっても有益である。コンテンツの重要性は年々増し、コンテンツプロデューサーやアグリゲーターは、テック業界において重要なプレーヤーになった。彼らを追って、VCは知識を付け、流れに追いついてきている。このトレンドが後退する兆候はまだ見られないので、更に多くのVCが参戦することだろう。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook


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TechCrunch Japan

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