ホテルや旅館に最適なプライシングを提案「MagicPrice」の空が数千万円を調達

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需要と供給のバランスで価格は変動するのが市場の仕組みだ。インターネットのおかげで価格の変動は捉えやすくなったが、大量のデータを比較検討して価格を決めるのは、それはそれで難しい。リクルートホールディングスが運営する渋谷のオープンイノベーションスペース「TECH LAB PAAK」発のが手がける「MagicPrice」は、ホテルや旅館などの宿泊施設に自動で最適な宿泊料金を提案するサービスだ。空は本日、500 Startups Japan、Incubate Fund、千葉功太郎氏から数千万円規模の資金調達を発表した。「MagicPrice」は先週末からベータ版をリリースし、サービスの参加施設を募集している。

MagicPriceの利用を開始するには、ホテルはまず施設名や所在地などの情報を入力して登録を行う。MagicPriceのダッシュボードから宿泊施設が提供している客室の種類と総客室数の設定を行い、過去の宿泊料金のデータをアップロードを完了すると、MagicPriceが価格の解析を始める。MagicPriceは過去データだけでなく、宿泊施設の所在地の付近に存在する他のホテルの料金などを合わせて解析することで最適な料金を算出する仕組みだ。部屋の種類別に最適価格がダッシュボードのカレンダー上に反映される。カレンダー上部にある青と白の印は日ごとの予約状況(青いライン)と予約のポテンシャルの予測(白色)を表示している。MagicPriceには機械学習が搭載されていて、使うほどに価格算出の精度が増していくという。

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多くのホテルでは担当者がエクセルなどを使って、手作業で宿泊料金を管理していると空の代表取締役である松村大貴氏は説明する。価格決めに関して参照している情報も少なく、担当者の長年の経験と勘に頼っている状態なのだそうだ。MagicPriceは、アルゴリズムで大量の過去データと周辺地域の情報を解析することで、その宿泊施設にとって最適な価格を提案し、価格のミスマッチによる機会損失を減すことを目指している。

また、宿泊施設は予約を受け付けるのに自社サイトを始め、オフラインやオンラインの旅行代理店を複数利用している場合が多い。担当者は各サイトの価格を手動で変更したり、あるいは旅行業界でサイトコントローラーと呼ばれる、複数の予約サイトを一括で管理できるサービスを使用しているがそれでも価格の変更には手間がかかる。MagicPriceのベータ版は、最適価格を提示するに留まるが、年内にローンチ予定の正式版では、そうした複数の予約サイトに自動で最適価格を反映する機能を提供すると松村氏は言う。今後は解析する情報も増やし、最適料金を算出するアルゴリズムの精度も高めたい考えだ。例えば、近くで行われるイベントなど、需要と直結する情報などを読み込んで解析することを視野に入れているという。

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松村氏は起業するにあたり、いくつものビジネスプランを考え、このプラシング最適化のサービスに辿り着いたという。プライシング事業に着目したのは、ビジネスにとって価格を変更することはコストがかからない上、ビジネスへの影響が大きく、そこにポテンシャルを感じたからだそうだ。中でも旅行業界を選んだのは、売り手も買い手も価格変動に慣れ親しんでいる業界であること、そしてヒアリングをしていくうちにテクノロジーの活用が進んでいないことが分かったからと話す。「旅行メディアは増えましたが、旅行業界のためのテクノロジーは少ないのが現状です」と松村氏は話し、旅行業界で多く発生している手作業を自動化することを考えたという。また、松村氏はもともとアドテクの会社に勤めていた経験があり、MagicPriceで目指すのはウェブ広告に近いサービスのあり方だという。例えば、GoogleやFacebookのウェブ広告ではユーザーが予算や目標額だけを設定するだけで、個別にどこに何を出稿するかを選ぶ必要はない。自動で出稿が行われ、ユーザーは結果だけを確認すれば良い。そのように広告業界で当たり前にできていることを、旅行業界でもできるようにしたいと話す。MagicPriceの目標は、担当者の最適な価格決めをサポートすることではなく、全自動で宿泊施設にとっても旅行者にとっても嬉しい価格の決定から運用まで行うようになることだという。

今回の資金調達では人員強化に充てるという。先週末からMagicPriceのベータ版を無料で宿泊施設に提供しているが、直近は参加ホテルを募り、フィードバックを得てサービスを改善していくことに注力すると話す。まずは宿泊料金でサービスの実用性を証明し、ゆくゆくは航空券、イベント、レジャーなどプライシングが重要となる業界にも展開していきたいと話す。

今回の資金調達は、リード投資家を務める500 Startupsにとって自社で設計したシードステージの投資契約書「J-KISS」を用いた初の投資案件だという。「J-KISS」は、シードステージのスタートアップの資金調達の時間とコストを節約するための投資契約書で、交渉すべき条件を最小限に抑えている。松村氏は今回の「J-KISS」を利用した資金調達について「初期の段階で評価額の議論をせずにすみ、すぐにお金を入れて、プロダクトを作り始めることができるスキームです。スタートアップにとっては有難いスキームで、もっと広まれば日本市場にとっても良い影響があると思います」と話している。また、今回の資金調達に参加しているコロプラ、共同創業者兼取締役の千葉功太郎氏は、今年3月に開催され、空も登場したTECH LAB PAAKのデモデーで審査員を務めたのをきっかけに出資を決めたという話だ。このデモデーで空は「コロプラ賞」と「オーディエンス賞」を受賞している。シードステージでの資金調達を短縮する投資契約書が使われ始めたこと、そしてデモデーが起業家と投資家の出会いを促進する役割を果たしてきていることは、新しいアイディアやイノベーションが育つ土壌が徐々に整ってきていることを象徴していると言えそうだ。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。