ボストン―ワシントン間に量子暗号ネットワーク――Quantum Xchangeは年内に商用運用開始と発表

アメリカ東海岸に設置された全長800キロに及ぶ未使用の光ケーブル(ダーク・ファイバー)が本格的な商用量子暗号ネットワークとして活用される。計画では今年中に最初の顧客を受け入れるという。これにより量子暗号化によって暗号鍵を交換する商用サービスがアメリカで初めて運用されることになる。

メリーランド州ベセスダに本拠を置く量子コミュニケーション企業、Quantum Xchangeでは光通信大手のZayoとボストン・ワシントンDC間に暗号化通信を提供する契約を結んだ。このネットワークはボストンとワシントンの中間のニュージャージーに計算センターを置いているウォール・ストリートの多くの金融機関を当初の顧客のターゲットとしている。同社ではセキュリティーの高い通信手段を必要とする産業、ヘルスケアや公共インフラなどの企業もこのネットワークに参加することを期待している。

量子暗号化を利用したネットワークというのは新しいコンセプトではない。しかしテクノロジーの発達と現行の暗号システムに対する攻撃が繰り返され、安全性に懸念が生じていることの双方の理由から最近急速に注目を集めるようになっている。これは量子力学の理論と光子を利用して暗号鍵を交換する通信だ。理想的な状態では傍受により量子状態が変化するため、中間での盗聴が不可能となる。これは量子鍵配送(quantum key distribution)と呼ばれ、2点間を結ぶ暗号通信の次世代標準にとなる可能性が高いと見られている。

量子暗号は長年研究されてきたが、実用化可能なテクノロジーとなったのは比較的最近だ。近く量子暗号はデータセンター間や投票、支払、医療やなど高度なセキュリティーを必要とする通信に広く用いられることになるはずだ。量子暗号化は衛星通信でも利用可能だ。

ヨーロッパですでに小規模の量子暗号ネットワークの構築ですでにある程度の成功をみている。しかしQuantum XchangeのCEO、John Priscoによれば「各種の欠点」があり、アメリカにおける実用化のハードルとなってきたという。

Quantum Xchangeではトラステッド・ノード・テクノロジーを用いて、離れた2点間で鍵情報をやり取りする。これはネットワークを地理的に拡大することを容易にするという。

「ボストンにオフィスを置く企業、組織はワシントンDCに所在する相手方と安全にデータをやり取りできるようになる。将来は通信可能は範囲はさらに拡大される。光ケーブルはアメリカのいたるところにすでに敷設されている。アメリカ全土に安全な量子暗号通信を提供できるようわれわれはこうしたケーブルの買収を続けるつもりだ」とPrisicoは語った。

Priscoは「量子コンピューターが(現在の暗号方式を無効にするなど)攻撃兵器として実用化される前に量子暗号化を防衛手段として普及させることが決定的に重要だ」と付け加えた。

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滑川海彦@Facebook Google+

投稿者:

TechCrunch Japan

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