マイアミは次のシリコンバレーにはならない、次のシリコンバレーは不要だからだ

本稿の著者であるLaura González-Estéfani(ローラ・ゴンサレス-エステファニ)氏は、世界の起業家エコシステムをより多様で国際的なものにし、公正な資本の利用を可能にするためにデザインされた国際的な事業者主導のベンチャーアクセラレーションモデルであるTheVentureCityの創設者でCEO。

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創設者や投資家が西海岸からテキサス州やフロリダ州へと押し寄せていることは、市場で何十年にもわたって展開されている大きな動きの先駆けである。

スタートアップの未来は、分散化されたグローバルなエコシステムにある。富と知識が集中しておらず、共有され、開かれている。そこには資本ではなくネットワークがある。

マイアミは幸先の良いスタートを切った。

情勢を整理しよう。マイアミはすでに世界で最も有名な(伝統的でない)スタートアップハブの1つに位置づけられており、2020年にはテック界の大手がフロリダに拠点を移す動きが見られた。マイアミのFrancis Suarez(フランシス・スアレズ)市長は、非常に人気のあるツイッターのキャンペーンでこの流入に拍車をかけている。

マイアミはすでに世界で最も有名な(伝統的でない)スタートアップハブの1つに位置づけられており、2020年にはテック界の大手がフロリダに拠点を移す動きが見られた。

これはグローバル志向の事業家たちがすでに知っている事実の表れだ。世界はマイアミが将来のハイテクハブの先駆者となることを待っている。この都市は、ラテンアメリカに関心のある米国のスタートアップのための出発点であるだけではなく、西半球に進出したいグローバルなスタートアップの戦略的な足がかりとなっている。

世界中で、起業家にとって国際的な機会が拡大している。新興市場の起業家にとって、人生を変えるような製品を生み出すためのより大きな接続性と可能性が存在する。

こうした起業家たちは、どこで存在感を発揮したいと考えるだろうか?グローバルな投資家と起業家のネットワークの中心であり、真のメルティングポットであり、成熟市場と新興市場が交差するところではないだろうか。

現在、マイアミに注目が集まっているのはそのためだ。しかし、マイアミは、近々この世界的なトレンドの一部となりそうな数ある都市の中の最初の都市にすぎない。

ここでは、なぜマイアミがスタートアップエコシステムの新しいグローバルグリッドの先頭に立っているのかを解説する。

1.グローバルテクノロジーはもはや一極集中しておらず、世界中に分散している

世界の主要なスタートアップエコシステムの3分の2は北米以外の地域にある。それだけでなく、専門家の70%はテクノロジーの影響力がシリコンバレーから分散しつつあると考えている。Bloomberg Innovation Indexでは、米国は2013年のトップから2020年には第9位に転落したが、欧州とアジアではテクノロジーに関する知識と影響力が成長しており、上海やベルリンなどの都市ではその勢いが増している。

同様にマイクロビジネスも増加傾向にあり(すでに世界中で新たなビジネスが生まれている)、郵便番号のあるビジネスは減っていくだろう。

つまり大企業やVC企業がシリコンバレーや米国の外へ進出してきても、同様のM.O.を構築しようとしているわけではなく、シリコンバレーだけが唯一のM.O.ではないことを示している。新しいM.O.はボーダレスでつながっている、インクルーシブなネットワークだ。これは投資家により遠く離れたビジネスチャンスへの拡大されたアクセスを与える。起業家は会社を設立するために最も便利な場所を選ぶことができ、膨大な経費を節約すると同時に、より多くの専門知識を共有できる。

2.グローバル企業は新興のハブで生み出すことができる

新興市場のスタートアップは概して、米国のスタートアップが受けられる資金のほんの一部しか受け取っていない。つまり、資金が底をついたときには、生き残るための最も革新的な解決策を考え出さなければならないという大きなプレッシャーにさらされることになる。

こうした現地の起業家を支援するには、地域のソリューションが必要であるという事実がある。医療から物流に至るまで、これらの垂直市場の課題にはすべて、国内のインフラストラクチャとサービスに関する知識が必要になる。

ここでの可能性は大きい。新興市場は世界で最も人口の多い国であり(中国、インド、ブラジル、メキシコ、ナイジェリアなど)、言語や接続性の壁は徐々に崩れつつあり、モバイルインターネットの利用は急増している

投資家はすでにアジアからラテンアメリカに至るまでの新興市場の巨大な価値に注目しており、その注目は特に米ドルの価値が下がるにつれて高まっている。Pitchbookによると、ちょうど2020年第4四半期にラテンアメリカへのVC投資は2019年第4四半期に比べて93%成長した。

これは新興のハイテクハブにとって何を意味するだろうか?第1に、数が増え、より分散され、より多くの資金を持つようになるだろう。第2に、実証された牽引力を持つサービスを米国の顧客に提供する新興市場のスタートアップの流れが強まるだろう。

これらの企業が開発し、国内の何百万人ものユーザーを対象にテストする革新的な製品は、米国だけでなく、同じようなニーズを持つ他の新興市場でも肥沃な市場を見つけることができる。このような企業の多くは、本社に技術チームを置きながら、戦略的な事業基盤として米国を利用したいと考えている。

これは創設者、アクセラレーター、投資家、サポート組織が、歴史的に国際化を経験しており、世界中にコネクションを持っているからだ。では、これらの外国企業はどこに着地するだろうか?デンバーやオースティンに興味を持つだろうか。あるいは国際的なハブとして有名になったばかりの都市であろうか。

マイアミは、海外のスタートアップが米国と同じようなトレンドを持つ新興市場との両方にアクセスできる場所である。同市は成熟市場と新興市場の間のインターセクションに位置するように大きく前進し、インクルーシブな(人口の半分は外国生まれである)エコシステムを作り、個人主義よりもコラボレーションを優先し、新規参入を奨励する。したがって、これは多様性のあるスタートアップ都市の(実用的な)モデルになるだろう。

3.お金は後からついてくる

シリコンバレーからの「脱出」が話題になっている中、このハブが常に堅調であったのは重要な機能である資本へのアクセスのためだと指摘する向きもある

しかし投資家は最良の機会を追う。つまり、テクノロジーへの投資はますますグローバル化することになる。簡単にいえば、シリコンバレーに富が集中していることは、世界中で高まるテクノロジーの需要と相容れない。シリコンバレーは滅びることはないが、市場規模は大きくなっている。そして、より多くの資本がすでに新興のテクノロジーハブに向かっている。

その兆候として、米国のベンチャーキャピタル大手が新興地域に進出していることが挙げられる。たとえばSequoia(セコイア)は最初のヨーロッパオフィスを開設し、SoftBank(ソフトバンク)はラテンアメリカに数十億ドル(数千億円)を投資している。

これは米国の投資家がマイアミのような世界的な機会に容易にアクセスできる地域を好むことを意味している。2020年、マイアミ地域へのVCによる投資はパンデミック中であるにも関わらず22億ドル(約2300億円)を超えた(スペイン全国で約1460億円だったことと対照的だ)。それだけでなく、新興市場の投資家からの資金調達も増えている。

ラテンアメリカでは、現地の資金提供者が有望な企業の支援に大きな役割を果たしている。2019年、ラテンアメリカに投資された記録破りの46億ドル(約4810億円)のVC投資のほぼ40%が、少なくとも1人のラテンアメリカの投資家との共同投資によるものであった。そして我々が見た限りでは、地域の投資家は米国を拠点とする組織にますます資金を提供している。

彼ら(そして同様の人々)が求めているのは、地域や外国の起業家とつながるエコシステムを確立し、市場を越えたパートナーシップを育むことだ。

マイアミのような場所はこうしたネットワークの拠点となる必要がある。南フロリダではすでに500 Startups(500スタートアップス)、Plug & Play(プラグ アンド プレイ)、TheVentureCity(ザ・ベンチャーシティ)など、グローバルなマインドを持つアクセラレーターやスタートアッププログラムを展開している。また、Ocean Azul(オーシャン・アズール)、Endeavor Catalyst(エンデバー・カタリスト)、Starlight Ventures(スターライト・ベンチャーズ)、Level VC(レベルVC)などの国際的なネットワークを持つVC企業に加えて、現在はソフトバンクが参加している。

4.マイアミはスタートアップの将来のニーズに対してより有利な場所にある

最後に、マイアミが国際的なコネクタースタートアップハブの米国におけるパイオニアであることを強調したい。

スタートアップは、より少ない費用で多くのものを5年に1度のペースで構築し、初日から国際的に展開することで、より多くの市場で製品をすぐにテストすることができる。これは世界レベルの接続性があれば実現可能であり、国境を越えて常に外に目を向けている環境にいることにつながっていく。

またタイムゾーンが南米の大部分と同じであり、ロンドンからわずか5時間遅れであることも便利だ(サンフランシスコがタイムゾーンを共有するのは、米国のその他の地域とバンクーバーだけである)。

成功を追い求めて生まれ育った土地を離れる人は、歓迎されることを望んでいる。彼らは、市長が「Cafecito(カフェシート、1杯のコーヒーほどの会話)」のために喜んで彼らに会い、他の創設者たちが彼らの到着を心から熱心に支持していることを評価している。成功するためにコネクション、資金、バックグラウンドが必要になりがちな、物価の高い都市には移り住みたくないと考えている。

マイアミは、グローバルなスタートアップハブの将来を映し出している。次のシリコンバレーにはならないだろう。なぜなら、次のシリコンバレーは不要だからだ。地球上のあらゆる場所で起業家の世界が繁栄するにつれ、新興市場の企業が米国やヨーロッパの市場を席巻し、その拠点となる都市が国際的なネットワークに参入していくことになるだろう。

カテゴリー:その他
タグ:Miamiコラム

画像クレジット:Buena Vista Images / Getty Images

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(文:ゲストライター、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。