マイクロソフト、7.8兆円でゲーム大手Activision Blizzardを買収へ

ゲーム大手のActivision Blizzard(アクティビジョン・ブリザード)は、セクハラ問題や経営陣の混乱で投資家から非難を浴びていたが、脱出カプセルのスイッチを押した。Microsoft(マイクロソフト)による687億ドル(約7兆8200億円)での現金買収に合意したのだ。

Activision BlizzardのCEOであるBobby Kotick(ボビー・コティック)氏は、1万人近い従業員を抱える同社でSECの調査やセクハラスキャンダルが続く中で、退任が噂されていた(2021年、現・元社員の2000人以上が、差別訴訟に対する同社の対応を「忌まわしく侮辱的だ」とする書面に署名、さらに最近、1000人以上の社員がコティック氏の退任を求める署名を行っている)。Wall Street Journalは、コティック氏が自社でのセクハラやレイプ疑惑について何年も前から知っていたにもかかわらず、行動を起こさなかったと報じている。だがMicrosoftは、今回の買収でコティック氏がCEOにとどまると述べている。この先Activision Blizzardは、全体としてはMicrosoft Gaming(マイクロソフト・ゲーミング)のCEOでXbox(エックスボックス)の責任者であるPhil Spencer(フィル・スペンサー)氏に報告することになる。

スペンサー氏は米国時間1月18日のブログで「Microsoftは企業として、社員とプレイヤーの双方を含め、ゲームのあらゆる側面でのインクルージョンを目指すことを約束します」と書き、暗にActivision Blizzardで進行中の騒動に言及しました。「また、創造的な成功や自律性は、すべての人に尊厳と敬意をもって接することと密接に関係していると考えています。私たちはこのコミットメントを、すべてのチームとすべてのリーダーに対して課しています。私たちは、積極的なインクルージョンの文化を、Activision Blizzardのすばらしいチームへと広げていきたいと考えています」。

もしコティック氏がトップの座にとどまるのなら、この買収のニュースが従業員たちの懸念を和らげることはなさそうだ。Activision Blizzardの従業員は、現在進行中の性的不祥事だけでなく「Call of Duty(コール オブ デューティ)」の品質保証担当者の解雇に抗議して、数回のデモを行っている。シニアテストアナリストのJessica Gonzalez(ジェシカ・ゴンザレス)氏は、ABetterABK労働者同盟のリーダーとして登場し、会社の変革を求める最も大きな社内の声の1人として名を馳せていたが、2021年11月末に辞任を表明していた。

ゴンザレス氏がActivision Blizzardの社内Slack(スラック)に投稿し、Twitter(ツイッター)でも公開された辞任メッセージには「あなたの無策と説明責任の拒否が、優れた人材を追い出し、あなたがCEOの地位から解任されるまで、製品は苦労を強いられることになるでしょう」と書かれている。「厳しいことをいうようですが、あなたには文化を修正するための猶予が何年もあったはずです。それなのに現在の会社の状況を見てください」。

11月にスペンサー氏は、Xboxのスタッフに宛てた電子メールの中で、同社に対する疑惑を踏まえ「Activision Blizzardとの関係をあらゆる側面から評価し、継続的に積極的な調整を行っています」と述べている。Activision Blizzard買収のニュースがまだ知られていなかった先週、スペンサー氏はNew York Timesの取材で、汚名を着せられたゲーム大手と自社の関係について質問された。

「私たちXboxにとってこの件は、他社をどうこういうための材料にはなりません」とスペンサー氏は述べている。「Xboxの歴史もまっさらなものではないからです」。2016年のゲーム開発者会議におけるMicrosoftのパーティーで、同社は女子学生ダンサーを雇ったことで、ゲーム業界全体の女性との間に多くの問題を起こしている同じ「男子学生」ノリ文化を露呈したことがあるのだ。スペンサー氏は「あれはXboxの歴史の中でも痛恨の極みでした」と付け加えた。

プレスリリースによれば、この取引によりMicrosoftは、Tencent(テンセント)、Sony(ソニー)に続き、売上高で世界第3位のゲーム会社となる。Activision Blizzardは「World of Warcraft」「Call of Duty(コール オブ デューティ)」「Candy Crush(キャンディクラッシュ)」などのメガタイトルを擁し、Microsoft GamingはXboxコンソールを製造している。Microsoftは、先日2500万人の加入者を達成したクラウドゲーム配信サービスGame Passに、Activision Blizzardのゲームを含めることを発表した。一方、Activisionのゲームは、4億人近い月間アクティブユーザーを誇っている。

Microsoftの数十億ドル(数千億円)を超える規模の買収は、この買収だけではない。2020年末に、Microsoftは、「Edler Scrolls」「Doom」「Fallout 」などの人気ゲームを制作したBethesda(ベセスダ)ゲームスタジオなどの親会社であるZeniMax Media(ゼニマックスメディア)を買収する計画を発表していた。そのため、Activision Blizzardの買収に対しては、Microsoftによる独占への懸念が司法省から示される可能性がある。例えば、Meta(メタ)は現在、成長中のVR事業に関する独占禁止法違反の訴訟を起こされている。しかし皮肉なことに、この買収によって、Metaにとってはバーチャルリアリティの分野での競争が少し激しくなるかもしれない。

Microsoft会長でCEOのSatya Nadella(サティア・ナデラ)氏は「エンターテインメントの世界の中で、現在ゲームはすべてのプラットフォームに対して最もダイナミックでエキサイティングなカテゴリーです。そしてメタバースプラットフォームの発展において重要な役割を果たすことになるでしょう」と述べている。

MicrosoftとActivision Blizzard両社の取締役会は、この買収を承認しているが、買収そのものは、Activision Blizzardの1株当たりの価値を時価を上回る95ドル(約1万1000円)で、2023年に完了する予定だ。

画像クレジット:Troy Harvey/Bloomberg/Getty Images

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(文:Amanda Silberling、翻訳:sako)

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TechCrunch Japan

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