マイクロソフトとソニー、ゲーム界の二巨頭がAzureクラウドをベースに提携

この20年間、ソニーとMicrosoft(マイクロソフト)のゲーム部門は全面戦争状態にあった。両者は価格で、ゲーム機で、ゲームソフトで、特別ボーナスで常にがっぷり組んで相手を叩き潰そうとしてきた。しかし発表された覚書によれば、両者はこれまでの行きがかりを一時棚上げし、カジュアルなクラウドゲームによってGoogleがゲーム市場を席巻するのに備えようとしている。

具体的内容についてはまだほとんどわかっていない。しかし米国時間5月16日に公表されたソニーの吉田憲一郎社長とMicrosoftのサティヤ・ナデラCEOが握手している写真をフィーチャーした公式覚書には、両者がMicrosoft Azureをベースとしてクラウド化で提携したことが明記されている。

両社は将来のクラウドソリューションに関して共同で開発を進めることとした。両社のゲームおよびコンテンツのストリーミングサービスをMicrosoft Azureがサポートしていく。これに加えて、両社はMicrosoft Azureのデータセンターをベースとするソリューションをソニーのゲームおよびコンテンツのストリーミングサービスに適用する可能性を追求する

ソニーがゲームその他のオンデマンドサービスで他の多数のクラウドを利用できることは疑いない。実際、 Playstation Nowはその例だ。しかしここ数年のうちにゲーム界を激震が襲うことが予想されている。これはインターネットの浸透により消費者の多くがいわゆるコードカッターとなってケーブルテレビを解約しはじめたことと比較できる。Netflixなどのストリーミングサービスの躍進により、これまでテレビ番組や映画の視聴で圧倒的な勢力を誇っていたケーブルテレビ企業は一気に苦境に追い込まれた。ゲーム企業がこうしたクラウド化に対応するためには巨額の資金とノウハウを必要とする。

最も警戒すべき挑戦者はなんといってもGoogleだ。今年3月、GDCで発表されたStadiaゲームストリーミングサービスは、Googleの技術力、資金力、世界的認知度に加えて、検索とYouTubeという入り口を押さえている。これまでGoogleはゲームではさほど強くなかったが、今後は別だ。ブラウザでゲームを検索し、好みのゲームを発見すれば文字通り5秒後にそのブラウザ内からゲームがプレイできるというのは脅威だ。しかもこういうことができるのは現在Googleしかない。

これだけでも容易ならぬ暗雲だが、Microsoftとソニーに手を握らせることになった理由は他にもあるかもしれない。Switchの世界的大成功による任天堂の復活はその1つだ。「いつでも、どこでも、誰とでも」をキャッチフレーズとし、据え置き、携帯両対応でインターネットとモバイル接続に強く依存するSwitchは従来のゲーム専用機を時代遅れにしつつある。Apple Arcadeもあまり魅力が感じられないお仲間だが、正直こちらは誰も気にしていないようだ。

ソニーとMicrosoftの間には秘密のホットラインがあり、「休戦。まずGoogle Stadiaを撃滅。できればNvidia(エヌビディア)も」というようなメッセージがやり取りされたのだろう。

もっとも、想像をたくましくする必要はない。ソニーの吉田憲一郎社長は発表でこう述べている。

Microsoftとソニーはある分野では激しく競争してきたが、長年にわたってもっとも重要なビジネスパートナーの1つでもあった。今回のクラウド開発における両社のジョインベンチャーはインタラクティブなコンテンツのサービスを前進させる上で極めて大きな役割を果たすだろう。

世界的テクノロジー企業であるソニーはストリーミングサービスを手がける技術力もノウハウも持っている。しかしクラウドサービスをゼロから自前で立ち上げるより、すでに地位を固めているMicrosoft Azureの上で展開するほうが有利であるのは明らかだ。

MicrosoftにしてもAzureにソニーのような巨大企業を迎え入れることができればハッピーだ。ともあれソニーとMicrosoftがゲーム分野でライバルだったことはGoogleという両社のゲームビジネスの存立にかかわる脅威に比べれば何ほどのこともない。Microsoftもソニーと戦い続けるよりパートナーとなることが有利と見たはずだ。

ライバルと手を組むという複雑な関係ではソニーのほうが経験を積んでいる。ソニーは以前から撮像素子を始めとするカメラテクノロジーを多くのスマートフォン、デジタルカメラのメーカーに提供してきた。これはソニー自身のプロダクトとバッティングするわけだが、単に売上だけでなく、顧客メーカーからさまざまなノウハウのフィードバックを受けることがソニーが映像業界において不動の地位を確保する上で役立ってきた。

画像業界といえば、両社はソニーの撮像素子とMicrosoftの人工知能を統合した新しいテクノロジーの開発に向かっている。プロダクトとしてはロボティクス、自動運転車となる可能性が高い。この分野の競争は激烈だが、今のところ両社ともにこれというプレゼンスがない。提携の背後にはこの事情を変えていこうという野心もあるかもしれない。

画像:Christian Petersen / Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

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TechCrunch Japan

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