マイクロLEDの秘密研究所、アップルの研究開発、そして利幅の将来

アップルが、カリフォルニア州にマイクロLEDディスプレイのための研究施設を建設したようだと、BloombergのMark Gurmanは先週末伝えた。おそらく、iPhoneやその他の製品に使用する次世代の画面技術をテストし少量生産するためのものだという。これに先立ってアップルは、2014年、マイクロLEDのスタートアップLuxVueを買収している

この秘密の研究所のニュースは、研究開発により深く関わり、より多くの予算をかけるようになったアップルの大きな流れから見ても合点がゆく。アップル情報に特化した有料ブログサイトAbove AvalonのNeil Cybartによると、アップルは「2018年度の研究開発費が140億ドルに上る勢いであり、これはほんの4年前の研究開発費のほぼ2倍にあたる」という。さらにこう指摘する。「2018年にアップルが注ぎ込もうとしているこの140億ドルは、アップルが1998年から2011年までに費やした研究開発費の合計を上回る」

どんな企業にとっても、これは驚くべき額だが、アップルにしてみても、この規模の研究開発費は例外的だ。さらに注目すべきは、アップルの研究開発費の収益に対する割合は、この数年確実に増加し、そのときよりも収益が増しているにも関わらず、この10年間での最高だった5.3パーセントに近づきつつあるとCybartは話している。

収益に対するこの割合はアップルにしては高いと言えるだろうが、技術業界の同業者たちに比べると、驚くほど低い。グーグルやフェイスブックなどでは、アップルの収益に対する研究開発費の比率は2倍以上、ときには3倍にも達している。その理由のひとつとして、アップルの大きな収益と規模がある。競合他社よりも高い収益があるために、アップルは研究開発費を償却できるのだ。

さらに興味深い事実がある。アップルには、チップ開発やディスプレイ製造といった研究開発に多額の費用がかかる分野への参入を避けるという伝統があった。それよりも、製品の開発と統合にフォーカスしてきたのだ。それでも低予算な分野とは言えないが、新しい液晶技術を市場に送り込むといった事業よりは安上がりだ。

アップルは、自社製の携帯電話の無線モデムや電源管理システムは製造せず、
たとえばiPhone Xの場合はQualcommといった外部メーカーの製品を使っている。iPhone Xの大きな売りでもあるディスプレイですら、自社製ではなくサムスン製だ。アップルの価値は、そのディスプレイを(エッジレス・スクリーンとして)電話機に埋め込み、色を補正するソフトウエアを開発し、非常に高い画質を実現させるところにある

長い間アップルは、こうした統合にフォーカスした研究開発モデルでウィンウィンの状態を保ってきた。交渉では強みを活かし、最高の技術を低価格で使うことができる。さらに、それらの部品の研究開発費は、iPhoneだけでなく、その他の製品に技術を応用することで償却が可能になる。つまりアップルは、価値の高い製品の開発に資産を投入でき、自社製品に必要だがコストがかかる研究分野から遠ざかることで、ハードウエア業界で大きな利益を獲得し続けることができたのだ。

そんな研究開発モデルが変化したのは、今からちょうど1年前にアップルがP.A. Semiを2億7800万ドルで買収してからのことだ。アップルは、製品開発にフォーカスしていた研究開発から、製品の鍵となる重要なデバイスの自社開発に、徐々に移行を始めている。そのことは、iPhoneの中核となるプロセッサーを見れば明からだ。たとえば、iPhone XのA11 Bionicプロセッサーは、完全にアップルのカスタムデザインであり、TSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー)で製造されている。

このプロセッサーは、まさに垂直統合の出発点となる。これがiPhoneの数多くの機能を提供し、電池の寿命にも大きな影響力を与えている。顔認証機能も、A11チップに組み込まれた「ニューラルエンジン」によって支えられている。

顧客の興味を引き、大金を支払ってまでも欲しいと思わせる差別化された機能を生み出すことと、過去にアップルが避けてきた自社製部品の開発との間には、大きなつながりがある。ディスプレイは、差別化において決定的な意味を持つ重要な部品だ。サムスンに対抗するために、その技術を自社内に持っていたいとアップルが思うのは自然なことだ。

そうしたわけで、アップルは差別化を増すために、さらに研究開発費を注ぎ込もうとしている。それは結構なことだ。実際、そうした出費は、アップルの強い立場を活かした投資だという声がある。強烈な意志の強さでもって、アップルは世界でもっとも価値のある企業のひとつとなった。そして、競合する数多くの市場を支配してきた。とくにスマートフォン市場だ。ブランドへの高い忠誠心を示す顧客も数多い。そしてアップルは、さらに成長し、より多くの市場を獲得しようと、自動車のような新しいデバイス分野に手を広げる機会を伺っている。つまり、アップルは成長を進めるために研究開発費を拡大させているのだ。

アップルは、縮小するスマートフォン市場での立場を維持するために必死になっていて、研究開発費の拡大は、じつは同等の性能ではるかに安価な競合他社製品に対抗して、高い製品価格を守るため(つまり利益を守るため)の防衛手段なのだという否定的な見方もある。しかし、アップルの自社開発ハードウエアは、他社にない機能性の原動力となっている。そしてそれが、この先も利益を保つために必要な差別化を生み出す。

どちらの話にも真実があるが、ひとつだけ確実なのは、アップルの利益に対するプレッシャーが大きくなっていることだ。iPhone Xの売り上げについて、人々は確かな情報に基づく予測を立てていたが、アナリストの多くは、これまでもこれからも、期待を下回るだろうと見ている。価格が高いためだ。もしそれが本当なら、価格を高くすれば、高額な研究開発費の埋め合わせができないことになる。そしてこのふたつの関係は、スマートフォンのイノベーションにおいて、アップルがこれまでに経験したことがないほどの大きな重しとなるだろう。

何千億ドルもの資産を持つ企業は、マイクロLEDのような先端技術の研究開発に先陣を切って投資するべきだろう。しかしアナリストたちは、売り上げによる利益だけではなく、利幅も気にかけている。増え続ける支出と販売台数の低下は、アップルの資金繰りに関わる不吉な前兆となっている。

Image Credits: Tomohiro Ohsumi / Getty Images

[原文へ]

(翻訳: Tetsuo Kanai)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。