マンガを独自技術でローカライズし短時間で世界中の読者に配信するシンガポールのINKR

デジタルコミックのプラットフォーム「INKR」のチーム(画像クレジット:INKR)

INKR(インカー)は、独自のローカリゼーション技術を用いることで、クリエイターが文化や言語の壁を越えて世界中の読者にリーチできるデジタルコミックのプラットフォームだ。これまで自己資金のみで運営してきた同社だが、米国時間7月28日、プレシリーズAの資金調達を行い、310万ドル(約3億4000万円)を調達したことを発表した。今回の資金調達はMonk’s Hill Ventures(モンクス・ヒル・ベンチャーズ)が主導し、マンガ配信会社TOKYOPOP(トーキョーポップ)の創業者兼CEOであるStu Levy(ストゥ・レヴィ)氏が参加した。

シンガポールに本社を置き、ホーチミンにもオフィスを構えるINKRは、2019年にKen Luong(ケン・ルオン)氏、Khoa Nguyen(コア・グエン)氏、Hieu Tran(ヒュー・トラン)氏によって設立された。同社によると、2020年10月に運営を開始して以来、月間平均ユーザー数は200%増加しているという。現在はFanFan(ファンファン)、Image Comics(イメージ・コミックス)、Kodansha USA(講談社USA)、Kuaikan(快看)、Mr. Blue(ミスター・ブルー)、SB Creative(SBクリエイティブ)、TOKYOPOP、Toon’s Family(トゥーンズ・ファミリー)など、70以上のコンテンツクリエイターや出版社と提携しており、これまでにマンガ、ウェブトゥーン、グラフィックノベルなど、800以上の作品を読者に提供している。

INKRのルオンCEOは、TechCrunchの取材に対し、このプラットフォームはまず、世界的なトップ出版社の翻訳コミックから力を入れていくものの、2022年には小規模な出版社やインディーズのクリエイターにも開放する計画があると語った。

INKRのプラットフォームの核になっているのは、独自のローカリゼーション技術だ。これによって、異なる市場に向けてコミックを準備するために必要な時間を、数日から数時間に短縮することができるという。

「コミックのローカリゼーションは、単に翻訳するだけではありません。ファイル処理、転写、翻訳、植字、効果音、品質管理など、多くの人が関わる多くの段階が必要な、時間のかかるプロセスです」とルオンCEOは語る。

INKRが配信している作品の一部(画像クレジット:INKR)

漫画の出版には、言語の違いだけでなく、日本の漫画、中国の漫画(manhua)、韓国の漫画(manhwa)、米国のコミックなど、世界各国のコミックスタイルの違いも考慮する必要がある。例えば、漫画には1ページずつレイアウトされているものもあれば、縦にスクロールして読み進めるものもある。左から右へ読む言語もあれば、右から左へ読む言語もある。

ルオン氏によると、INKRが独自に開発したAIエンジン「INKR Comics Vision(インカー・コミックス・ビジョン)」は、テキスト、セリフ、キャラクター、表情、背景、コマなど、コミックページ上のさまざまなフォーマットや要素を認識することができるという。また、人間の翻訳者のためのツール「INKR Localize(インカー・ローカライズ)」は、テキストの書き起こし、語彙の提案、タイプセットなどの作業を自動化することによって、正確な翻訳をより早く提供するために役立つ。

ローカライズ作業は、世界各地の異なる場所にいる人たちのチームによって行われるため、INKRはブラウザベースのコラボレーションソフトウェアを提供している。このプラットフォームは現在、日英、韓英、中英の翻訳に対応しており、今後も言語の追加が予定されている。快看漫画やMr.Blueなどの出版社では、中国語や韓国語で書かれた何千話もの漫画を英語に翻訳するためにINKRを使用している。

INKRはコンテンツ制作者に、広告サポート、購読料、各話ごとの支払いなど、収益化する手段の選択肢をいくつか提供している。ルオン氏によると、同社のプラットフォームはコンテンツを分析し、どの方法が収益を最大化できるかを判断してパブリッシャーに知らせ、得られた収益の一定割合を分配するという。

INKRと競って注目を集めているデジタルコミックプラットフォームには、他にもAmazon(アマゾン)が運営するComixology(コミクソロジー)や、韓国のNaver Corporation(ネイバー株式会社)が運営する出版ポータルのWebtoon(ウェブトゥーン)などがある。

ルオン氏は、INKRの競争力の強みとして、提供するコミックの多様性と価格の手頃さを挙げている。また、同社が起ち上げ前にデータとAIベースの技術に投資したことも、読者と出版社の両方に向けた強みとなっている。これによってユーザーは自分の読書活動に基づいてパーソナライズされた「おすすめ」作品を受け取ることができ、出版社は分析ツールを利用して消費傾向に基づく作品のパフォーマンスを追跡することができる。

Monk’s Hill VenturesのジェネラルパートナーであるJustin Nguyen(ジャスティン・グエン)氏は声明の中で、INKRの「独自のAIを活用したプラットフォームは、デジタル化とグローバル化を必要とするクリエイターやパブリッシャーの痛点に対応できます。多くの言語に、迅速かつ優れたコスト効率でローカライズすることが可能であり、それと同時に、分析ツールやパーソナライズされたインテリジェントなフィードによって、リーチと読者数の向上を支援します。私たちは、世界中の翻訳コミックに対する大きな需要に応えるために、彼らとパートナーシップを組めることを楽しみにしています」と述べている。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:INKRデジタルコミック電子書籍ローカライズ翻訳シンガポール資金調達人工知能

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(文:Catherine Shu、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

投稿者:

TechCrunch Japan

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