モデルナの主要投資元Flagship Pioneeringの新たな投資先、tRNAを用いて「何千もの病気」の治療を目指すAlltrna

米国時間11月9日、モデルナの主要投資元であるFlagship PioneeringはRNAに関心を寄せる企業のポートフォリオに新たな企業を追加したことを発表した。この1年、mRNAが話題になったわけだが、Alltrnaと呼ばれる新しい企業は転移RNA(tRNA)ベースの薬剤の開発に乗り出そうとしている。

メッセンジャーRNA(ModernaやPfizerの新型コロナウイルスワクチンに使用されているmRNA)が、細胞にある特定のアミノ酸を組み立てそれらを結合してタンパク質を作るよう指令する遺伝子情報であることを知る人は多いだろう。では、tRNAとはなにかというと、これはL型をした分子で、mRNAにより集められたアミノ酸を実際に組み立てる働きをする分子である。tRNAは人の細胞が遺伝子コードを取得し、それを体内で機能的なタンパク質に変えるための最後のステップの1つを実行する。

Flagshipの設立期からのパートナーでAlltrnaの共同創設CEOである Lovisa Afzelius(ロヴィサ・アフゼリアス)氏がTechCrunchに語ったところによると、Alltrnaでは、1つのtRNAを「何千もの病気」を治療するのに活用できると考えている。同社は、過去3年間プロトモードにあったのだが、その間、30人からなるチームでtRNA治療開発のための「プラットフォーム」を開発してきた。

「これは本当に重要な分子です。しかし現在まで、創薬手法としては完全に過小評価されてきました。当社が開発したのは広範囲にわたるtRNAプラットフォームで、これを使用することで、tRNAの生物学的側面全体を探求することが可能になります」と、アフゼリアス氏は語った。

ModernaやPfizerの新型コロナワクチンは、mRNAテクノロージの可能性について非常に説得的に証明してきた。しかし、2021年は他のRNAプロジェクトの資金調達に大きな動きのある年となっている。

5月、Flagshipは次の10年間で100種類のエンドレスRNA(eRNA)製品および薬剤プログラムの開発を目指す企業、Larondeに関する発表を行った(eRNAはFlagshipにより開発されたRNAの一種で、体内で特定の薬の治療効果を引き伸ばしたり、治療用タンパク質の「持続的な」発現を生み出したりするように設計されている)。

Larondeは2021年シリーズBでの資金調達で、Flagshipからの投資に加え、T. RowePrice、CPPinvestments、Fidelity Management and Research Company、Federated Hermes Kaufmann Funds、BlackRockが管理する資金とアカウントより、約4億4000万ドル(約501億円)を調達した

tRNAを用いた薬剤のアイデアは比較的新しいものだが、次第に注目され始めている。2021年9月にC&EN が報じたところによると、ReCode Therapeutics、Shape Therapeutics、Tevard Biosciencesの三つのスタートアップは、tRNAを用いた治療法の開発に向け、合わせて2億4000万ドル(約273億円)を調達した。

Alltrnaは、さまざまな病気に介入しうるtRNAの可能性を大いに喧伝している。Flagshipのプリンシパルで、共同創設兼Alltrnaのイノベーションオフィスの責任者でもあるTheonie Anastassiadis(セオニー・アナスタシアディス)氏は、 tRNAには「翻訳の多くの側面」を制御する機能があるという。

例えば「増殖tRNA」の一部は細胞分裂に関与している(またいくつかの研究では、 tRNAを下方制御することにより細胞の増殖を抑えることができ、癌への対応策となりうることが示唆されている)。

また、tRNAにより、遺伝子コードのエラーに起因する問題を修正することができる。一部の遺伝子には、早すぎる時点でタンパク質生成の停止を促す「終止」サイン(終止コドンとも呼ばれる)として機能する変異が含まれている。これらの終止サインは、特定のタンパク質について、それが完全に生成されきっていない状態であるのに、生成を停止するよう指示する。この時期尚早な終止コドンは遺伝性疾患の大きな要因であり、すべての遺伝性疾患または癌の10%から30%程に関係しているとされている。

アフゼリアス氏によると、tRNAエンジニアリングの背後にある考え方は、tRNAがそれらの終止サインを読み込んだ場合でも、完全なタンパク質を組み立てられるということである。

「何千という病気にこれらの終止コドンがまったく同様のかたちで関与している可能性があります。これらのタンパク質に挿入すべきアミノ酸は同一のものです。実際に広範囲に渡る遺伝性疾患に同一のtRNA薬剤を使用することが可能です」。とアフゼリアス氏は語った。

AlltrnaのtRNA に対するアプローチはtRNAベースの薬剤開発を実際に行うのに必要なツールを拡張するところから始まる。tRNAを発現させ、そのレベルを計測し、修正し、そして合成する基本的な手法は現在「非常に技術的に難しい課題です」とアナスタシアディス氏は述べた。

「プラットフォームの一部としてまず私たちが行ったのは、実際にこれらのAlltrnaの独自のツールを構築したことでした」。

tRNA治療のためのプラットフォームの開発は、計画にそって進んでいる。現在のところ、同社はどこと提携しているかや、どういった病気を治療対象と考えて開発に取り組んでいるかについては明らかにしていない。

Flagshipは現在までに、Alltrnaに5000万ドル(約54億円)を提供している。これは2021年FlagshipがLarondeに最初に提供した額と同額である。アフゼリアス氏は今後「適切な時期が来たら」外部からの投資も求めたい考えだと語った。

画像クレジット:LAGUNA DESIGN / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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