モルガンスタンレーのEトレード買収裏でロビンフッドはソーシャルトレーディングに向け準備

76億ドル(約8400億円)の価値がつく前、Robinhood(ロビンフッド)がもともと持っていたアイデアは株式取引ソーシャルネットワークだった。2013年、サンフランシスコの筆者自宅のキッチンテーブルで創業者らは、予測の正確性を争う順位表が閲覧できるフィードを用意し、そこに投稿された耳寄り情報を共有するアプリを構想していた。SEC(米証券取引委員会)承認後は、本当に稼げるような方向へ転換した。アプリで株式を売買したり、資金を借りて代金を払えるようにしたのだ。

7年経ち、ロビンフッドは巧妙に創業時の姿に戻る最初の一歩を踏み出した。同社は2月20日に「Profiles」(プロファイル)を立ち上げた。現段階ではユーザーは、自身のポートフォリオに関する分析結果を見ることができる。例えば株式、オプション、仮想通貨などの商品別、あるいはセクター別に持ち高がどう分布しているかわかる。ユーザー名と写真を備えたプロファイルでは、株式その他の資産のリストを自作の形式やロビンフッド提供の形式で作成してフォローできる。

プロファイルは、ロビンフッドの顧客にもっと多くの取引を行う自信を与え、他の証券会社に顧客が流出するのを防ぐ。Charles Schwab(チャールズシュワブ)、Ameritrade(アメリトレード)、E-Trade(Eトレード)などはロビンフッドに合わせて、取引手数料を無料にした。Wall Street Journal(ウォールストリートジャーナル)によると、Morgan Stanley(モルガンスタンレー)は2月20日、130億ドル(約1兆4000億円)でEトレードを買収した

プロファイル機能は確かに役立つようだ。ユーザーのポートフォリオがテクノロジー、メディア、テレコムの株式に集中しすぎているとか、仮想通貨や自分が住む州の企業を含めていないといったことがわかる。リストを使うと、特定のセクターの追跡が容易になったり、資金が用意できたときに備えて購入したい株式に「ブックマーク」をつけたり、詳細な調査を後日読むために保存したりできる。ロビンフッドは、FactSet(ファクトセット)やMorningstar(モーニングスター)などの信頼できるソースから情報を取得して、株やETFがどのセクターリストに含まれるのか判断する。 自分でリストを作って名前を付けることもできる。来週、すべてのユーザーにプロファイルとリストが公開される。

だが最も興味深いのは、プロファイルがソーシャルネットワークとしての基盤をどのように構築するかだ。他のユーザーが作成したアカウントやリストをフォローできるというのは簡単に想像できる。オリジナルのロビンフッドアプリを使用すると、ユーザーは「今後11週間でFacebookの株価が17%上昇する」といった予測と、その理由を説明するコメントを公表できる。ユーザーの予測精度、各資産の平均保有期間、賢明な予想に付与されるポイント、コミュニティによる株の買いと売りの評価も表示される。

ロビンフッドがこうした機能を再構築すれば、高い料金でファイナンシャルアドバイザー雇ったり、別の証券会社に口座を持つのに多額の資金を用意する必要はなくなる。アドバイスをクラウドソーシングすることができるのだ。「我々は金持ちから何かを取り、それを貧しい人に与えるという意味合いを理解している。当社は専門家が専有する情報を解放し、人々に提供する」と、同社の共同創業者で共同CEOのVlad Tenev(ブラッド・テネブ)氏は2013年に筆者に語った。

ロビンフッドは、口コミで広まる詐欺​​的な情報に十分注意する必要がある。適切なセーフガードがなければ、買い遅れたユーザーが現実的な水準に価格が戻ったときに大損を被るような価格操作につながる可能性がある。

だが、ソーシャルを採用することで、その最も良い面を引き出せるかもしれない。それはユーザーの若さとつながりの深さだ。ロビンフッドの顧客の年齢の中央値は30歳で、半数は初めて投資するという。アプリ内に頼るべき友人や専門家がいれば、納得して取引に踏み切れるかもしれない。

ほとんどのオンライン証券会社は、価格以外の点では差別化されていないと言えるが、ロビンフッドに対してユーザーが持つ親近感は、不格好で洗礼されていない競合他社が作り出せないものだ。満足しないユーザーはいつでも競合他社に走る可能性がある。ロビンフッドのユーザーはソーシャルネットワークに慣れ親しんでおり、コミュニティを捨てられないため、なかなか他社に乗り移らない。

プロファイルのプロダクトマネージャーであるShanthi Shanmugam(シャンシ・シャンムガム)氏に、これがソーシャルトレーディング機能の始まりになるのかと単刀直入に聞いてみた。同氏は、それは疑わしいという感じで質問には直接答えず、こう述べた。「投資家としての自分をどのようにアプリに反映するかを検討する過程で、他社のアプリをいろいろ見た結果、自分の人物紹介(プロファイル)のように感じられるデザインを採用するのが自然に感じられた。ユーザーが投資のアイデアを囲むグループを作るにはどうしたらよいか考えたとき、お気に入りの音楽アプリで目にするようなプレイリストがすぐに思い浮かんだ」

同氏の答えは否定からはほど遠いものだった。ユーザーが行う取引にソーシャルからお墨付きをもらえるような仕組みを提供することにより、ロビンフッドは顧客からより多くの利益を得ることができる。ユーザーの口座残高がわずかであってもだ。同社の口座数は1000万を超える水準だが、Eトレードは520万、モルガンスタンレーは300万だ。ある調査によると、ロビンフッドにおけるほとんどのユーザーの平均残高は1000〜5000ドル(約11万〜55万円)だが、Eトレードユーザーの平均口座残高は6万9230ドル(約760万円)、モルガンスタンレーは90万ドル(約1億円)だ。

つまり、ロビンフッドの利益の源泉は、従来の競合他社のようにユーザーが維持する口座そのものからではない。大半の収益は、売り注文のフローと、ユーザーへの貸付の対価としての定額料金から得ている。ロビンフッドのユーザーは、月々定額料金を払ってロビンフッドゴールド機能に加入すると、取引に必要な資金を借りることができる。プロファイルとリスト、究極的には多くのソーシャル機能により、ユーザーはより多くの取引をするようになり、ロビンフッドにとって収益の源泉となる注文が増え、定額プランに加入するユーザーが増える。

「誰もがアクセスできるようにするには、手数料や最低金額などユーザーが直面する障壁を下げることが必要だ。自信のようなものだ。プロファイルとリストは金融を理解しやすく馴染みのあるものにする」とシャンムガム氏は言う。より多くのソーシャル機能が安全に構築され、より多くの安心感、取引、そして収益を生む。ロビンフッドはこれまで9億1000万ドル(約1000億円)を調達した。だが、新たにタッグを組んだモルガンスタンレー・Eトレード連合のような大規模な競合他社の手数料無料化にロビンフッドが対抗するには、プロダクトで勝る必要がある。

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(翻訳:Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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