ユカイ工学がATRファンドから1億円を調達、家庭向けロボ共同開発へ

2007年創業のユカイ工学が今日、けいはんなATRファンドから1億円の資金を調達して「自然な会話を実現する家庭内ロボット」の共同開発をATRと進めることを発表した。

ユカイ工学といえば、2015年7月に出荷を開始した家庭向けコミュニケーションロボットの「BOCCO」で知られている。一方、今回ユカイが出資を受けるファンドの母体の1つである国際電気通信基礎研究所(ATR)はNTTやKDDIを主要株主として公的な資本などを元に研究を行う研究機関。もともと電信電話系の研究者が多かったこともあって音声処理などに強く、今回の狙いもATRが持つ「パラ言語処理」や「音環境知能技術」を実用化してBOCCOに入れる、あるいはモジュール化して外販するというところにあるという。

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最近、大学や研究所が持つ研究開発を産業へ結ぼうという流れが強まっているが、2015年2月設立のATRファンド(正式名称は、けいはんな学研都市ATRベンチャーNVCC投資事業有限責任組合)も、この流れのなかにある。ATRが持つ技術シーズの事業化を目的として日本ベンチャーキャピタル(NVCC)無限責任組合員となって組成したのがATRファンドで、産業革新機構や新生銀行、京都銀行、住友電気工業、KDDIなどが出資している。NVCCは阪大イノベーションファンドや京大ベンチャーファンドを手がけてきた実績がある。この3月には名古屋大学・東海地区大学広域ベンチャーを立ち上げたりもしている(PDF)。いわゆる科研費を取ってやるタイプの研究プロジェクトだと、なかなか技術の実用化が進まないことから、こうした研究開発系ファンドに期待がかかっているところだ。

さて、今回の主眼はパラ言語処理と音環境知能技術のビジネス化だ。具体的にはATRに研究室を置く石井カルロス寿憲氏との共同研究に基づくものだそうだ。

パラ言語というのは聞き慣れないが、ユカイ工学創業者で代表の青木俊介氏は「文字にすると消える情報です」と説明する。音声コミュニケーションでは、われわれは同じ文であっても強弱や抑揚、長短の違いなどによって微妙な意図を伝えている。場合によっては純粋な疑問文なのか皮肉なのか全く異なる意味になることもある。そうしたものを理解するロボットの開発を進めるということだそうだ。

「今のところコミュニケーションロボットといっても技術的な限界があって、人間と会話を楽しむレベルのものは実現できていません。それは、どのロボットも同じ音声認識エンジンを搭載して、音声合成も同じエンジンを使っているからという面もあるんです」(青木氏)

音環境知能技術というのは、例えば、部屋の中のどこから声が聞こえてくるかを定位するするような技術。複数のマイクやノイズキャンセルの技術を使うことで、誰がロボットに向かって話しかけているのかが分かる「話者特定」ができるようになる。

ロボットを世に出したい、そのために集まったメンバーだから

ユカイ工学は2007年の創業以来、初期のエンジェル投資をのぞいてこれまで外部資本を入れたことはなかった。それが今になって資金調達をすることに決めたのは、なぜなのか。

現在ユカイ工学はスタートアップ企業や大企業から受注した受託開発で売上の6割を稼ぎ、年商は2億円を超えるまでになっているそうだ。「地道にやっていけば利益が出るのは出る」(青木氏)状態という。

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ユカイ工学創業者で代表の青木俊介氏

「外部から資金を入れるのはやめておいたほうがいいのではないかと言われたもしました。ただ、もともとはロボットを世に出したいというので集まったメンバーなんです」

「法人を設立して最初の3年間ほどは未踏プロジェクトに採択されたことでロボット開発資金をもらって開発をしていました。私はピクシブのCTOでもあったのでフルタイムで役員をやりつつ週末を中心にロボットを作っていました。それが創業期です。現在までに集まったユカイ工学のメンバーは16人になりました。ほぼ全員がエンジニアとデザイナーです」

「まだロボット市場は広がっていませんが、アメリカではAmazon Echoなど関連製品が出てきています。ハードウェア開発にはお金がかかるので、いつか外部資金が必要とは最初の頃から思っていました」

ユカイ工学はBOCCOを一般向けに販売しているほか、JavaScriptが使える開発者向けハードウェア開発キットの「konashi」も販売している。IoTという言葉が出る以前からBLEモジュールをいち早く個人開発者でも触れられるように出すなど、実験的製品も出している。今回資金調達をしたということは自社プロダクト1本で勝負することに決めたのか、と問うと青木氏は、そうなればいいと苦笑いしつつも、OEM開発や開発者向けキット提供で得られるフィードバックが有効であることから、今後も今までと同じペースで受託事業は継続すると話している。

ユカイ工学では今年10月のCEATEC JAPANで、ATRとの共同開発による最初の成果物をデモをする予定だそうだ。

数カ月ほどBOCCOを使ってみて感じたこと

そうそう、これを書いているぼくはユカイ工学にお借りしてBOCCOを4カ月ほど使ってみたことがある。我が家には学齢期の子どもがいて、まだスマホやケータイは渡したくない年齢だった。ちょうど1人で行動しはじめる時期で、両親とも昼間は仕事に出ているという、まさに以下のBOCCOの動画にあるような家庭だった。だから、しばらくはBOCCOは我が家の家庭内のコミュニケーションのハブとなった。ただ、1人で行動を始める年齢になったことから結局はキッズケータイを子どもに渡してメッセを使うようになったのだった。本体価格が2万9800円と安くないこともあって、BOCCOが想定するユースケースは今のところ市場は小さいのではないかと思う。

一方、Yahoo! JapanのmyThingsとBOCCOを連携させて朝の決まった時間に天気をしゃべらせるようにすると、これは結構イイ感じだった。うちは紙の新聞もテレビもない生活が長いので「プッシュ型コンテンツもやっぱり便利だな」と改めて思ったりもした。BOCCOの姿形や声は愛着が湧くものなので、ぼくとしてはSiriやEchoのような進化を期待したい。呼びかけはもちろん「ねぇ、ボッコ」だ。「ねぇ、ボッコ、明日の天気を教えて」とか「ねぇ、ボッコ、私の今日の予定なんだっけ?」と呼びかけて、それに応える形でネットとのインタフェースとなる方向性だ。ちゃんと家族の誰が質問しているかが分かれば、今までにない何かになりそうな気がしなくもないんだよね。

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TechCrunch Japan

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