ユーザー10万人のアジャイルミーティングソフトウェアParabolが約8.7億円を調達

先にアジャイル開発チームに振り返りミーティングソフトウェアを提供するベンチャー企業Parabolは、800万ドル(約8億7400万円)でシリーズAを完了したことを発表した。取引はMicrosoft(マイクロソフト)のベンチャーキャピタル部門であるM12が主導した。この投資には、Techstars、CRV、Haystackも参加している。

TechCrunchは、ParabolのCEOであるJordan Husney(ジョーダン・ハスニー)氏にインタビューし、今回のラウンドと同氏の会社について話を聞いた。私たちは、Parabolが提供している市場がどれほど大きなものなのか、そして同社がサービスを過剰にニッチ化しているのではないかと思っていた。Parabolはまだ若い会社だが、私たちの考えは誤りだったようだ。聞くところによると、ソフトウェア市場は考えていたよりも大きな市場であるという印象を受けた。

Parabolはどのようにして誕生し、どのようにしてターゲット市場を選んだのだろうか。あるいはより正確には、ターゲットとなる市場はなぜParabolを選んだのだろうか。

水平に構築し、垂直に焦点を合わせる

コンサルティングの世界に身を置いていたハスニー氏は、分散したチームが抱えるコミュニケーションの問題を十二分に認識していた。大企業では複数のオフィスを持つことが当たり前になっており、リモートワーカー同士のコミュニケーションは、メールのやりとりか、ミーティングかのどちらかになっていたとTechCrunchのインタビューで答えた。自称「回復期のエンジニア」であるハスニー氏は、ビジネス市場に「構造化されたコミュニケーション」、つまりコードライティングの世界で人気のある、非同期ミーティングの需要があるのではないかと考えた。

ハスニー氏は、プロセスや書面化よりも強力や進化を優先するソフトウェア開発手法であるアジャイル開発の精神を受け継ぎ、開発者ではないビジネスチームにアジャイルワーキングやコミュニケーションの手法を導入するためにParabolを構築した。アジャイルの原則が、ステータスミーティングを通じた開発者の成果の促進に適しているのなら、同じプロセスが他の仕事の場でも通用するのではないだろうかと考えたのだ。

しかし、市場には別の考えがあった。ビジネス界で大成功を収めるには、ハスニー氏がいう「行動の変化」が必要なことから摩擦が避けられず、それは新しいサービスや製品の迅速な導入には致命的だ。Parabolはビジネス界全体でヒットしたのではなく、なんとアジャイル開発チーム自身がParabolのテクノロジーを使い始めたのだ。

Parabolは、その需要を追いかけた。そしてその需要は非常に大きいことが分かったのだ。ハスニー氏は、世界には約2000万人のアジャイル開発者がいると推定しており、そのビジネスによってAtlassianのような企業が巨大な成功を収めている。ベンチャー企業にとっては、長い間泳ぎ続けるのに十分な大きさのプールなのだ。

先ほどのソフトウェア市場の大きさの話に戻ると、Parabolは良い参考になる。Parabolはソフトウェア制作の世界特有の会議スタイルの一部をサポートすることで、本物の会社となりつつあるようにも見えるが、ソフトウェアの市場はとにかく巨大なのだ。

成長

アジャイルソフトウェアチームのサポートを決定した後、Parabolにはすぐに成長が訪れた。2018年と2019年には毎月20%から40%の成長が見られたと同社のCEOは語る。自社を「ロケット」と呼ぶハスニー氏は、ParabolのフリーミアムのGTMモデルを一部評価している。これは、従来の販売プロセスを敬遠する開発者に販売する際の一般的なアプローチだ。

Parabolは、既存の顧客に販売することで、プロダクト・マーケット・フィットを実現した。ハスニー氏自身は、アジャイルソフトウェア開発者の作業サポートツールの需要を過小評価していた。それは開発者らは自分たちのニーズをすでに把握しているだろうと思っていたからだとTechCrunchに語った。

しかし、Parabolが作ったのは単純なツールではない。まず振り返りミーティングやインシデントの事後検証を行うためのソフトウェアで、作業者から「やるべきこと」「やらない方がいいこと」「維持すべきこと」などのメモを収集する。そして、それらのメモはトピックごとに自動的に集約され、その後、ユーザーが投票して変更点や取るべき行動を決定するというサービスなのだ。その結果、開発チームは非同期に同期された状態を保つことができる。

Parabolは2019年11月にシードラウンドを完了し、ちょうど新型コロナウイルス感染症流行に備えた資金を用意するのに間に合った。在宅勤務への急激な切り替わりにより、Parabolのユーザー数は2020年1月には週600人だったのが、同年3月には週5000人にまで増加した。データを自分の目で確認したい場合は、ここに同社による公開データがあるので参照して欲しい。

400万ドル(約4億3700万円)の資金を調達したハスニー氏は、周囲から「今がチャンスだ」と言われ、さらなる資金調達を決意。そして、いくつかの会社の中から選ぶことになり、最終的にはマイクロソフトの資金を受け取ることになった。

そこにはストーリーがある。ハスニー氏によれば、マイクロソフトのM12は、ベンチャーキャピタルのリストの上位にはなかったという。純粋なベンチャーキャピタルではなく、戦略的資本を利用することは1つの選択肢に過ぎず、すべてのベンチャー企業にとって最適なものではないからである。しかし、ハスニー氏たちがマイクロソフトのパートナーと知り合いになり、お互いに調査を行った結果、その適合性が明らかになった。CEOによると、M12の投資チームは、AzureやGitHubなど、さまざまなマイクロソフトのグループに電話をしてParabolに対する意見を聞いたそうだ。彼らは絶賛した。そしてマイクロソフトはこの取引に関して強い内部シグナルを発し、Parabolは自社の投資元となる可能性のある企業が自社製品のヘビーユーザーであることを知ったのだ。

取引は成功した。

なぜ800万ドルで、それ以上ではないのか?ハスニー氏によると、このベンチャー企業の成長計画は資本集約的ではなく、むしろ市場が成長を引っ張っているとのことだ。また、チームは希薄化を意識していると説明する。創業チームが会社を結成したのは2015年で、シードラウンドを完了したのは2019年になってのことだった。当時はひもじい時代だったと同氏はいう。そこまでして得た所有権にはこだわりがあるのだろう。

Parabolは意図的に無駄のない経営を行っている。ハスニー氏は、自身のチームはReid Hoffman(リード・ホフマン)氏のような電撃的な規模拡大の理念には従わず、個人の成長を考えた採用を重視しているという。コラボレーション製品を作るためにすぐに規模拡大する必要はないと、CEOは考えている。

この800万ドルの資金調達により、Parabolは無限の可能性を秘めているとCEOは語ったが、同社はこれを約24カ月間分の資金調達とした。24カ月後には、社員が現在の10人から30人程度に増えていることを期待する。

Parabolは、2021年の収益を4倍にし、2022年にはそれを3倍にしたいと考えている。また、現在10万人のユーザーを2021年中に50万人に拡大し、来年末には100万人にしたい計画だ。目標に対する同社のパフォーマンスから目を離すことができなさそうだ。

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:Parabol資金調達アジャイル開発

画像クレジット:Chainarong Prasertthai / Getty Images

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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