リアル志向、フリマ、インスタントEC――激変するEC業界を振り返って2015年を展望する

編集部注:この原稿はイイヅカアキラ氏による寄稿である。イイヅカ氏はウェブ制作会社にデザイナー、ディレクターとして従事したのち、フリーランスのデザイナー兼ブロガーとして活動。現在はウェブ接客ツール「KARTE」を開発するプレイドに所属しており、同社にてEC特化型メディア「Shopping Tribe」の編集長兼ライターを務めている。

2013年はEC業界にとって激動の1年と言われたが、2014年はその変化が着実に浸透していった1年となった。リアルとネットを繋げる動きが進み、スマートフォンの台頭による、新しい購買行動を創出する動きが目立った。

そして2015年、筆者はトレンドとなるのが「カスタマイズEC」と「ウェブ接客サービス」という2点だと考えている。ここではまず3大モール、フリマアプリ、インスタントコマースという切り口で2014年のEC業界の動向を振り返りつつ、あらためて2015年のトレンドについて考えていきたい。

無料化やリアル進出――3大モールはどう動いたか

まずは国内の主要3大モールである、楽天Yahoo!ショッピングAmazonの動きを振り返ってみよう。

2014年に最も大きな変化があったのはYahoo!ショッピングだろう。2013年10月に「eコマース革命」と銘打って手数料・月額利用料・売上ロイヤルティを無料にしてから約1年が経過したが、2014年には2つの大きな変化があった。

1つめは店舗数だ。eコマース革命以前は約2万件だった店舗数は2014年9月末時点で19万3000件と大幅に増加。1年で約10倍の店舗数に拡大した。

2つめは商品数だ。店舗数の拡大もあって、商品点数はeコマース革命以前から約5割増加した1.2億点となった。現在国内で商品点数ナンバーワンを誇る楽天市場の商品数は1.5億点であり、その数字に迫るものとなっている。2015年早々にも商品数で逆転することが予測される。

Yahoo!ショッピングの施策は手数料などの無料化だけではない。出店の敷居を下げるために、5分ほどで簡単にショップを作れる「ストアクリエイター」を1月22日から導入し、2月からは個人の出店受付も開始した。全体の割合としては法人が上回るようだが、出展を法人に限定する楽天市場の店舗数は4万1000店(2014年12月時点)であることを考えると、出店対象者が大きく広がっていることがわかる。

このように大きな変化は見られたものの、第2四半期(7月〜9月分)のショッピング関連の流通総額の伸びは前年同期比で10%増にとどまった。2014年は売れるモールになるための下地を作った1年であったといえるだろう。

楽天に関しては、リアルでの消費行動に関連するサービスの拡充が目立った。

店舗でチェックインするだけでポイントが貯まる「楽天チェック」を4月に開始し、楽天市場で人気のお取寄せスイーツなどを提供するリアル店舗「楽天カフェ」を5月に東京・渋谷にオープン。そして、コンビニなどの全国約1万2,600以上の加盟店舗で楽天ポイントの貯蓄・利用ができる「Rポイントカード」の発行を10月に開始した。楽天はこれまでも「楽天経済圏」という構想を都度語っていたが、そのリアルへの拡張ともいえる動きは、2015年も強化されていくことになるはずだ。

もうひとつの気になる動きは、米国でサービスを展開する2社の買収だ。買収したのはECサイトの購入履歴を集約するサービス「Slice(スライス)」とキャッシュバックサイト「Ebates(イーベイツ)」。いずれも米国におけるデータ収集という狙いもありそうだが、米国展開強化の一端と言えるだろう。

Amazonは、有名店のプライベートブランド商品を集めた「プライベートブランドストア」を開設するなど、2014年も専門ストアの拡充が多く見られた。また同時に2013年10月からはメーカーとコラボしてAmazon限定の食品販売を開始するなどしている。この背景にはAmazonが持つビッグデータの存在がある。同社は自らが持つデータをもとに、ユーザーの望むテイスト、モデル、カラー、デザインの限定商品を開発したわけだ。

店頭受取サービスを開始したことも重要な動きの1つだ。これまでも行っていたコンビニ受取の取り組みを拡張するものだが、ヤマト運輸と提携しすることで、ヤマトの営業所で最短当日受取が可能になった。ちなみにコンビニについては、ローソンでは翌日、ファミリーマートでは2日後に受け取ることが可能だ。

実は、セブン&アイが自社グループのECで購入した商品を対象に、セブン-イレブンの店舗で当日受取を可能にしようとする動きがある。同社は2015年のサービス開始を目標にしているが、Amazonはこれに先んじて実現した形だ。コンビニとの連携という点ではほかにもローソンと共同で、店頭のLoppi端末の電話などを使用した店頭注文サービスも開始している。今後もECをリアルに拡張する動きとしてコンビニが重要な役割を占めていくことになりそうだ。

米国ではさらに、ニューヨークに拠点を設け自転車による1時間以内の配送を実現する「Amazon Prime Now」を開始している。ほかにもドローンでの配送やタクシーの配車アプリを活用した配送など、さまざまな試みも進められている。Amazonの物流の強化はとどまるところを知らないようだ。

フリマアプリが躍進——メルカリ・Frilが好調

2014年はフリマアプリが注目された1年でもあった。

フリマアプリ市場を牽引したのは、メルカリの「メルカリ」だ。5月にテレビCMを開始してから、半年で約400万ダウンロードを伸ばし、12月時点で700万ダウンロードを突破した。月間流通総額は数十億円規模となり、フリマアプリの中では頭ひとつ抜けた存在となった。3月には14.5億円、10月に23.6億円と大型の資金調達を立て続けに行い、9月には米国版を正式にリリースした。

もう1つ、市場を牽引する存在となっているのがフリマアプリブームのきっかけとなったFablicの「Fril」だ。女性特化型ながら250万ダウンロードを突破し、月間流通総額は5億円を超える。9月には10億円の資金調達を実施し、その翌月からテレビCMを開始した。8月にはFril内にブランドの公式ショップを立ち上げるBtoCサービスも開始しており、こちらも好調のようだ。

LINEの「LINE MALL」も2014年3月から本格的にスタートし注目を集めた。誰ともかぶらない、かつ最も安い購入価格を設定した人だけが商品を購入できる「チャンスプライス」や共同購入が可能な「LINEグループ購入」、さらにLINEでつながっている友人にギフト商品を送ることができる「LINE ギフト」など、LINEのプラットフォームを活かした独自サービス展開をしている。

好調なフリマアプリが注目される一方で撤退を選択した企業も相次いだ。サイバーエージェントの「マムズフリマ(元 毎日フリマ)」や、ブランド品に特化したWhyteboardの「LISTOR(元 Whytelist)」、男性向けに特化したドウゲンザッカーバーグの「bolo」などは、フリマアプリに早い段階で参入していたもののすでにサービスを終了させている。

事業者の明暗が分かれたようにもみえるフリマアプリだが、2014年後半も新規参入があった。もっとも話題を集めたのは、11月に登場した楽天のフリマアプリ「ラクマ」だ。

実はメルカリは開始以来無料で提供してきた販売手数料を10月から有料にし、販売価格の10%が発生するに形に変更している。これを好機とみたのか、ラクマは手数料無料でサービスを開始している。そのタイミング、そして楽天のブランド力もあって注目を集めることとなった。この他に、SHOPLIST.comを運営するCROOZの「Dealing(ディーリング)」や、プリクラ機のトップシェア持つフリューの「Bijoux de Marché(ビジュードマルシェ)」も10月からサービスを開始しており、2015年も引き続きフリマアプリは注目の分野となりそうだ。

勢いの止まらないインスタントコマース

2013年から店舗数が増加する勢いが止まらなかったのがインスタントコマースだ。ブラケットの「STORES.jp」は2013年12月時点で6万店舗だったが、2014年11月には17万店舗に拡大。競合であるBASEの「BASE」は2013年10月時点で5万店店舗だったが、10万店舗(2014年11月)まで拡大させた。

STORES.jpは、この1年で親会社であるスタートトゥデイが展開する「ZOZOMARKET」や ハンドメイド素材大手のユザワヤ商事が展開する「ユザワヤマーケット」など提携するマーケットプレイスを様々な企業と共同でオープン。商品の露出機会を増やす施策を進めた。そして、ZOZOTOWNに出店する店舗が瞬時に自社店舗を開設できる「STORES.jp PRO」も3月に開始。ZOZOTOWNと在庫連携し発送もZOZOTOWNが行うため、店舗は負担を増やすことなく自社店舗を運営することを可能にした。

STORES.jpは2014年後半に店舗数の伸びが加速したが、2つの理由が考えられる。1つは、無料プランでは5点までだったアイテム登録の制限を撤廃したこと。もう1つはフォロー機能を開始したことだ。フォロー機能は、好きな店舗をフォローし、新着情報を取得できるようにするショップ利用客向けのサービスだが、この機能を利用するには会員登録をする必要がある。その登録手続きによって店舗も同時に開設されるため、これが店舗数の伸びにつながったものとみられる。

また会員登録によって、利用客が住所やクレジットカード番号をSTORES.jpに保存できるようにもなったのもポイントだ。STORES.jpのサイトで都度クレジットカードの入力が必要でなくなるという利便性は、それこそ楽天やAmazonのようなショッピングモールを利用しているユーザーからすれば無くてはならないものだ。

BASEは、開発者向けAPIの提供を10月に開始したほか、三井住友カードと提携しクレジットカード決済が店舗開設と同時に利用できるようになった。5月にはグローバル・ブレインから約3億円の資金調達を実施し、2015年以降にマネタイズを進めることも明らかにしている。

フリマアプリ、インスタントコマースの台頭したことに関して、共通しているのは売り手の敷居を下げたということ。これが本格的に浸透していったのが2014年なのではないだろうか。Yahoo!ショッピングもビジネスモデルを大きく転換し、この流れを加速させた。まだまだ足場を固めたレベルなのかもしれないが、2015年に大きな変化を生むような気がしてならない。

2015年に注目する2つの分野

冒頭で書いたとおりだが、筆者が2015年に注目している分野は「カスタマイズEC」と「ウェブ接客サービス」だ。

カスタマイズECは、ウェブ上で自分好みにカスタマイズし、自分だけの商品を注文できるサービス。日本では、10億通りのオリジナルシャツを作成できる「Original Stitch」などがサービスを展開しているが、技術革新が進み、ファッション・家具・食品など様々なジャンルから新サービスが登場しそうだ。3Dプリンタを活用したサービスも今後展開するものと思われる。

ウェブ接客サービスは、97%が何も買わずにサイトを立ち去ってしまうというECサイトの現状を打破すべく、接客をすることで購入率を高めようとするサービスだ。筆者が所属するプレイドでもウェブ接客サービス「KARTE」を開発しており、2015年に一般公開する予定だ。KARTEは来訪者をリアルタイムでどのようなお客様なのかを解析し、グループに分類した上で、その来訪者にあった接客(レコメンドやクーポンの発行など)を自動で行うというものだ。

これまでは、インターネットの特性を活かして多くの商品を多くの人に届けるために「効率化」ばかりに目が向いていた店舗も少なくないだろう。ウェブ接客により、リアル店舗のようにひとりひとりの訪問者にしっかりと対応していくことが、これから注目されるのではないだろうか。

2014年はさまざまな形でECへの参入、ECの利用の敷居を下げるようなサービスが登場したと感じているが、2015年にはそれらがどのように進化するのだろうか。また、新しいニーズを創出するどのようなサービスが登場するのか注目していきたい。

photo by
Maria Elena


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。