リファラル採用を人事部任せではなく企業文化に、リフカムがスタートアップ特化の新サービス

拡大期のスタートアップにとって「自社にあった優秀な仲間を採用できるかどうか」はその後の成長スピードに大きな影響を与える重要なポイントだ。

TechCrunch Japanでは日々国内スタートアップの資金調達ニュースを紹介しているけれど、起業家にその使徒を聞いても多くの場合「エンジニアを中心とした人材採用の促進」や「組織体制の強化」という答えが返ってくる(“プロダクトの拡充”なども、突き詰めていくとそのための人材採用だったりすることが多い)。

近年採用のカタチが多様化し様々な概念も生まれている中で、社員の繋がりを生かした「リファラル採用」は多くのスタートアップが取り組む手法の1つではないだろうか。

本日10月16日にベータ版が公開された「Refcome Teams」はまさにスタートアップのリファラル採用にフォーカスして、そこにまつわる課題を解決するプロダクトだ。

飲食店とスタートアップではリファラル採用の毛色が異なる

Refcome Teamsを簡単に説明するとスタートアップ向けの「リファラル採用に特化したタレントプール」ということになるだろうか。このプロダクトを手がけるリフカム代表取締役の清水巧氏は「Salesforceのタレント管理版」という表現をしていたが、これがわかりやすいかもしれない。

まずは社員みんなの繋がりをベースに候補者のプールを作り、各候補者に対するアクションの履歴や転職意向などのステータスをプロダクト上で管理していく。その上でSlackなどと連携することで適切なメンバーに通知が届き、現場が主体となってチーム一丸でリファラル採用を進めていけるようにサポートする。そんなプロダクトだ。

リファラル採用サービスはすでにいくつも存在する中でRefcome Teamsはどんな特徴を持つのか。それについてはリフカムがこのプロダクトを開発するに至った背景を紹介するのが1番良さそうだ。

リフカムの主要プロダクト「Refcome」。人事担当者からメールやアプリで送られてきた専用ページを友人に転送するだけで簡単に紹介できる

リフカムは2016年7月にリファラル採用を活性化させるサービス「Refcome」をリリース。約2年強の間に、飲食店やサービス業を中心に累計約850社で活用されてきた。特に近年はすかいらーくグループや吉野家といった大手飲食チェーンへの導入が進んでいる。

ただ清水氏の話では一口に「リファラル採用」と言っても、飲食店やサービス業におけるリファラル採用とITベンチャー・スタートアップにおけるリファラル採用では若干毛色が異なるようだ。

「飲食店では特にアルバイト採用で重宝されていて、“スカウト”のような機能を使ってフランクに知り合いに声をかけることが多く、時間軸も短期的なものが多い。一方でスタートアップにおけるリファラル採用は、優秀なエンジニアの知り合いを『数ヶ月、数年かけて口説く』といったように長期スパンで時間をかけながら進めていく。違う使い方やニーズに対して同じプロダクトを提供していることに関して、徐々にもやもやするようになった」(清水氏)

そもそもリフカムは創業当初に「Combinator」というスタートアップの仲間集めを支援するプロダクトをやっていたこともあり、清水氏もこの分野で事業を展開したい気持ちが強かったそう。それを踏まえた時に「何より自分たち自身が今のRefcomeをヘビーユースできていなかった」ため、スタートアップにフォーカスした新たなサービスを作ることを決断したという。

リフカムが創業当初に手がけていた「Combinator」

スタートアップが抱えるリファラル採用3つの課題

リファラル採用支援サービスを手がけるということもあり、以前から自社採用についてはリファラル経由での割合が1番多かったという清水氏。とはいえ「この課題に対してしっかりアプローチできていればもっと上手くいっていたと思う」という3つのポイントがあるそうだ。

1つ目がリファラル採用の依頼をしても、多くのメンバーは「優秀かつ転職を考えている人にしか声をかけない」ということ。優秀な人であるほど当然引く手数多であり、すでに他社で活躍していることも多い。本来はそういう人材にも中長期的にアプローチをしていくべきだが「リファラル採用に協力して」と言われただけでは、社員も候補者としてリストアップしづらい。

実際リフカムの社内でも同様の課題が発生していたため「まずは一旦タレントリストに追加してくれるだけでいい」と伝え方を変えてみたところ、リストに追加される候補者の数自体が一気に増えたという。

2つ目のポイントが「タレントプールに追加した候補者の管理が大変」だということ。特に数が増えてくるとエクセルやスプレッドシートで動向を記録していくのは困難。リフカムでも「(候補者が)気づいたら転職している」「社員の知り合いなのにエージェントから紹介されてしまう」という自体に陥っていたようだ。

「社内で試したところタレントプールに約250人の候補者があがり、そこから4人採用に繋がった。ただ後々調べてみると少なくともそのリストの中で20人以上転職していて、もっと多くの仲間を採用できるチャンスがあったことがわかった」(清水氏)

そして3つ目のポイントが「会社規模が大きくなるとリファラルの協力率が下がる」ということ。リフカムが80社にアンケートをとってみたところ、特に企業間で差が出るのが社員20〜30名以上になるタイミングなのだそう。「具体的に人事部ができるタイミング。それまでは全員が採用に積極的でも、人事部ができると『採用は人事がやってくれる』という状況に陥りがち」だという。

この3つのポイントでつまずかないようにサポートするツールこそが、Refcome Teamsだ。

社員全員参加型のでリファラル採用プラットフォーム

現時点でのRefcome Teamsの機能を整理しておくと以下がメインとなる。

  • メモリーパレス機能 : 人事も知らない人脈を発見しタレントプールを作成
  • コラボレーション機能 : 候補者のステータスを全員で管理し関係性を構築
  • アラート機能 : 候補者の転職意向の変化や社員のネクストアクションをアラート
    • カルチャー機能 : チームの頑張りを可視化

中でも候補者をリストアップする「メモリーパレス」は核となる機能。実はメモリーパレスというのは米国の著名VCセコイアキャピタルが投資先に推奨しているリファラル採用手法の名称だ。

この手法では「高校時代の友人で特に優秀な人を3人教えてください」といった形で各メンバーに候補者をリストアップしてもらう。これを高校、大学、インターン時代、社会人1社目、と時系列で実施していくことからメモリーパレスというらしい。

Refcome Teamsの場合は若干仕様が異なるが、大枠は同じだ。まず最初に管理者がプールに追加してほしい候補者の条件を選択する。たとえばセールスorエンジニア、新卒or中途といったものを想定してもらうといいだろう。その条件に合わせて「前職のセールスメンバーで優秀な人を3人教えてください」などの質問が自動で生成され、各社員に届く。

社員は受け取った質問に該当する知人をSNSなどの繋がりをベースにリストアップすればいい。清水氏によるとだいたい各メンバーあたり10人ぐらいの候補者が出てくるそうで、社員数が30人規模の企業であれば、約300人のタレントプールができるようなイメージだ。

プールに新たなメンバーが追加されると、該当する部門のリーダーにSlackで通知が届く仕組み。各候補者ごとのページで「この人気になるから話聞いてきてくれない」と社員に依頼したり、候補者に対するアクションや進捗を一括で管理していくことができる。

「リファラル採用は本来営業と同じで最終的なゴールの手前に『今月何人の候補者をプールに追加できたか』『何人に具体的なアクションができたか』といった細かいKPIがあるはず。一連の状況や進捗を可視化し、人事部任せではなく全員で管理しながら効果的なアクションができるようになる」(清水氏)

清水氏がこのプロダクトを「Salesforceのタレント管理版」と表現していたのも、まさに上記のような理由からだ。営業と同様に、仲間集めにおいてもCRMのような仕組みを浸透させていきたいそう。候補者の前段階の人を“prospect(プロスペクト)”と呼ぶことから、そういった人材との関係性を構築できる「PRM(プロスペクトリレーションシップマネジメント)」という概念を広げていきたいということだった。

「1人3役」から「1人適役」のリファラル採用へ

Refcome Teamsは社員数1人につき月額3000円の定額モデルで提供していく計画。すでに30社で導入が決定していて、約半数ではすでに運用も始まっている。まだタレントプールを作っていく段階の企業が多いが「こんな優秀な人と繋がっているならもっと早く教えてよ」と、今のところはこれまで社員からあがってこなかった繋がりに気づけるようになったと評判も良いそうだ。

また今回リフカムではベータ版の提供開始と共に、メルカリの石黒卓弥氏とReBoost代表取締役社長の河合聡一郎氏が開発パートナーとして協力していることも発表している(河合氏はリフカムに出資もしているとのこと)。

2015年1月にジョインしたメルカリで人事企画や組織開発担当として活躍してきた石黒氏は、個人でも複数のスタートアップにて人事領域のアドバイザーを務める人物。河合氏も過去に在籍していたビズリーチやラクスルで採用領域の現場経験が豊富なほか、現在は投資先のスタートアップの社外人事を担っていたり企業向けに人事組織や採用の支援を行っていたりもする。

河合氏からは「スタートアップの成長においては『全社員が当事者となり、良いチームを創ると言う事が当然な文化』を、なるべく早い段階から築くことができるかがポイント」だとした上で、スタートアップにおけるリファラル採用や、今回のプロダクトで実現したいことに関するコメントを得られた。

「その為には自社や事業が『なぜ存在しているのか』と同じように『なぜその組織なのか』という組織創りへのビジョンやストーリーも必要です。その上で今後の組織創りにおけるテーマは『共創』だと思います。それらを理解、体現し全社員が採用活動に関与する中で、リファラルはとても相性や有用性が高いと思います」

「一方でリファラル採用は、そのプロセスにおいて『職種ごとにフィットした仲間の紹介のしやすさ』や、『適切な紹介タイミング』『入社決定できるかどうか』『候補者のDBの可視化』など、様々な課題に対する解決策が必要だと考えています。RefcomeTeamsを通じて、CRMやMAの要素を提供することにより、結果的に『仲間づくりの文化創り』のきっかけになればと思います」(河合氏)

リフカムでは今後「Refcome」と「RefcomeTeams」の2つのプロダクトを軸に様々な企業の仲間集めをサポートする計画。現在はTeamsにもかなりの開発リソースを割いているそうで、機能面のブラッシュアップなども随時実施していく予定だ。

「従来のリファラル採用は各社員が候補者をリストアップして、口説いて、入社確度がある程度高まったタイミングで初めて人事や経営陣に紹介するという『1人3役』のリファラルが中心だった。今回掲げるのは社員が候補者の追加を担当し、実際に口説いたり、クロージングするのはマネージャーや経営層が一緒に取り組んでいくという『1人適役』のリファラル採用。この文化を作っていくのは自分たちにとっても大きなチャレンジになる」(清水氏)

投稿者:

TechCrunch Japan

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