レシピ動画の「クラシル」、タイアップ広告に続いて広告配信プラットフォームの提供を開始

複数の企業が多額の資金を投入しながら、しのぎを削りあっているレシピ動画市場。TVCMを実施するdelyの「kurashiru(クラシル)」とエブリーの「DELISH KITCHEN(デリッシュキッチン)」を筆頭に、クックパッドの「クックパッド料理動画」やBuzzFeed Japan の「Tasty Japan(テイスティージャパン)」などがある。

この盛り上がりをみせるレシピ動画市場は、認知度拡大・獲得のフェーズから徐々に次のフェーズへと向かっていくのかもしれない。クラシルを提供するdelyは、9月1日よりkurashiruを対象とした広告配信プラットフォーム「kurashiru ads」の運用を開始した。

kurashiru adsではクラシルの広告掲載領域の最上部に配信できる純広告「Premium Ads」と、インフィード型の運用型広告「Network Ads」の2種類を提供。どちらも静止画・動画に対応する。すでに展開しているタイアップ広告には出稿できなかった企業を開拓することで、新たな収益源の確立を目指す。

サービスの成長に比例した収益化目指す

これまでクラシルの収益源の柱となっていたのは、2016年5月から始めているタイアップ広告だ。たとえばレシピの中で食品メーカーの調味料や、飲料メーカーの商品を使うというもの。dely代表取締役の 堀江裕介氏によると「タイアップ広告は商品がスーパーの棚に置かれ、その後売れた時にはじめて成果となる。売れた要因を特定しづらいこともあり、効果測定が難しく当初は苦戦した」そうだ。

ただテレビCMの実施などでユーザー数が増加しタイアップ動画の反響がで始めると、クラシルで動画を作ると「売り上げが増える」「担当者が商品を棚に置く」という評判が広がるようになったという。当初は1本ごとの受注が多く単価も数百万前半だったが、最近では初めから数本単位・合計数千万円の受注も増えてきているという。

タイアップ広告が伸びていく一方でアパレルメーカーや美容品メーカーといった、食品業界以外の企業からクラシルに広告を出したいという問い合わせも増加。業種を広げる広告メニューの検討を進める中で生まれたのが、今回始めたkurashiru adsだ。kurashiru adsは新たな顧客を開拓することに加え、タイアップ広告にはないメリットがあるという。

「タイアップ広告はMAU(月間のアクティブユーザー)やimp数(広告の表示回数)が増えたからといって、それに比例して売り上げがあがるタイプの広告ではない。どちらかという広告主や代理店における認知度や、流行っている・イケているというイメージが売り上げに影響する。クラシルではユーザーの継続率やアクティブ率に自信を持っているからこそ、トラフィックが伸びれば安定した収益が上がる仕組みを作りたかった」(堀江氏)

認知度をとる戦いから、ユーザーのエコノミクスに合わせる戦いへ

堀江氏に今後の方向性を聞くと、まずこれからの半年は「ARPU(1ユーザー当たりの平均収益)をどこまで高められるか何がその要因になるのか、kurashiru adsも含めやりながら戦略を考えていくフェーズ」になるという。クラシルでは広告に加えて2016年8月からユーザー向けに有料プランも提供しているが、まずは広告事業を伸ばしていく方針だ。

delyにはフリークアウト・ホールディングス代表取締役社長の佐藤裕介氏や、アトランティスの創業者でもある連続起業家の木村新司氏、ユナイテッド取締役の手嶋浩己氏といった広告に詳しい面々が投資家として参画している。広告事業を展開する際に彼らのサポートが受けられるのは大きなメリットだろう。

今回興味深かったのは「今後レシピ動画市場は認知度獲得の戦いから、いかにユーザーのエコノミクスに合わせていけるかという、より本質的な戦いになるのではないか」という堀江氏の見解だ。

「Webサービスというのは、データのマッチングだと思っている。ユーザーにどのようなコンテンツをマッチングするか、どのような広告情報を出していくか。やればやるほどその精度は高くなるため、自社で広告や有料課金などに取り組みデータを貯めてきた。これからの半年では『やったことがない』をなくしていき、完成度を高めていきたい」(堀江氏)

TVCMの影響もあり、レシピ動画はIT業界の外にも認知が広がってきているように感じる。これからは獲得したユーザーの心をいかにつかみ、ビジネスとして大きくしていくのか。レシピ動画市場は次のフェーズに進んでいきそうだ。

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TechCrunch Japan

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