ロボット、チップ、完全自動運転、イーロン・マスク氏のTesla AI Dayハイライト5選

Elon Musk(イーロン・マスク)氏はTesla(テスラ)を「単なる電気自動車会社ではない」と見てもらいたいと考えている。米国時間8月19日に開催されたTesla AI Day(テスラ・AI・デー)で、イーロン・マスクCEOはテスラのことを「推論レベルとトレーニングレベルの両方でハードウェアにおける深いAI活動」を行っている企業であると説明した。この活動は、自動運転車への応用の先に待つ、Teslaが開発を進めていると報じられている人型ロボットなどに利用することができる。

Tesla AI Dayは、映画「マトリックス」のサウンドトラックから引き出された45分間にわたるインダストリアルミュージックの後に開始された。そこでは自動運転とその先を目指すことを支援するという明確な目的のもとに集められた、テスラのビジョンとAIチームに参加する最優秀のエンジニアたちが、次々に登場してさまざまなテスラの技術を解説した。

「それを実現するためには膨大な作業が必要で、そのためには才能ある人々に参加してもらい、問題を解決してもらう必要があるのです」とマスク氏はいう。

この日のイベントは「Battery Day」(バッテリー・デー)や「Autonomy Day」(オートノミー・デー)と同様に、テスラのYouTubeチャンネルでライブ配信された。超技術的な専門用語が多かったのだが、ここではその日のハイライト5選をご紹介しよう。

Tesla Bot(テスラ・ボット):リアルなヒューマノイド・ロボット

このニュースは、会場からの質問が始まる前にAI Dayの最後の情報として発表されたものだが、最も興味深いものだった。テスラのエンジニアや幹部が、コンピュータービジョンやスーパーコンピュータDojo(ドージョー)、そしてテスラチップについて語った後(いずれも本記事の中で紹介する)、ちょっとした幕間のあと、白いボディスーツに身を包み、光沢のある黒いマスクで顔が覆われた、宇宙人のゴーゴーダンサーのような人物が登場した。そして、これは単なるテスラの余興ではなく、テスラが実際に作っている人型ロボット「Tesla Bot」の紹介だったことがわかった。

画像クレジット:Tesla

テスラがその先進的な技術を自動車以外の用途に使うことを語ろうとするときに、ロボット使用人のことを語るとは思っていなかった。これは決して大げさな表現ではない。CEOのイーロン・マスク氏は、食料品の買い物などの「人間が最もやりたくない仕事」を、Tesla Botのような人型ロボットが代行する世界を目論んでいるのだ。このボットは、身長5フィート8インチ(約173cm)、体重125ポンド(約56.7kg)で、150ポンド(約68kg)の荷物を持ち上げることが可能で、時速5マイル(約8km/h)で歩くことができる。そして頭部には重要な情報を表示するスクリーンが付いている。

「もちろん友好的に、人間のために作られた世界を動き回ることを意図しています」とマスク氏はいう。「ロボットから逃げられるように、そしてほとんどの場合、制圧することもできるように、機械的そして物理的なレベルの設定を行っています」。

たしかに、誰しもマッチョなロボットにやられるのは絶対避けたいはずだ(だよね?)。

2022年にはプロトタイプが完成する予定のこのロボットは、同社のニューラルネットワークや高度なスーパーコンピューターDojoの研究成果を活用する、自動車以外のロボットとしてのユースケースとして提案されている。マスク氏は、Tesla Botが踊ることができるかどうかについては口にしなかった。

関連記事:テスラはロボット「Tesla Bot」を開発中、2022年完成予定

Dojoを訓練するチップのお披露目

画像クレジット:Tesla

テスラのディレクターであるGanesh Venkataramanan(ガネッシュ・べンカタラマン)氏が、完全に自社で設計・製造されたテスラのコンピュータチップを披露した。このチップは、テスラが自社のスーパーコンピュータ「Dojo」を駆動するために使用している。テスラのAIアーキテクチャの多くはDojoに依存している。Dojoはニューラルネットワークの訓練用コンピューターで、マスク氏によれば、膨大な量のカメラ画像データを他のコンピューティングシステムの4倍の速さで処理することができるという。Dojoで訓練されたAIソフトウェアは、テスラの顧客に対して無線を通じてアップデートが配信される。

テスラが8月19日に公開したチップは「D1」という名で、7nmの技術を利用している。べンカタラマン氏はこのチップを誇らしげに手に取りながら、GPUレベルの演算機能とCPUとの接続性、そして「現在市販されていて、ゴールドスタンダードとされている最先端のネットワークスイッチチップ」の2倍のI/O帯域幅を持っていると説明した。彼はチップの技術的な説明をしながら、テスラはあらゆるボトルネックを避けるために、使われる技術スタックを可能な限り自分の手で握っていたかったのだと語った。テスラは2020年、Samsung(サムスン)製の次世代コンピューターチップを導入したが、ここ数カ月の間、自動車業界を揺るがしている世界的なチップ不足から、なかなか抜け出せずにいる。この不足を乗り切るために、マスク氏は2021年夏の業績報告会で、代替チップに差し替えた結果、一部の車両ソフトウェアを書き換えざるを得なくなったと語っていた。

供給不足を避けることは脇においても、チップ製造を内製化することの大きな目的は、帯域幅を増やしてレイテンシーを減らし、AIのパフォーマンスを向上させることにあるのだ。

AI Dayでべンカタラマン氏は「計算とデータ転送を同時に行うことができ、私たちのカスタムISA(命令セットアーキテクチャ)は、機械学習のワークロードに完全に最適化されています」と語った。「これは純粋な機械学習マシンなのです」。

べンカタラマン氏はまた、より高い帯域幅を得るために複数のチップを統合した「トレーニングタイル」を公開した。これによって1タイルあたり9ペタフロップスの演算能力、1秒あたり36テラバイトの帯域幅という驚異的な能力が実現されている。これらのトレーニングタイルを組み合わせることで、スーパーコンピューター「Dojo」が構成されている。

完全自動運転へ、そしてその先へ

AI Dayのイベントに登壇した多くの人が、Dojoはテスラの「Full Self-Driving」(FSD)システムのためだけに使われる技術ではないと口にした(なおFSDは間違いなく高度な運転支援システムではあるものの、まだ完全な自動運転もしくは自律性を実現できるものではない)。この強力なスーパーコンピューターは、シミュレーション・アーキテクチャーなど多面的な構築が行われており、テスラはこれを普遍化して、他の自動車メーカーやハイテク企業にも開放していきたいと考えている。

「これは、テスラ車だけに限定されるものではありません」マスク氏。「FSDベータ版のフルバージョンをご覧になった方は、テスラのニューラルネットが運転を学習する速度をご理解いただけると思います。そして、これはAIの特定アプリケーションの1つですが、この先さらに役立つアプリケーションが出てくると考えています」。

マスク氏は、Dojoの運用開始は2022年を予定しており、その際にはこの技術がどれほど多くの他のユースケースに応用できるかという話ができるだろうと語った。

コンピュータビジョンの問題を解決する

AI Dayにおいてテスラは、自動運転に対する自社のビジョンベースのアプローチの支持を改めて表明した。これは同社の「Autopilot」(オートパイロット)システムを使って、地球上のどこでも同社の車が走行できることを理想とする、ニューラルネットワークを利用するアプローチだ。テスラのAI責任者であるAndrej Karpathy(アンドレイ・カーパシー)氏は、テスラのアーキテクチャを「動き回り、環境を感知し、見たものに基づいて知的かつ自律的に行動する動物を、ゼロから作り上げるようなものだ」と表現した。

テスラのAI責任者であるアンドレイ・カーパシー氏が、コンピュータビジョンによる半自動運転を実現するために、テスラがどのようにデータを管理しているかを説明している(画像クレジット:Tesla)

「私たちが作っているのは、もちろん体を構成するすべての機械部品、神経系を構成するすべての電気部品、そして目的である自動運転を果たすための頭脳、そしてこの特別な人工視覚野です」と彼はいう。

カーパシー氏は、テスラのニューラルネットワークがこれまでどのように発展してきたかを説明し、いまやクルマの「脳」の中で視覚情報を処理する最初の部分である視覚野が、どのように幅広いニューラルネットワークのアーキテクチャと連動するように設計されていて、情報がよりインテリジェントにシステムに流れ込むようになっているかを示した。

テスラがコンピュータービジョンアーキテクチャーで解決しようとしている2つの主な問題は、一時的な目隠し(交通量の多い交差点で車がAutopilotの視界を遮る場合など)と、早い段階で現れる標識やマーク(100メートル手前に車線が合流するという標識があっても、かつてのコンピューターは実際に合流車線にたどり着くまでそれを覚えておくことができなかったなど)だ。

この問題を解決するために、テスラのエンジニアは、空間反復型ネットワークビデオモジュールを採用した。このモジュールのさまざまな観点が道路のさまざまな観点を追跡し、空間ベースと時間ベースのキューを形成して、道路に関する予測を行う際にAIモデルが参照できるデータのキャッシュを生成する。

同社は1000人を超える手動データラベリングチームを編成したと語り、さらに大規模なラベリングを可能にするために、テスラがどのように特定のクリップを自動ラベリングしているかを具体的に説明した。こうした現実世界の情報をもとに、AIチームは信じられないようなシミュレーションを利用して「Autopilotがプレイヤーとなるビデオゲーム」を生み出す。シミュレーションは、ソースやラベル付けが困難なデータや、閉ループの中にあるデータに対して特に有効だ。

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テスラのFSDをとりまく状況

40分ほど待ったときに、ダブステップの音楽に加えて、テスラのFSDシステムを映したビデオループが流れた、そこには警戒していると思われるドライバーの手が軽くハンドルに触れている様子が映されていた。これは、決して完全に自律的とは言えない先進運転支援システムAutopilotの機能に関する、テスラの主張が精査された後で、ビデオに対して法的要件が課されたものに違いない。米国道路交通安全局(NHTSA)は 今週の初めにテスラが駐車中の緊急車両に衝突する事故が11件発生したことを受け、オートパイロットの予備調査を開始することを発表した。

その数日後、米国民主党の上院議員2名が連邦取引委員会(FTC)に対して、テスラのAutopilot(自動操縦)と「Full Self-Driving」(完全自動運転)機能に関するマーケティングおよび広報活動を調査するよう要請した。

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テスラは、7月にFull Self-Drivingのベータ9版を大々的にリリースし、数千人のドライバーに対して全機能を展開した。だが、テスラがこの機能を車に搭載し続けようとするならば、技術をより高い水準に引き上げる必要がある。そのときにやってきたのが「Tesla AI Day」だった。

「私たちは基本的に、ハードウェアまたはソフトウェアレベルで現実世界のAI問題を解決することに興味がある人に、テスラに参加して欲しい、またはテスラへの参加を検討して欲しいと考えています」とマスク氏は語った。

米国時間8月19日に紹介されたような詳細な技術情報に加えて、電子音楽が鳴り響く中で、Teslaの仲間入りをしたいと思わない血気盛んなAIエンジニアがいるだろうか?

一部始終はこちらから。

画像クレジット:Tesla

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(文:Rebecca Bellan、Aria Alamalhodaei、翻訳:sako)

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TechCrunch Japan

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