ワインのレコメンドとマーケットプレイスアプリ「Vivino」が約164億円調達

ワインに興味がある人なら誰でも一度はVivino(ヴィヴィーノ)を頼って購入すべきワインを探したことがあるだろう。人々がより上質なワインを楽しめるよう、2010年よりサービスを提供している同社とそのアプリだが、今回のシリーズDラウンドでは1億5500万ドル(約164億円)の調達に成功した。この調達額はこれまでに同社が調達してきた合計額の倍以上に当たる。2018年には2900万人だったユーザーベースが5000万人にまで成長した現在、Vivinoは巨額な資本を注入して同社のコア技術とパーソナライズドレコメンデーションエンジンを大幅に強化するとともに、主要な成長市場での同社の存在感を世界的に拡大したいと考えている。

Vivinoはさまざまな面で興味深い企業だが、特に注目すべきなのは同社の設立当初のビジョンと現在のビジョンがほとんど変わっていないという点だ。創設者でCEOのHeini Zachariassen(ハイニ・ザチャリアッセン)氏は筆者とのインタビューにて、同アプリが、目まぐるしく変化するスタートアップの世界の中ではごく当たり前の大きな転換というものに、いかに無縁であるかを語ってくれた。

「私が10年前にプレゼンをした際の資料を見返してみると、『ワインボトルをスキャンしてから購入しましょう』というようなことが書いてありますが、これは誰が見ても理に適っていますし、だからこそほとんど何も変わっていません」と同氏はいう。

「アプリを作るのは、あのプレゼン資料を作るよりもかなり難しいですよ」と同氏はおどけるが「でも何も変わっていません。このモデルであるべきだということは常にわかっていました」と振り返る。

そのコアバリューこそが、人々が同社のアプリをダウンロードして使用する理由である。レストランでワインメニューに目を凝らしている時や、ワインショップに並ぶワインボトルを眺めている時など、アプリを使用するきっかけとなるシナリオは似たり寄ったりだ。筆者自身は、「ワイン、おすすめ、アプリ」などと検索した際にApp Storeで偶然見つけたVivinoをインストールしたのだが、数分後にはラベルやメニューの写真を撮っていた。最初はおすすめのワインから始まるが、以来、自分の好みを入力していくうちによりパーソナライズされた提案を受けられるようになった。

画像クレジット:Vivino

Vivinoが世界中の大小の業者と築き上げたパートナーシップのおかげで、同社のマーケットプレイスでは気に入ったワインをアプリ上で直接購入することが可能だ。ワインの販売元がユーザーにどのような対応をしたかは、アプリの提供元であるVivinoの評価に直接つながるため、パートナーに関しては高い基準を維持するよう努めているとザチャリアッセン氏はいう。

より幅広い地域のより多くの業者と関係を築いていくということは、主要な成長市場に対応するための拡大目標の1つでもあるが、同社はレコメンデーションエンジンの改善と拡大にも巨額の資本を投入する予定だ。Vivinoが10年かけてほぼゼロから作り上げたワインデータベースはもとより、さまざまな構成要素に大きな改善が施されることになる。

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「商用化される前の時点で直面した最も高いハードルは、やはりデータの構築作業でした」とザチャリアッセン氏。「集計されたデータはどこにもなかったため、まったくゼロの状態からデータを作り上げる必要がありました。ワインボトルの写真を撮って、誰かがデータを入力するという作業を毎日繰り返しました。今では15億枚のワインラベルの写真がありますが、この大量のデータを構造化された方法で構築するためには10年の歳月がかかったわけです」。

ワインはロングテール市場である傾向が著しく、個人の好みが強く表れる分野であり、同社の経験からしてもそれが今後大きく変わることはほとんどないとザチャリアッセン氏はいう。需要と供給の両面において地域に密着したVivinoのマーケットプレイスのアプローチはこの分野のニーズへの対応に適しているが、これに対するVivinoの仕事はまだ始まったばかりだと同氏はいう。これまでの控えめな資金調達額と比べると大規模なラウンドとなった今回だが、なぜこのタイミングなのかと尋ねてみた。

Vivinoのワインアプリ、サンフランシスコにて(画像クレジット:Nader Khouri 2018) 

「我々はある意味で、臨界点に達したと感じています。2020年は大規模な成長を遂げ、【略】実際に売上高は2億5000万ドル(約264億円)にまで達し、このユニットエコノミクスで考えると、当社は非常に順調と言えます。しかし同時に、弊社は他のマーケットプレイスとは物事の順序が異なります。たとえばUber(ウーバー)の場合、市場に参入してマーケティング活動や需要を構築するために多くのお金を使い、その上で供給を構築するということになります。我々の場合は需要がすでに存在するという時点で異なります。世界中にすでに5000万人のユーザーがいるため、我々はその需要に従うという形になるのです」。

「しかしネックなのは、弊社は現在17か国でワインを販売する200人規模の企業だという点です。つまり我々はどの市場でも比較的手薄になっています。このモデルで事業がうまくいくことはわかったから、それぞれの市場にもっと多くのリソースを投入して、実際に各市場にもっと深く入り込んでいこうと考えたわけです」。

ザチャリアッセン氏によると、同社はこれまでマーケティングにあまり費用を費やしてこなかったとのことで、今後は有機的な成長を促すためにより多くのコストをかけていくつもりだという。また、ユーザーは既存のアプリに十分満足しているようであるものの、「まだまだ多くの可能性を実現する」ため、プロダクトエンジニアリングに力を入れていきたいと同氏はいう。

Vivinoはワインのローカルな魅力を維持しながらも、オンライン上のグローバルなマーケットプレイスのメリットを提供するアプローチにより、これまで長い間地域の専門業者や個人のワインセラーなど特定の情報のみに限定されていた製品カテゴリーの近代化に取り組んできた。そして今、同社が見出した水面下に隠れた巨大な需要に取り組んでいくわけだが、今回の新たな資金調達はその目的の実現に向けて大いに役立つことだろう。

1億5500万ドルのシリーズDラウンドは、スウェーデンのKinnevik(キネヴィック)が主導し、Sprints Capital(スプリンツ・キャピタル)、GP BullHound(GPブルハウンド)の他、シリーズAを主導した既存投資家のCreandum(クリーンダム)も参加している。これにより同社の資金調達総額は2億2100万ドル(約233億円)となる。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Vivino資金調達ワイン

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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