一人のプログラマを育てることが教育の革命を起爆する–教育系スタートアップの最新動向

[筆者: Jon Auerbach]

編集者注記: Jon Auerbachは、UdacityThe Flatiron Schoolに投資しているCRVのパートナーだ。

読者の中にはもしかして、これまでの20年間、WiFiも何もない山奥の洞窟で寝ていた人がいるかもしれないので、まずそんな人のためにニュースを: 合衆国の教育制度は今、複数の戦線から攻撃されていて、とくに、強力な起業家精神の勃興によってその形を根こそぎ変えられようとしている。

それがとくに顕著なのは、高等教育の分野だ。今の大学は、教育とは無関係な客寄せ装置への支出の軍拡競争を、もうこれ以上は無理と思えるほどの規模にまで膨張させている。フットボールスタジアムの新設、寿司が山盛りのカフェテリア、…しかしそうやって学生たちを集めても、彼らの多くは学費を払う能力がないか、あるいは卒業して世に出たとき借金を返済できるほどの仕事がない。

学生たちの奨学金の未返済額は1兆1000億ドルに達しているが、大学卒業者のほぼ40%は失業者または低賃金労働者だ。2010年に16~24歳層の失業率は19.6%に達し、労働統計局が1947年に失業率の調査を開始してからの最高値を記録した。今度アミューズメントパークへ行く機会があったら、そこの労働者の4人に1人が学卒であることに思いを致そう。

これまでは、教育はスタートアップや起業家にとって、立入禁止の聖域だった。そこは学校の集合と、変化とイノベーションを拒む管理人たちで占められていた。しかしここ数年、二つのことにより、本物の機会が生まれ始めている。ひとつは、教育という体制が全身的な疾患に蝕まれ始めたこと。第二は、ソフトウェアの大衆化によって、教育のイノベーションを目指す草の根の運動が始まっていることだ。

教育という体制が全身的な疾患に蝕まれ始めたこと。そしてソフトウェアの大衆化により、教育のイノベーションを目指す草の根の運動が始まっていること。

教育をオーバホールしに来た最初の新勢力は、Khan Academyのような企業で、教育的なコンテンツを若い世代にわかりやすい形で制作し提供した。Khan Academyの、短い、一口サイズの学習単位は、余暇時間などにいつでも自由に見られるビデオで提供され、YouTubeでも人気になった。

二番目にやってきた起業家軍団は、個々のビデオではなく、大学のコース(課程)全体を最初から最後までオンラインで提供するMOOCだ。UdacityCourseraUdemyなどのサイトが、好きな時間に受けられる長時間授業を、多くの場合無料で提供した。そしてここ数年はプログラミングの分野でもCodecademyなどのサイトが、プログラミングができるようになることを新年に誓った多くの老若男女にプログラムの書き方を教えている。人気トップのCodecademyには、立ち上げから48時間で97000名がサインアップした。

以上のような企業はすべて、今のアメリカの教育にある大きな欠陥を補(おぎな)おうとしている。2013年のAdvanced Placement(AP)では、コンピュータ科学(Computer Science, CS)で試験を受けた者がわずかに30000名強だった。それはAP受験者全員の1%にも満たない…グラフィックデザインとほぼ同数だ。CSがこれだけ少ない原因の一つは、CSの教育を受けたことのある教師が中学高校でとても少ないことだ。そこで、指導教師が一人もいなければ、高校でCSに関心を持った子がいても、CSがその高校の正式の受験科目になりにくい。ミシシッピ州では、昨年のAPでCSを受験した子が全州でたった一人だった。

そこで現れた第三のスタートアップ勢力が、今では、濃密で集中的な対人教育により、実用的なCS教育の不足を補おうとしている。私が最近投資したThe Flatiron School本誌記事)や、Turing Schoolなどが、短期の,集中教育で生徒たちを教えている*。そこに集まるのは強い動機を持った生徒が多く、その多くは今現在、技術系でない仕事に就いている人たちだ。そういう人たちが、短期間、昼も夜もプログラミングの勉強に打ち込んでいる。その短期集中教育を終えた生徒たちには、企業で明日からでも仕事ができる技術的スキルが身についているので、就職率がきわめて高く待遇も良い。Flatironは、就職率ほぼ100%と自称している。〔*: 原文コメントではMakerSquare, HackReactor, Flatiron School, DevBootcamp, App Academy, Launch Academyなどが‘推奨校’として挙げられている。〕

この第三のタイプの学校(第一第二のように仮想ではなくてリアル)は、社会の大きな需要に応えている。このような実用的職業教育は、21世紀の高等教育の新しい教え方の口火をきるだろう。しかもこれらの学校は、今では仲間も多い。Flatironのファウンダの一人、Avi Flombaumは、スピーチなどでよくこんな話をする: Harvard(ハーバード大学)は1636年に、明日の聖職者を育てるための職業訓練校として始まったのだ。

〔訳注: この記事はアメリカにおける教育のイノベーションをあえて三つのタイプに限定して挙げているため、読みやすくて分かりやすいが、この記事から漏れ落ちている重要な動向もいくつかある。原文のコメントをお読みになることを、おすすめしたい。〕

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


投稿者:

TechCrunch Japan

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