中国の教育弾圧の犠牲者たち。企業が閉鎖に追い込まれる中、何百万人もの学生、親、教師が前進への道を模索

中国のEdTech企業は、2021年の初めまではウォール街やベンチャーキャピタルの寵児となっていた。しかし今では、次の始まりを見据えるだけの支払い能力を持ち続けることができるだろうかと思案している。

一連の包括的な規制の中で、中央政府は何十億ドル(約何千億円)もの価値がある教育と試験準備産業に破壊的な打撃を与えた。この値は、国の都市部の中流家庭のスケジュールと財布の両方の総体価値である。

最もインパクトのある政策は2021年7月に導入されたものだ。そこには、国の中核的な公立学校のカリキュラムに特化し、成功を左右する高校や大学の入学試験に照準を合わせた営利目的の個別学習指導サービスの禁止が含まれている。また、生徒が授業に参加できる時間への制約も設けられており、平日の授業時間は午後9時までに制限され、週末は課外授業のみが認められるとしている。

この規制は、中国の大手EdTech企業に壊滅的な影響を及ぼしている。New Oriental Education and Technology Group(NYSE:EDU)の株価は前年同期比で86%下落し、ライバルのTAL Education Group(NYSE:TAL)の株価は、2月に史上最高値を付けて以来93%以上下落した。そうした企業の収益の50%から80%近くが個別学習指導、つまり現在は禁止されている活動からのものだ。その経営陣たちは、10億ドル(1000億円)規模のタイタニックを沈む前に立て直すという不本意な課題に直面している。

7月に打ち出された営利目的の個別学習指導の禁止措置は多くの注目を集めたが、世界で最も人口の多いこの国では、教育を受ける意味を再構築することを意図した政策が絶えず氾濫している。以前は大きな優先順位を与えられていた英語教育が、今では行政のカリキュラムの中で後回しにされている。オンラインでの外国人教師の雇用が禁止されたことで、国内で最も人気のあるEdTech企業の中でも、彼らがどうやって生き残るのかについて案じるところが出てきている。親と家庭教師が直接協力し合ってこの規則を回避しようとするケースに備えて、規制当局はオンラインやホテル、カフェ、個人宅などの未登録施設での個別指導も禁止した。

私たちが今、目にしているのは、関係者すべてにとっての広範な混乱の様相である。子どもの教育の未来のための計画を練り直す親たち、アンダーグラウンドに移動する教育者たち、そして限られた時間と資本を使い果たす前に企業のビジネスモデルを徹底的に見直すことに必死になっているEdTech起業家たち。教育をめぐる需要と供給の経済力はほとんど変わっていない。今問題となっているのは、規制がこれらの力をどのように振り向けようとしているかである。

中国語には無数にあると思われるような慣用句の組み合わせが存在するが「上有政策、下有对策」大まかに訳すと「統治者は規則を作り、臣下はその抜け道を見つける」という表現ほど、政治経済の議論に一貫して適用できるものはほとんどないだろう。最近の規制がこの国の教育産業を覆しつつある中、多くの人々が今問いかけているのは、その抜け道をどのような形で、どこで見つけることができるかということだ。

中国の子どもたちの競争の危機

今日の中国では一様に、取り締まり、抑圧、規制改革が継続的テーマとなっているが、最近の教育政策の大部分は、中国の人口危機のレンズを通して理解することができる。5月に発表された2020年の国勢調査データにより、多くの悲観論者が予想していた以上に出生率の低下が深刻であることが明らかになっており、家族への負担を取り除き、ベビーブームを促進することに対し、当局者たちの緊迫感が高まっているようだ。

すべての子どもたちが成功できるわけではない。それでもその親や、しばしば高齢の2組の祖父母を扶養することを期待されている子どもたちは、非常に競争の激しいシステムのなかに置かれている。多くの家族は、子どもたちがそのペースについていけるように、増え続ける時間とお金を投資しなければならないという義務感にとらわれ、身動きが取れないと感じるようになっている。北京に住む母親のYi(イー)氏(仮名)はこう説明する。「私は何百万という親の中の1人ですが、子どもが優秀になる助けになることを期待して、子どものための特別な教育に多額のお金を投じてきました。しかし、誰もがこうした教育を受けていれば、結果として以前と変わらないということになるでしょう。ただ家族の経済的負担が大きくなり、子どものストレスが増大するだけです。ですから、私はこれらの学校を閉鎖するという政府の決定を支持します」。

中国の人口危機はまた、同国の指導者たちに対し、職業的および技術的な熟練労働者が不足する可能性を示しており、世界で支配的地位にある製造業超大国の長期的な存続を脅かしている。教育政策の立案者たちは、この国のエリート大学における数少ない貴重な場所を確保しようと奮闘する親や子どもたちへの圧力を緩和することを追求しながら、教育制度の見過ごされがちな部分をより強調し、改革することによって、職業訓練や職業の魅力を高めることも目指している。

EdTech崩壊後の破片の拾い上げ

米国上場のEdTech大手企業の価値が一夜にして消えていくのを目の当たりにして、米国の金融メディアは当然のことながら業界の将来に関する問題に焦点を当ててきた。しかし、そのような企業とそこに留まっている従業員たちの運命は、他の企業よりも依然として楽観的に見える。

流動資産のライフラインにアクセスできないより小規模な企業にとっては、破綻が唯一の選択肢となっている。それは、かつて北京や上海の高級ショッピングモールの主軸を担っていた、高級語学研修センターWall Street Englishの中国子会社にも当てはまる。新型コロナウイルスの感染拡大、そして英語を母国語とする人々の採用と定着を難しくしている渡航制限といった継続的な衝撃に揺れる中、これらの新しい規制は救済資金を提供し得る顧客と投資家の両方に脅威を与えている。その余波を受けて、同社は突如として事業を閉鎖した。

このような突然の廃業は、特に経営破綻が絡んでいる場合、従業員にとって特に深刻な問題となる可能性がある。中国のホワイトカラー産業では、レイオフは実際のところ、中国の労働法のために退職した従業員にとっては小さな棚ぼたに等しい。ほとんどの場合、従業員は1カ月分の給与に、その従業員が当該企業で働いてきた各年の1カ月分の給与を上乗せした額の退職手当を受け取る。従業員を迅速かつ最小限の摩擦で解雇しようとして、企業がさらに寛大なパッケージを提供することは珍しくない。

しかし、企業が突然の崩壊に直面したとき、従業員も顧客も一様に責任を負わされることになる場合が多い。Wall Street Englishで10年以上営業の仕事をしてきたある女性は「船がゆっくり沈むときは、たくさんの救命ボートが利用できます。しかし時として、ボートがあまりにも速く沈むために、救命ボートに乗ることさえできないこともあります」と説明する。彼女のケースでは、会社の破産手続きが進む中で、自分の在職期間がささやかな支払いの最前線へと導くことを彼女は望んでいる。しかし、米国に上場しているあるEdTech企業の退職金は2000人民元(約3万4400円)にすぎないとうわさされており、自分が受け取るべき未払い賃金を受け取ることさえできたら自分は幸運だと思うだろう、と彼女は話している。

バーチャルで教えていた欧米の教育者にとっては、混乱が支配的なテーマになっているようだ。北京に拠点を置くオンライン教育のスタートアップ、Whales Englishで働いていたあるイギリス人教師(私たちは彼を「Ed(エド)」氏と呼ぶことにする)は、約3週間の不安の嵐のような状態を経験した。同社は、海外のフリーランスの教師を雇って中国の子どもたちにリモートの英語クラスを提供している多くの企業の1つだが、7月の規制はもはや法律に準拠していないことを物語っていた。

エド氏によるその出来事の説明によると、同社は7月28日まで拡大、広告、雇用を続けていたが、その後経営陣は新しい教師の雇用をすべて停止すると発表した。8月7日までに、Whales Englishはすべての新しいコースを中止し、すでに始まっていて支払い済みのものも終了することになると教師たちは知らされた。また、親たちは前払いしている授業をできる限り利用しようと急いだため、教師たちは自分たちのスケジュールを可能な限り解放するよう促された。

この頃、北京本社のスタッフの約3分の2近くがレイオフされたといううわさが流れ始め、会社の意向に反して、親や教師がWhalesのオンラインプラットフォームを迂回するための緊急時対策を講じ始めたとエド氏は話す。8月18日、エド氏が当局からの最新の命令があるのではないかと感じたことに呼応するように、すべての授業が直ちに中止されることがエド氏と他の教師たちに伝えられた。

会社の一貫性のない情報伝達に苛立ちを感じながらも、エド氏は自分の恩恵を尊重している。彼の報告では、自分の仕事に対して適時に全額が支払われ、すでに転職して日本の学校で教師の職に就いているとのことだ。

中国の有名なEdTech企業の1つであるVIPKidの教師向けの、1万4000人以上のメンバーからなるFacebookグループでは、エド氏のようなストーリーがありふれた光景となっている。しかし多くの教師にとって、中国のEdTechプラットフォームが提供する柔軟性と規則性は簡単には代替できない。新型コロナウイルスのパンデミックが親にさらなる育児のプレッシャーを与えていることから、教育や教職の経歴を持つ多くの人々は、こうしたプラットフォームを利用して生計を立て、子どもと一緒に家で過ごしてウイルスにさらされることを制限している。同等の仕事を見つけるのは難しいかもしれない。

だからといって、教師たちが何もしようとしていないわけではない。抜け穴がある一貫性のない執行は、不法な性売買や不法移民労働と違わず、個別指導や他の教育サービスのグレー市場を生み出している。需要は変化していないものの、規制によって大企業はこのようなビジネスに直接関与することを避けざるを得なくなった。そのため、取引はアンダーグラウンドで行われ、労働者(この場合は教師)には法の保護なしにフリーランスになる以外の選択肢はほとんどない。

親、行政そしてチャイニーズドリーム

教育弾圧に対する親たちの反応は、富と階級に沿ったものだった。以前と同じような課外補習を続けながら規則に公式的に準拠するために、教育技能と資格を持った在宅「ナニー」についての報道がすでに流れ始めており、月に3万人民元(約51万6500円)という額が支払われているという。例によって、新たな抜け道が見つかるのを待つだけということだ。

中国の裕福でつながりの深い家庭の多くにおいて、新しい規制は子どもたちの教育計画をほとんど変えてはいない。この記事のために話を聞いた何人かの親たちの間では、長い間、中国の教育制度を回避することが主な目的の1つとなっていた。これは中国に数多くあるインターナショナルスクールの1つに受け入れられることで達成され得るものだ。そこでは国際バカロレア(IB)カリキュラムが、国の厳しい入学試験を回避して海外の大学に入学するための準備を整えている。

成功と特権の恩恵により、子どもたちを海外の学校に行かせることができた人たちもいる。場合によっては、これは自分自身と彼らの富を移動させることも意味する。「より多くの親にとって、海外で勉強させることが最善、あるいは唯一の選択肢のようです」と引退した元企業幹部のGao(ガオ)氏(仮名)は説明する。同氏は現在米国に住んでおり、娘も米国で学んでいる。

最も裕福なエリート層から中産階級の層まで、共通のテーマがあるようだ。中国が歴史的に経済の奇跡を成し遂げた時代に成人した親たちにとって、社会的にも経済的にも進歩することは、可能であるとみなされるだけでなく、単に仲間と歩調を合わせるという観点から期待されるものでもあった。そして進歩が期待されるなら、停滞は失敗を意味する。停滞が失敗であれば、後退は破滅的である。

経済成長が鈍化し、習近平国家主席が「共同繁栄」を掲げ、高等教育より職業訓練と産業訓練が強調されている中、一部の親たちは、自分たちの夢が中国の新しい戦略に反することを認識しつつある。「行政の広範な目標があるにしても、自分の娘が高等教育を受けられなくてもいいと思えるでしょうか?答えはノーということになります」と上海在住の母親、Li(リー)氏(仮名)は率直に語った。「考え方を変えるには時間がかかります。少し利己的かもしれませんが、それは真実です。私は教育の平等を強く支持していますが、それは私の子どもが幸運な子どもの1人となる場合に限られます」。

お金の話ばかりしていると、ある言葉が表すものに対する子どもの機会を逃してしまうことを多くの親が心配していることは、あまり具体的に見えてこない。倫理、向上心、教育、社会階級を含む「素质(素養)」という言葉である。北京の教師Guo(クオ)氏(仮名)にとって、娘のために心配しているのはこの要素だ。「社会は職業労働者を必要としており、そうした人は大学に通う人よりも多くのお金を稼ぐことができることは承知しています。ですが、たとえ娘の収入が少なくなるとしても、私は彼女に大学に通って欲しいと思います」。彼にとって、自分の子どもが受ける教育や将来の収入は、彼女が成長する社会の中では副次的なものだ。「(専門学校生は)怠惰、喫煙、飲酒、不品行で知られています。娘が学校で作る友達は、彼女が一生持つ友達になります。私は娘に質の高い友達を持って欲しいのです」と彼は続けた。

中国の規制当局が教育だけでなく、国の最も困難な課題に対処するために多くの中心的な機関を見直す中、かつて抱いていた期待が今は根本的に変化する必要があることを多くが認識しつつある。しかし、あらゆる不確実性の中にあって、変化しそうにないことは、自分自身、家族、そして野望を前進させる意欲と工夫である。結局のところ、当局は絶えず規則を作り、国民は常にその抜け道を見いだすであろう。

画像クレジット:VCG / Getty Images

原文へ

(文:Elliott Zaagman、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。