乗組員の変更管理、海賊などの潜在的なリスクの予測などを提供する海事情報プラットフォーム「Greywing」が資金調達

シンガポールを拠点とするGreywing(グレイウイング)は、船舶運航会社をはじめとする海事産業の人々が重要な意思決定を行う際の役に立つために、2019年に設立された。同社が提供する製品には、乗組員の変更管理、海賊などの潜在的なリスクの予測報告、新型コロナウイルスの影響による渡航制限の更新などのツールが含まれている。

米国時間10月7日、Greywingは250万ドル(約2億8000万円)のシード資金調達と併せて、船舶運航会社が乗組員の交代によって生じる二酸化炭素排出量を監視するための新しいソリューションを発表した。参加した投資家は、Flexport(フレックスポート)、Transmedia Capital(トランスメディア・キャピタル)、Signal Ventures(シグナル・ベンチャーズ)、Motion Ventures(モーション・ベンチャーズ)、Rebel Ventures(レベル・ベンチャーズ)、Entrepreneur First(アントレプレナー・ファースト)そしてY Combinator(Yコンビネーター)など。GreywingはY Combinatorの2021年冬のバッチに参加していた。

今回よりGreywingの提供するプラットフォームは、船舶運航会社が乗組員の変更にともなう潜在的な二酸化炭素排出量を事前に見積もることができるようになった。

この炭素排出量計算ツールは、乗組員の現在地、母港、経路変更の可能性などのデータを取り込み、ウェイポイントが入力されると、乗組員が利用可能な定期航空便を調べ上げる。それらの航空便情報には、そのフライトで排出されるCO2の量が料金とともにリストアップされるので、船舶運航会社は運航コストに大きな影響を与えることなく、総排出量を削減できる航空便を手配することができる。

最高経営責任者(CEO)のNick Clarke(ニック・クラーク)氏は、世界のCO2排出量の3%が船舶によるものであり、そのうち約3分の1が「スコープ3」と呼ばれる、乗組員の交代など船舶の燃料消費以外の要因によるカーボンフットプリントであると、メールで説明している。多くの船舶運航会社は、道義上の理由から炭素排出量の削減に取り組んでいるが、国際海事機関が設定した2030年および2050年の脱炭素化目標に適応する必要にも迫られている。

Greywingは、この炭素排出量測定ツールを導入する3カ月前にも、船舶運航会社が乗組員の検査、検疫、その他の新型コロナウイルス関連規制を管理するための「Crew Change(クルー・チェンジ)」というツールを発表している。

Greywingは、クラーク氏と最高技術責任者のHrishi Olickel(ヒリシ・オリケル)氏が、シンガポールのEntrepreneurs Firstで出会い、2019年に設立した。オリケル氏がTechCrunchにメールで語った話によると、同氏のバックグラウンドはパラメトリック保険やロボット工学だったので、共同創業者候補をマッチングするこのプログラムに参加する前は「海事産業についてほとんど何も知らなかった」という。

Greywing創業者のNick Clarke氏とヒリシ・オリケル氏(画像クレジット:Greywing)

「私がGreywingのミッションに惹かれたのは、ニックと、海事産業がデジタル化の瀬戸際にある極めて重要な産業であり、私たちが変化をもたらすことができると気づいたからです」と、オリケル氏は語る。

Greywingは、船舶運航会社が航海の準備をする際に必要な作業量を減らすために構築された。このプラットフォームは、民間および公共のソースからデータを収集し、ユーザーフレンドリーで航行に適したレポートに変換する(このプラットフォームはモバイル向けに設計さている)。

「私たちのオペレーティングシステムが登場する以前は、これらの重要な詳細情報を別々のチャネルから入手し、電子メール、初歩的な船舶追跡システム、人事業務のERP(企業資源計画)、電話、あるいはExcelのスプレッドシートまで、多くの手段を利用して意思決定を行っていました」と、クラークは語る。「想像されるとおり、これらのデータポイントをすべて整理して、実用的なインテリジェンスに変えることは困難です」。特に、1つの間違った判断が、コストや環境への影響、乗組員の危険につながる場合はなおさら難しい。

Greywingの目的は「この業界で現在行われている無益な情報報告から、リアルタイムの意思決定、さらには予測的な警告へと移行させること」であり、そのために二酸化炭素排出量と乗組員交代を管理するツールを構築したと、オリケル氏は述べている。

Greywingは今回調達した資金によって、より多くの海事データソースを活用し、アルゴリズムの複雑さをさらに高めて、より自動化の進んだインテリジェントな船舶管理システムを開発することができる。

「今回の資金調達は、Greywingのソリューションを海運業界に普及させるために役立ち、それによって私たちは、他の方法では手がつけられない世界の二酸化炭素排出量の1%に取り組むことができます」と、クラークは語る。「私たちはすでに、世界の商業船隊の3.5%に相当する2000隻以上の船舶に当社のソリューションを導入することに取り組んでいます。これにより、23万トン以上の炭素を地球の大気から減らすことができます。これは、7隻の船舶を海から排除することに相当します」。

画像クレジット:Suriyapong Thongsawang / Getty Images

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(文:Catherine Shu、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

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TechCrunch Japan

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