人工知能で入会審査する大学生限定SNS「Lemon」、ハイレベルな交流サロンは生まれるか?

人工知能による審査をクリアした大学生・大学院生のみが入会できるSNS、「Lemon」が今日から本格スタートして、ユーザーの受付を開始した。利用は無料。人工知能が「審査」とか、「メンバー同士のハイレベルな社交の場」という謳い文句が、ちょっぴりしゃらくさい感じがするのだけど、開発したLip Inc.に狙いを聞いてみた。

既存メンバーとの親和性で審査

入会審査は独自開発の人工知能エンジンが行い、「30%以上の既存メンバーとの親和性がある」と判定された場合にのみ入会可能となるという。すでに6月25日から招待制のβ版として運用を開始していて、今は学生起業家や海外留学生、モデル、ライターといった経歴を持つ大学生や、難関企業内定者の4年生、就活生、大学生活をもっと充実させてキャリアについて考えたい1、2年生など、新しいつながり作りに積極的な、厳選された大学生・院生からスタートさせた、という。

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現在、入会後に使える機能は2つ。

1つは「メンバー紹介機能」で、これは親和性が高い相手を人工知能で検出した上で、毎日相互に紹介して、興味を持ったらメッセージをやりとりするというもの。もう1つは「ボード機能」で、いわゆる掲示板だ。

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……と、ここまでは、ほとんどプレスリリースからの引き写しなのだけど、Lip共同創業者で代表取締役社長の松村有祐氏に話を聞いたので、以下にインタビューとして掲載する。

松村氏は2008年に北海道大学大学院情報科学研究科で人工知能・機械学習を専門とした博士号を取得した後に、米国のIBM TJ ワトソンリサーチセンターで複雑ネットワーク・トポロジー設計に関する研究に従事していたことがあるそうで、「人工知能」を便利なバズワードとして使っているわけではないようだ。

実際の審査はどんなものか?

松村:Lemonは人工知能が入会審査する社交サロンのようなコンセプトで、メンバー同士の信用が高いコミュニティーを形成することで、たくさんの交流、新しいつながりが生まれることを期待しています。βサービス時は、非常に尖っていて各方面ですでに活躍している優秀な大学生・院生を集めましたが、今後メンバーを公募審査するにあたり、サービス運営者が一定の基準でメンバーを選別するのではなく、既存ユーザーにとって親和性の高いユーザーを徐々に入れていくことを目的とした審査となります。結果的に厳選されたクオリティの高い集団が形成されることになるとみています。現在は大学生・院生限定としていますが、徐々に各業界に広げていくつもりです。

また、人工知能エンジンの開発という点では、ぼくのバックグラウンドだけでなく、トップレベルの人工知能研究者を巻き込んで進めています。実は東大の松尾先生とはドクターとったあと海外で研究したいと相談していた時にIBMワトソン研究所と繋いでくださった頃からご縁があり、今回のLemonについても相談させていただき、ソーシャルネットワーク解析の第一人者である東大の鳥海先生をご紹介いただき、早速ご協力いただいております。他にも大学に限らず産総研も含め、トップレベルの人工知能研究者を本プロジェクトにどんどん巻き込み、Lemonの世界の実現をスピードアップします。

TC:審査は質問の受け答えを見るとかですか? 通過率が1%?

松村:いえ、プロフィールとSNS情報を分析し、既存メンバーとの親和性を見ます。親和性は、ユーザーの内面性にフォーカスし、プロフィールと関心を軸に。また、応募のうちの1%を採るということではなく、最終的に大学生・院生の1%程度が集まるコミュニティーを形成することを想定しています。

TC:登録しようとすると、人工知能が合否を決めるんですよね? つまり何らかのクラシファイアを使うんですよね? それは動的に変化するんですか? それともすでに何らかの学習済みのものですか?

松村:そうです、人工知能が決めます。応募すると既存メンバーと総当りでの親和性チェックが走り、既存メンバーの30%以上と親和性があれば入会することに。ただし、まだまだ学習データを収集中で、微妙な判定が出た場合は、人手を介して正しい教師データを加えるという作業プロセスが入ります。具体的なアルゴリズムについては秘密なのですが、今のところは自然言語処理・協調フィルタリングを活用しています。従って、コミュニティーが拡大してユーザーが増えると、動的に審査基準が変化するような面白い仕組みになっています。

TC:協調フィルタリングということは形態素解析をして、SNSの発言から何らかの方法で単語を抜き出して、スポーツ、音楽、テレビ、本とか、そういう語句で巨大な疎行列を作ってマッチングする、というようなことですか?

松村:おっしゃるような協調フィルタリングの一般的活用に近いもので合っています。が、注目する要素に秘密がありまして、趣味特技だけにとらわれず、人間が「この人とこの人はあいそうだな」と判断する感覚をいかに再現できるかにトライしています。そういう意味で、いろんなやり方でアプローチしてきた研究者をもっともっと巻き込んで、精度をもっともっと上げていきたいですね。

TC:研究者から見たら、実験的な要素もあるんでしょうか? やってみないと分からない、というような。

松村:というよりは、いくつかのある特定の要素で判断すれば良さそうだというのはいくつか見つかっているので、それは現在の技術で実現できているわけですが、もっと違う要素も取り入れて、より人間らしい判断をさせるために、もっともっと多くの取り組みを重ねていく必要があります。が、ぼくらのサービスでの面白いのは、日々、ユーザーにおすすめユーザーをぶつけて、その選好データがたまっていくので、その選好は何なのかをバックトレースしていくことで、もっともっと人間らしい判断の実装に近づけると思っています。

松村:人は、意外と自分の選好を言語化して理解できていない、というのがぼくらがこれまでやってきた中でのインサイトです。ユーザーにどんな人とつながりたいかを尋ねても、なかなか表現できないんですよね。だから、そこにAIをしっかり噛ませて、ユーザーの潜在ニーズをいかに見つけていけるのか、という壮大なテーマになると思います。問題難易度でいうと商品の推薦とはわけが違いますね。難しいですが我々が人工知能研究者の叡智を集結させて頑張っていきます。

TC:なるほど、面白いですね。ただ直感的には、その先に有用なものが本当に出てくるのかっていう疑問はありそうです。単純なマッチング以上の価値が生まれるのか、という。単一グループになって、それが大きくなるだけなんですよね? 気の合いそうな人たちをクラスタリングして複数グループを作るのではなく?

松村:コミュニティーが大きくなってくると、いろんなクラスターが自律的に構成されていくと思っています。それも見据えて、実は初期のメンバーを多様にしています。同じ大学生でも、起業・テック系に寄せ過ぎない、というように。学生の1%を超えたら、その次は、いろんな業界にアプローチしていきます。それが恐らくクラスターになってくると想像していますが、クラスター間の交流こそ醍醐味なんじゃないかと期待しています。生まれつきの特権階級に限らない、オープンな思想のもとでの現代版交流サロンですね。

TC:と、考えると、Facebookというかリアル社会は良くできてますね。最初からほどよく異クラスタが混ざるようになっていますよね。と、考えると、ぐるっと回ってmixiグループでよくね? ということはないですか?

松村:いえ、ところがですね。異興味クラスタを単に混ぜるだけだと、新たなつながりはできにくいというのが見立てでして、例えばY Combinator卒業生同士なら信用してつながりやすい、TEDメンバー同士なら信用してつながりやすい、という現象があると思うのです。それを分野横断で互いを信用できることを前提しやすいコミュニティーを作り、新しいつながりがたくさんできる、という場を目指しています。ただし、なんか医者だけが集まるとか、イケメンだけが入れるとか、そういうのとかではなく、人の内面性をもっとうまく引き出して、人の魅力にフォーカスし、入会できるサロンづくりを大切にしていきます。

TC:男女を結ぶ何かではない?

松村:男女にかかわらずです。

かつてのmixiの招待制度や、最近だと通過率30%の入会審査ありのマッチングサービス「JOIN US」が「落ちた」「通った」と一部で話題になっていたけど、Lemonも話題性がありそうだし、何かが生まれてくるかもしれない。TechCrunch Japanを読んでる大学生、大学院生の諸君も、試しにアプライしてみては? たとえ人工知能に落とされても落胆することはない。どうせこの先、生の人間や組織に何度もリジェクトされるのだし、それが人生だ。

Lip Inc.は2014年11月創業のスタートアップ企業で、現在チームは創業者2名を含む5名。2015年1月にベンチャーユナイテッド、サイバーエージェント・ベンチャーズ、千葉功太郎氏、プライマルキャピタル、インキュベイトファンドから資金を調達していて、2014年6月には時限式マッチングアプリ「5pm」をサンフランシスコでローンチしたりもしている。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。