今年はWebRTC元年になるだろうか?、その促進要因と阻害要因をさぐる

[筆者: Itay Rosenfeld]

編集者注記:Itay RosenfeldはVoxboneのCEO、通信業界で13年の経験がある。

WebRTC(Web Real-Time Communication)は、ブラウザ上でプラグイン不要で音声やビデオによる通話を可能にするオープンソースの標準規格〔APIの定義〕で、2012年にGoogleがW3Cに提案した。WebRTCを使うと、たとえばブラウザの画面に相手を表すボタンがあって、それをクリックすれば音声やビデオによる通話が始まる。

その‘相手’は、個人や会議のプラットホーム、カスタマサポートサービス、ビデオのソースなど、さまざまだ。こういうリアルタイム通信がブラウザ上で簡単にできるようになると、消費者のインターネットの使い方も大きく変わってくるだろう。個人間だけでなく、生活にサービスや物資を供給する企業との関係においても。

WebRTCで従来の通信型式が要らないものになる?

WebRTCが明日からすぐに、たとえば今の電話システムを不要にしてしまうわけではない。しかしそれでも、今年は、従来的な通信とWebアプリケーションの両方を補完し補強するような形で、WebRTCが大規模に採用されるだろう。今すでに芽生えていて、これからさらに大きく伸びると思われるトレンドを、列挙してみよう。

音声とビデオによるリアルタイムのカスタマサポート 企業のWebトラフィックをWebRTCによるコンタクトセンター(お客様承り所)の対話に導くことは、一般的にありえるビジネスケースだ。AmazonのMaydayAMEXのLive Video Chatなどのサービスは、WebRTCの技術でWebアプリケーションのユーザとコンタクトセンターの対話が改良されることを実証している。

カスタマサポートにWebRTCを利用することには、そのほかの利点もある。たとえば、ユーザからの入呼があった時点でその顧客の基本情報が分かるので、カスタマサポートの効率が大幅にアップする。いろいろ質問しなくてもよい。

クリック一発で会議に参加 WebRTCで仮想会議に参加できる。これまでは、ビデオは一部のハイエンドな会議でしか利用されないし、音声アクセスは電話によるものがほとんどだった。

とくにWebRTCによるオーディオはHDで空間性(サラウンド)ありなので、会議での効果が大きい。しかもそのコストは、会議の主催者とユーザの両方にとって安上がりだ。電話会議にありがちなドジとヘマの数々も防止できる。

グローバル化 スマートフォンなどの電話システムではサービスやビジネスのグローバル化〜多国籍化がなかなか難しいが、WebRTCなら簡単だ。たとえばワイヤレスのキャリアはWebRTCを使って世界中のどんなネットワーク上のどんなデバイスに対してもコミュニケーションサービス(ビデオ、音声、SMS等々)を提供でき、しかもそのために、スマートフォンの機種などを特定する専用アプリは要らない。

たとえばT-Mobileが最近発表したWiFi通話機能は、WebRTCを使えばもっと簡単に実現できる(今はまだ使ってない)。今年のCESでは、AT&Tが合衆国のキャリアとしては初めてWebRTCのサポートを発表した。

新しいサービスやビジネス 従来の通信サービスを超えるような新しいサービスがいくつかすでに登場している。それらはWebアプリケーションの一部としてリアルタイム通信を使い、中にはまったく新しいビジネスモデルもある。たとえばPopExpertなどのミニミニコンサルティングサービスは、消費者とエキスパートをビデオチャットで結びつける。

またNTTのSkyTalkは、WebRTCによる音声とビデオの対話をベースとするソーシャルアプリだ。2015年にはさらに新しい多様なWebRTCの利用例が、数多く登場するだろう。

WebRTCの本格普及の前提

以上のように、すでにいろいろなトレンドが芽生えている中で、WebRTCの大量採用(大衆化)の決め手となるビジネスモデルは何だろうか? ぼくの考えでは、WebRTCはこれまでのような新しくて珍しくて無料のコミュニケーションのベースになるものから、企業向けのソリューションや、消費者向けの会費制のソリューションに移行していくだろう。その主役は、企業向けでは会議サービス、消費者向けではエキスパートによるコンサルテーションサービスだ。

しかし、上記のようなWebRTCの大普及のためには、二つのことが必要だ:

1. MicrosoftとGoogleとAppleがWebRTCをめぐる抗争をやめること

この抗争がWebRTCの初期からずっとあるので、今だにChromeとFirefox以外のブラウザがWebRTCをサポートしていない。これでは、大衆化は無理。使用するコーデックをめぐっても抗争があるので、それが解決しないかぎりWebRTCによるビデオの利用は普及しない。

昨年後半にGoogleとMicrosoftはWebRTCの普及を妨げている障害物の除去に向けて一歩を踏み出した。願わくば近い将来には、ChromeとInternet ExplorerとFirefoxの三者がWebRTCによるビデオをサポートしてほしいし、そうなれば一挙に、怒涛のような大普及が始まる。SafariのWebRTCサポートに関しては、まだ音沙汰がない。

2. ユーザ体験の質的向上

WebRTCが有料サービスでも利用されるためには、今の消費者が慣れている電話ネットワークのそれと並ぶ、あるいはそれを凌(しの)ぐ、高品質なユーザ体験が必要だ。インターネット通信が落ちたり低品質になることは誰もが経験しているが、サービスの多くが無料だからみんな我慢しているだけだ。

WebRTC、つまりWeb上のリアルタイム通信は、便利だし、HDのオーディオやビデオは魅力だが、通信の品質が悪すぎると、なかなかユーザ数は増えないだろう。今そのためのソリューションが開発中ではあるけど。

安定した通信の質が確保できること、そして既存のコーデックがすべてサポートされ、またメジャーなブラウザのすべてがWebRTCをサポートすれば、2015年はWebRTCが離陸する年になるだろう。しかし、そのためにやるべきことは、とても多い。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。