介護施設探しを時短&最適化、介護・福祉の専門家が作った「KURASERU」運営が5000万円を資金調達

写真左端:500 Startups Japan代表 James Riney氏、左から3人目:KURASERU代表取締役CEO 川原大樹氏、4人目:取締役COO 平山流石氏

医療ソーシャルワーカーという職業をご存じだろうか。病院や診療所などの医療機関で、患者や家族の抱える経済的・身体的・社会的な問題に対し、社会福祉の立場から解決や調整をサポートする専門職だ。

医療ソーシャルワーカーの仕事は、療養中の心理的・社会的問題の解決、調整援助や患者の社会復帰の援助など、厚生労働省により6つの業務範囲が指針として示されている。そのうちの1つが「退院援助」である。

退院できることになっても「体が不自由になってすぐに元の生活に戻れない」、「自宅に帰っても自力で生活することができない」。そうした在宅療養が困難な患者や家族の相談に応じて、症状や状況に合った適切なリハビリ専門病院や介護施設、在宅療養支援事業所などを紹介するのも、医療ソーシャルワーカーの大切な業務となっている。

だが、医療・介護業界のコミュニケーションツールの主流は今でも電話やFAXがほとんど。高齢化が進み、介護施設の空床確保はますます厳しくなっているなかで、医療ソーシャルワーカーが患者に最適な施設を探すには、大変な労力がかかっていた。

KURASERU(クラセル)」は、そんな医療ソーシャルワーカーの介護施設探しを支援するマッチングサービスだ。サービスを運営するKURASERUは6月11日、500 Startups Japanを引受先とする第三者割当増資により、5000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

神戸市を拠点とするKURASERUの創業は2017年10月。代表取締役CEOの川原大樹氏は介護施設で介護職に従事した後、病院で医療ソーシャルワーカーに従事した介護・福祉のスペシャリストだ。IT業界数社で取締役・執行役員を歴任してきた取締役COOの平山流石氏とは大学時代の同級生。ITで医療介護の課題を解決したいとの思いから、ともに同社を立ち上げた。

在宅復帰が難しい患者に医療ソーシャルワーカーが介護施設を紹介するには、患者に合わせた看護・医療体制が整っているか、利用料金が患者や家族にとって経済面で適切か、といった多くの条件に沿った最適な施設を、少ない空床の中から選ぶ必要がある。

川原氏は、これまでの介護施設探しの状況を「どの施設が空いているかわからない状況で、空いている施設を探すために、60件電話をかけ続けるというようなことをやっていた」と話す。「医療ソーシャルワーカー、もしくは家族や患者の知識の中でしか介護施設を選べず、選択が属人的だった。本当にこれで良かったのか、悩んでいる姿も現場で数多く見ている」(川原氏)

一方、介護施設側も空床があれば早く患者を受け入れたいところだが、医療ソーシャルワーカーや家族からの連絡を待つしかなく、受け身の体勢しか取ることができなかった。営業するといっても病院へパンフレットを置くとか、空床状況をFAXで流すといった、レガシーな手法が大勢を占めている。

KURASERUでは、医療ソーシャルワーカーがエリア、月額利用金額、医療処置の範囲など、在宅復帰が難しい患者のニーズをヒアリングして情報を打ち込むと、空いている最適な介護施設情報をリアルタイムで検索することができる。このためスムーズな退院調整が可能となる。

また、医療ソーシャルワーカーが患者の医療情報なども入力して利用するので、退院期限管理や退院患者のデータ管理もKURASERU内で行うことができ、病院からのニーズが高まっているという。

介護施設のほうは、施設情報や空床状況をKURASERUに登録。病院の退院予定者リストを個人情報が判定できないレベルで閲覧できるため、施設から病院へ入所のオファーを出すことも可能となっている。

KURASERUは神戸市が主催するスタートアップコンテスト「KOBE Global Startup Gateway」の第5期に採択され、神戸市アクセラレーションプログラムにも参加。2018年1月のローンチ以降、神戸市内の46の病院と128の介護施設が利用しており、KURASERUを通して介護施設の入所を検討した患者は50名を超えたそうだ。

ローンチ後しばらくは、介護施設から紹介費用を受け取る課金モデルを採っていたKURASERUは、5月から病院にも施設側にもすべて無料でサービスを提供するようになった。

川原氏は「いまKURASERUの中で、病院と介護施設との間にコミュニケーションが生まれ、医療情報が集まっている。ここにコアな医療情報が集まり、共有できれば、より多くの病院や施設が参加して、さらに医療情報やコミュニケーションを生んでいくだろう」として「課金モデルから要介護に関する情報のプラットフォーム化へ方向転換した」と説明する。

「チャレンジングだが、高齢化社会が大きな問題となっている中で、医療、介護の状況を大きく変えるには、これぐらいの思い切りが必要だと考えた」(川原氏)

現在は神戸の介護施設を対象にサービスを提供するが、ゆくゆくは「病院・介護施設・在宅療養支援事業所をつなぐ医療情報のプラットフォーム」として世界を目指すというKURASERU。「まずは神戸でモデルケースを作る」と川原氏は述べている。エリア限定でサービスを磨いた後、1年以内に神戸で培ったモデルを6都市へ拡大、2年以内に全国への展開を目指す。

「介護施設の空床率は7%と言われていて、都市部では特に空いていないところが多い。しかし、このサービスでそれを埋めることができると考えている」(川原氏)

今回の調達資金は開発の強化、人材確保に充てる。「課金モデルからプラットフォームモデルに転換したことで、登録のスピードは上がるだろう。これからはアクティブユーザーを増やすために、時間とコストをかけてシステムづくりを進めていきたい」と川原氏は言う。

「ITにもいろいろな分野があるが、社会問題としての高齢化や社会保障を扱うKURASERUは、ソーシャルインパクトがある事業としては、やりがいがある、壮大な分野。そういうところに興味がある人に来てほしいし、我々と組んでほしい」(川原氏)

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TechCrunch Japan

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