企業が「自分で作る」給与計算プロダクトのインフラを提供するZealが約14.3億円調達

Zealの共同創業者であるプラナブ・クリシュナン氏とキルティ・シェノイ氏(画像クレジット:Zeal)

組み込み型フィンテック企業であるZealは、個別化された給与計算製品を構築することができるプラットフォームの開発を継続するために、シリーズAで1300万ドル(約14億3000万円)の資金を確保した。

今回のシリーズAには、Spark Capitalが主導し、Commerce Venturesの他、MarqetaのCEOであるJason Gardner(ジェイソン・ガードナー)氏とCROのOmri Dahan(オムリ・ダーハン)氏、Robinhoodの創業者であるVlad Tenev(ウラジミール・テネフ)氏、UltimateSoftwareの役員であるMitch Dauerman(ミッチ・ダウアーマン)氏とBob Manne(ボブ・マンネ)氏、Namelyの創業者であるMatt Straz(マット・ストラズ)氏などの個人投資家が参加した。今回のラウンドにより、同社は2020年の160万ドル(約1億7500万円)のシードラウンドを含め、総額1460万ドル(約16億400万円)の資金調達を行ったことになると、CEOのKirti Shenoy(キルティ・シェノイ)氏はTechCrunchに語っている。

ベイエリアに拠点をかまえる同社の原点は、シェノイ氏とCTOのPranab Krishnan(プラナブ・クリシュナン)氏が2018年に設立したギグエコノミー向けの決済処理スタートアップPuzzlだった。PuzzlはY Combinatorの2019年のグループに参加していた。2人は、何千人もの1099型契約社員(米国の契約労働者の種類)の一部をW2従業員(雇用契約にある一般的な従業員)契約へ移行させたのち、会社の方向を大きく変更する必要があった。

ADPやPaycorなど、大量の給与を自動で処理してくれる給与計算ソフトを探したが、どれもシェノイ氏とクリシュナン氏が求めていた、労働者への日払いや収入の構成要素の細かなカスタマイズなどの機能に対応していないことがわかった。

他の企業が同じ問題に直面しないように、彼らは顧客企業が独自の給与計算製品を構築し、従業員に毎日給与を支払うことができるような給与計算向けAPIを開発することを決めた。従来、企業は時代遅れの他社製給与計算ツールを重ね合わせ、そのための相談・使用料に数百万ドル(数億円)を費やしていた。ZealのAPIツールは、バックエンドの支払いロジスティックを管理すると同時に、給与計算のプロセスをより現代風にわかりやすくし、給与計算の責任を引き受けてくれる」とシェノイは述べている。

現在、企業はZealを利用して大量の従業員に給与を支払い、支払いデータを自社のネイティブシステムに保管している。その上、BtoBのサービスを販売するソフトウェアプラットフォームを提供する企業は、Zealを利用して独自の給与計算製品を構築し、顧客に販売している。

クリシュナン氏は「私たちの使命は、当社の税務・決済技術を米国のすべての給与明細に適用し、米国の従業員が正確、かつ効率的に給与を受け取れるようにすることだ」と語る。

米国には2億人の従業員がおり、年間8兆8000億ドル(約967兆3900億円)以上の給与が処理され、1万1000の税務管轄区では年間2万5000件以上の税法変更が行われている。

一方、シェノイ氏はIRS(米国内国歳入庁)のデータを引用し、中小企業の40%以上が年に1回以上の給与支払いのペナルティを支払っていることを示している。これが、Zealの最新プロダクトであるAbacusグロス / ネット計算ツールの原動力の1つとなった。Abacusは、給与計算の会社が所得税の支払いを遵守しているかどうかを確認するために使用できる。

同氏らは今回の資金調達により、チームを強化し、企業との取引実績を確保するためのコンプライアンス対策を強化したいと考えている。

「当社は、より多くの企業との契約を獲得し始めており、毎日数百万ドル(数億円)を動かしている。この分野は長い間手つかずであったため、多くの企業が迅速に対応できるプロバイダーと仕事をしたいと考えている」とシェノイ氏は述べている。

シェノイ氏は、今後5年から10年の間に、より多くの企業が事細かくカスタマイズできるユーザー体験を提供するモデルへ移行すると予測している。従来はADPのような企業が主流だったが、企業は自社のデータを管理し、顧客が1つのプラットフォームですべての給与関連業務を行えるようなプロダクトを作りたいと考えるようになるだろう。

今回の投資の一環として、Spark CapitalのパートナーであるNatalie Sandman(ナタリー・サンドマン)氏がZealの取締役会に参加した。同社は以前、AffirmやMarqetaといった他の組み込み型フィンテック企業に投資しており、彼女はこの分野にはAPIが切り開くことができる新しい体験があると考えている。

サンドマン氏は、Zenefitsで働いていたときに、給与計算を構築する痛みを自分でも感じていた。当時、同社は同じようなことをやろうとしていたが、接続するためのAPIがなかったのだ。データを転送するためのスプレッドシートは存在したが、1つでも間違った控除があると、それが結果的に税金のペナルティに繋がってしまう。

シェノイ氏とクリシュナン氏はともに「顧客にこだわり」、顧客がどのように給与計算製品を作りたいのかを理解するために、スピードと思慮深さのバランスを保っているとサンドマン氏はいう。

彼女は、新入社員をオンライン型にすることは、従来のスプレッドシートよりも価値をもつ製品に新入社員を組み込むことを意味するような、オーディエンス主導の人事へのマクロ的な変化を見ている。

「APIが賃金や控除の方法に柔軟性を与えることは至極当然のことだと思う。従業員が雇用主への信頼を失うこともある。給与計算は、雇用主と従業員の関係において最も信頼度に影響を与えるエリアであり、人はそのニーズを解決するために透明性と堅牢なソリューションを求めている」とサンドマン氏は語る。

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(文:Christine Hall、翻訳:Akihito Mizukoshi)

投稿者:

TechCrunch Japan

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