体験的イスラエル・スタートアップ論―国全体がスタートアップを盛り立てている

編集部:Omar Téllezは公共交通機関乗り換え案内アプリのMoovit のプレジデント。それ以前はSynchronoss Technlogiesの幹部。

最初にベングリオン国際空港に着いたときのことを私は決して忘れないだろう。

ニューヨークのJFK空港から12時間の長旅の後で入管の行列に並んだときだった。「MoovitのTシャツを着ている人、前へ出てください」と声をかけられた。一瞬私はやっかいごとに巻き込まれたのかと思った。しかし入管の係官は訛りの強い英語で「イスラエルへようこそ! われわれはスタートアップを誇りにしています。世界の人にイスラエルはハイテクのパワーハウスだと知ってもらいたいのです」と言った。係官はパスポートを返し、手を振って私を通らせた。

私は行列に並ぶ時間を1時間は節約できただろう。しかしそれより、入国管理局までもがスタートアップのエコシステムを盛り上げようと努力している国に来たことを知って興奮した。私はMovitのロゴ入りTシャツを着てきたことに感謝した。

イスラエルが「スタートアップ・ネイション」と呼ばれるのは不思議はないと私はタクシーを拾いながら思った。

Uri Levineはシリコンバレーでの親しい友人で、ソーシャルカーナビのWazeのファウンダーだ。「Wazeの公共交通機関バージョンを作ったクレージーな2人組に会いにイスラエルに来ないか」と私を誘ったのがUriだった。UriはそのMoovitというスタートアップの取締役を務めており、国際展開を図ろうとしているところだった。

私もイスラエルがスタートアップの盛んな国だとは知っていたが、イスラエルのハイテク・ベンチャー・キャピタルの規模は人口当たりで世界最大であることは知らなかった。後で知ってさらに驚いたのだが、過去5年間のイスラエルのハイテク・スタートアップのエグジットは980%も成長し、2014年には総額92億ドルにも達していた(MobileyeViber、Wazeなどが大型エグジットの例だ)。

私もイスラエルがスタートアップの盛んな国だとは知っていたが、イスラエルのハイテク・ベンチャー・キャピタルの規模は人口当たりで世界最大であることは知らなかった。

イスラエルのスタートアップと仕事をするのは非常に面白いが、同時に学習曲線もかなり急だ。

仕事をやり遂げる執念、強烈な平等主義と実績主義、文化的民族的背景の多様性などはイスラエルのスタートアップ・エコシステムの大きな長所だろう。

しかしどのエコシステムにしてもそうだが、修整すべき課題も多々ある。たとえば直接的すぎるコミュニケーションのスタイル、他の主要市場と7時間から10時間の時差があること、国内市場の狭さとある種の「島国性」から来る資本調達の困難さなどだ。

一方で明るい発見もあった。イスラエル在住チームとのカンファレンス・コールを何回か繰り返した後、とうとうchutzpah(チュツパ=ずぶとさ、厚かましさ)というイディッシュ語の意味を理解できた。カンファレンス・コール中に外でロケット弾攻撃を警告するサイレンが鳴り、チームはそのつど防空壕に避難して会議を続けた。興味深いのは、イスラエル・チームはこのことを特に大きなリスクとは考えていないことだった。「しなければならないことはするだけだ。これについては以上」というのが彼らの態度のようだった。

私はその後、ニューヨークで数インチの雪が積もっただけで会議がキャンセルされることに我慢がならなくなってきた。なにがあろうとやりぬく精神こそ、NASDAQに70社ものイスラエルの企業が上場されている理由に違いない。ちなみに70社というのはEU、日本、韓国、中国の上場会社を合計したよりも多いのだ。

イスラエル国防軍はこの国に「ものごとをぼやかす」ことを恥とし、同時に権威に対して健全な冷笑を浴びせる精神を植えつけた。プロダクト検討会議で誰かが「こんな馬鹿げたアイディアは見たことも聞いたこともない。最低だ!」と叫ぶのを聞いて息を飲んだり顔を赤くしたりするようでは、彼らといっしょに働くにはチュツパがたりなすぎるというわけだ。

ニューヨークサンフランシスコの会議でプロダクト・マネージャーがそんなことを怒鳴ったらあたりは気まずい沈黙に包まれ、会議は早々にお開きになるだろう。しかしテルアビブでは、こうした反応は大いに歓迎され、ただちにエネルギッシュな議論のジュウジツ試合が始まる。

要はチーム全員が最後により優れたプロダクトを生み出そうとしているのだ。それと、正直に言えば、イスラエルでは単に議論する楽しみのために議論を吹きかけるという傾向もないではない。これはいわば国民的スポーツなのだ。

テルアビブのロスチャイルド通り―地中海沿岸でいちばんトレンディーな地区の一つ―のバーに入ると、この国の多様性を肌で感じることができる。私は半径2メーターで4、5種類の民族的背景の人々によって7ヶ国語が話されているのを聞いた。radius.

It’s no wonder that with over 4,000 startups in the Greater Tel Aviv area, Israel is ranked 1st in the world for innovative capacity in 2014 by the IMD Global Competitiveness Yearbook.

スペイン語、ポルトガル語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ロシア語のネーティブ・スピーカーで、頭がよく、勤勉で、テクノロジーに詳しい人々がここにはたくさんいる。たとえば2年以内に45ヵ国の500都市にサービスを拡大したいなどという試みを可能にする人的資源はイスラエル以外ではまず見つかるまい。

だからこそテルアビブ圏に4000社のスタートアップが存在し、2014版のIMD Global Competitiveness Yearbookでイスラエルがイノベーション能力で世界のナンバーワンに位置づけられたのだ。

もっともいくら慣れようとしてもイスラエルに飛んで取締役会に出ようとすると時差ボケだけは治らない。同様に、イスラエルのスタートアップと共同作業する上で時差の問題はコミュニケーションの障害として残る。テルアビブとサンフランシスコ、ニューヨーク、パリ、サンパウロ、マドリッドを結んでテレビ会議を始めようとすればどれかの都市は真夜中にならざるを得ない。議題を事前にきちんと整理しておくこと、Googleハングアウトの操作に慣れておくことが必須だ。

またベンチャーキャピタルについていえば、A、Bラウンドくらいの初期の資金調達は比較的容易だが、それ以後の大型資金調達となると、シリコンバレーを頼る必要が出てくる。

実際Dun & Bradstreetのレポートによれば、運用資産が10億ドル以上のイスラエルのベンチャーキャピタルはPitangoとStar Venturesの2社しかない。しかしSequoiaのようなシリコンバレーの名門ベンチャーキャピタルがイスラエルのHerzliyaにオフィスを構え、現地に積極的に投資していることを知って私は驚いた。 だがシリコンバレーには「われわれはイスラエルのスタートアップには投資しない」というポリシーのベンチャーキャピタルも存在する。

イスラエルへの投資で最大の困難は国内人口がニューヨーク市より少なく、世界展開をしなければ成功が確保できないことだろう。このことはイスラエル国民もよく認識している。いずれにせよイスラエルのスタートアップのやり方は強引で独断と偏見に満ちているかもしれないが、嘘や政治的駆け引きはなく、なにより物事を手早く進める能力では世界の追随を許さないのだ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。