何億トンもの二酸化炭素を鉱物化・回収し環境問題に取り組む「44.01」が約5.5億円調達

温室効果ガスの排出量の削減は極めて重要な目標だが、現在我々は大気中のCO2やその他の物質のレベルを下げるという別の課題にも直面している。こういったガスをまったく自然なプロセスで普通の鉱物に変えてしまうという何とも頼もしい方法があるという。44.01は、膨大な量の前駆物質を使用してこのプロセスを大規模に実行したいと考えており、500万ドル(約5億5000万円)のシードラウンド受けてこの取り組みに着手している。

地質学者や気候学者の間では、CO2を鉱物化するプロセスはよく知られている。自然界に存在するかんらん岩と呼ばれる石が、ガスと水に反応して、無害な鉱物であるカルサイトを生成するのだ。実際、かんらん岩の鉱床を貫くカルサイトの大きな筋に見られるように、これは歴史上でも巨大なスケールで発生している。

かんらん岩は通常、海面から数マイル下にあるが、アラビア半島の最東端、特にオマーンの北海岸では地殻変動によって何百平方マイルものかんらん岩が地表に現れている。

オマーンのソブリン投資部門で働いていたTalal Hasan(タラル・ハサン)氏は、オマーンの海岸が世界最大の「デッドゾーン」になっており、その主な原因は排出されたCO2が海に吸収されて集まってくることだという記事を読んだ。環境保護主義者の家系に生まれたハサン氏はこれについて詳しく調べ、驚くべきことに問題と解決策は文字通り隣り合わせであることに気づく。つまりこの国には、理論的には何十億トンものCO2を保持できるかんらん岩の山が存在するのである。

ちょうどその頃ニューヨーク・タイムズ紙は、Peter Kelemen(ピーター・ケレメン)氏とJuerg Matter(ユルク・マター)氏によるオマーンの奇跡の鉱物の可能性についての研究を紹介するフォトエッセイを掲載。当時、タイムズ紙のHenry Fountain(ヘンリー・ファウンテン)氏はこう書いている。

非常に大きな「もしも」の話ではあるが、もしも炭素の鉱物化というこの自然のプロセスを利用し、これをすばやく安価に大規模に適用することができれば、気候変動対策への有効手段になり得るかもしれない。

これが、ハサン氏をはじめ、同スタートアップの「科学委員会」を構成するケレメン氏、マター氏の両氏が提案している計画の大まかな内容だ。44.01(ちなみに同社名は二酸化炭素の分子量に由来する)は、斬新なアイデアとともに経済的かつ安全に鉱物化を達成することを目指している。

第一に、自然な反応を促進させる基本的なプロセスが必要となる。通常はCO2や水蒸気が岩石と相互作用することで何年もかけて起こることであり、反応によって低いエネルギーが発生するため変化を起こすためにエネルギーを加える必要はない。

「大気中のCO2よりも高い濃度のCO2を注入することでスピードを上げています」とハサン氏は話す。「鉱石化と注入を目的とした人工的なボアホールを掘らなければなりません」。

画像クレジット:44.01

これらの穴によって表面積が増し、掘削されたかんらん岩が飽和するまで周期的に高濃度炭酸水が送り込まれる。触媒や毒性のある添加物を使用せず、ただの発泡性の水であるということがこれのポイントである。仮に漏れなどが起きたとしても、ソーダのボトルを開けたときのようなCO2の一吹きが発生するだけだ。

第二に、このために使用する巨大なトラックや重機が新たなCO2を排出して、この取り組みを無意味なものにしてしまわないようにするという課題もある。そのためにハサン氏はバイオディーゼルをベースにした供給ラインをWakudと共同で構築し、原料をトラックで運び、夜間に機械を動かすことで、夜間の燃料費を太陽光発電で補うことができるよう物流面での努力を行なっているという。

かなり大きなシステムを構築しなければならないように感じるが、ハサン氏はその多くがすでに石油産業によってでき上がっていると指摘する。ご存知の通り、石油産業はこの地域のいたるところに存在しているのだ。「石油産業の掘削や探査方法に似ているため、このための既存のインフラがたくさんありますが、我々は炭化水素を引き上げるのではなく、逆にポンプで戻しているのです」。アイスランドで行われている玄武岩の注入計画など他の鉱床開発でもこのコンセプトは採用されており、前例がないわけではない。

第三の課題として、CO2そのものの調達がある。当然大気中にはたくさんのCO2が存在するものの、産業規模で鉱石化できるほどの量を獲得し圧縮するのは容易なことではない。そこで44.01は、CO2回収のエンドポイントを提供するため、ClimeworksをはじめとするCO2回収企業との提携を開始した。

関連記事:支援を求めるExxonMobilを横目にスタートアップ企業は炭素回収に取り組む

排出地点であれ他の場所であれ、多くの企業が排出物の直接回収に取り組んでいる。しかし、数百万トンのCO2を集めたところで次に何をすべきかは不明瞭である。「そこで私たちは炭素回収企業の手助けをしたいと考え、CO2シンクをここに構築してプラグ&プレイモデルを行うことにしました。企業がここに来てプラグインし、その場で電力を使ってCO2の回収を開始することができます」とハサン氏は話す。

具体的な支払い方法については未解決の問題だが、カーボンオフセットに対する世界的な企業の意欲は明白である。従来型のむしろ時代遅れなカーボンクレジットを超えて、カーボンクレジットには大きなボランタリー市場がある。44.01は一時的な隔離からのステップアップと言える、検証済み炭素除去を大量に販売することができるが、そのための金融商品はまだ開発中である(DroneSeedは新世代の排出システムなどの活用を期待して、オフセットを超えたサービスを提供しているもう1つの企業だ。国際的な規制、税金、企業政策などが、進化しながらも非常に複雑に重なり合っている分野である)。

しかし今のところは、このシステムが期待通りの規模で機能することを証明することが第一の目的だ。今回の資金は実際の運用に必要な資金には遠く及ばないものの、実証実験に必要な許可や調査、設備を得るための一歩にはなるだろう。

「純粋に気候変動のために活動している、志を同じくする投資家に参加してもらおうと試みました」とハサン氏。「財務ではなくインパクトで評価されることが、私たちのメリットにもなるのです」(ほとんどのスタートアップがこのような理解ある出資者を望んでいるに違いないが)。

Max Altman(マックス・オルトマン)氏とSam Altman(サム・オルトマン)氏が設立したアーリーステージを対象とした投資ファンドであるApollo Projectsがこのラウンドをリードし、Breakthrough Energy Venturesが参加している(プレスリリースには記載されていないが、オマーンの数家族やヨーロッパの環境保護団体からの少額投資も注目すべき点だとハサン氏は述べている)。

オマーンを起点としながらも、別の場所で最初の商業運用を行うという可能性をハサン氏は示唆している。具体的には言及していないが、地図を見ると、かんらん岩の鉱床はオマーンの北端からUAEの東端にまで広がっていることがわかる。UAEも当然この新産業に興味があるはずであり、もちろん豊富な資金を持っている。44.01のパイロット作業が完了すれば、さらに詳しい情報が得られるだろう。

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

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