個人が法人に「時間」を販売できる「TimeTicket Pro」正式リリース

ユーザーの「時間」を30分単位で売買できるCtoC型のタイムシェアリングサービス「TimeTicket(タイムチケット)」から、個人から法人へ時間を販売できる新サービス「TimeTicket Pro」が登場。6月26日、正式にリリースされた。サービスを提供するのは、グローバルウェイから子会社として独立したタイムチケット。同社は9000万円の資金調達も明らかにしている。

再び独立した「TimeTicket」事業

TimeTicketは2014年7月、リクルート出身の山本大策氏が当時代表を務めていたレレレで開発・リリースした、個人間で時間を売買できるプラットフォームだ。「家を買うときの相談」「マッチングアプリ用の写真撮影」「インテリアコーディネート」「飲み会への参加」「副業のやり方指南」などなど、自分の得意な分野で、自分の時間を30分単位でチケットとして販売できる。

レレレは、2016年10月に企業口コミサイト「キャリコネ」などを運営するグローバルウェイ事業譲渡を行い、経営統合。TimeTicket事業は山本氏が中心となって、引き続きグローバルウェイで運営されていたが、2019年4月、再びグローバルウェイから子会社・タイムチケットとして分社化されることとなった。

タイムチケット代表取締役 各務正⼈氏

新しいタイムチケットの代表取締役社長は、グローバルウェイ代表取締役の各務正⼈氏が務め、サービスの生みの親である山本氏は、取締役としてサービス戦略・企画、サービス開発と運営組織統括を担当。各務氏は「ビジネスの部分は私が担当。大策さん(山本氏)にはクリエイティブに特化した役員として入ってもらい、それぞれが得意分野で分業する。プロダクトをつくることにかけて彼は天才的。TimeTicketの今後についても、2人でいろいろと話している」と新体制について語っている。

事業譲渡から2年間は「内部対策の強化やオンライン対応を行い、コミュニティを醸成してきた」と各務氏が言うTimeTicket。現在は、統合時と比べて事業規模を14倍に拡大したという。ユーザー数は約15万人。取引単価も直近1年間で約1.5倍に上がっている。

「ユニットエコノミクスが成立するように整備した結果、投資すれば事業が拡張できるという状況まで来た。こうなると上場会社であるグローバルウェイのPL(損益計算書)やキャッシュに、TimeTicket事業が左右されるのは得策ではない。成長のために投資するタイミングだと判断して、子会社として分割し、事業承継することにした」(各務氏)

6月には、グローバルウェイと複数の個人投資家を引受先とした9000万円の第三者割当増資も実施したタイムチケット。今回の投資ラウンドはシードと位置付け、今後も積極的に外部からのものを含む資金調達を行っていくという。

また、グローバルウェイのスイス子会社であるTimeTicket GmbHを通じて、IEO(Initial Exchange Offering:暗号通貨取引所が発行プラットフォームとなって行うICO)による調達も計画している。ブロックチェーン、暗号通貨、AI技術を活用して、個人の時間の価値を客観的に測り、時間の売買で個人が得た資金を有効活用できる仕組みを確立していくのが狙いだ。

情報可視化で「個人の信用を確立する」CtoBサービス

TimeTicketはこれまで、副業系のフリーランサーが売り手となるCtoCサービスとして展開されてきた。この分野は法人向けサービスと比較すると、売り手主導のマーケットだと各務氏はいう。これはすなわち「売り手が信用されなければ、マーケット自体も成立しないエリアでもある」(各務氏)。

「15万人のユーザーが存在していて、事業規模が14倍になったということは、売り手はチケットが販売できているということ。しかも取引単価も上がっている。これはレビュー数や取引数が増えたことで、売り手ユーザーの信用価値も上がったということを示している」(各務氏)

一方、今回リリースされたTimeTicket Proは、個人が法人ユーザーに対して時間を販売できるサービスだ。「スキマ時間に収入を、というだけではフリーランサーが求めるプラットフォームとしては不足しているのではないか、と思っている。個人が信用を形成し、収入を増やすことも必要だ。『次の“はたらく”を作る』というのがタイムチケットのミッション。好きなときに誰もが収入を上げられるようにするためには、企業の買い手が必要と考えた」(各務氏)

そうして生まれたTimeTicket Proは、副業としてだけではなく、独立して働くフリーランサーが法人向けに時間を提供する分野で展開される。競合となるのはクラウドワークスやランサーズといったサービスだ。

「このエリアは買い手主導のマーケット。企業は(フリーランスを募る際に)金額や仕事内容について、情報を出したがらない。これは派遣業でも、代理店やクラウドソーシングなどを通じた業務委託でも同じことで、企業名や案件の概要、金額などが公開されていない。するとフリーランスとしては、仕事は完了するけれども実績を公表できず、個人としての信用を確立しにくい」(各務氏)

TimeTicket Proでは、取引内容と取引の相互評価が保存され、実績が外部に公開されることでユーザーの信用力が蓄積され、個人が提供する時間の価値を適正化することができる。またタイムチケットがプラットフォーマーとして得る運営手数料も全て公開。これまでの人材業界や業務委託業界で不透明だった“時間”の取引情報に透明性を取り入れる。

「信用が確立できるかどうかで、働く人の価値は変わる」と各務氏は語る。「『個人の信用を確立する』ことは我々が提供するサービスとしての絶対条件。これに賛同して、取引情報の透明性を確保できる企業のみ、プラットフォームには参加してもらう」(各務氏)

TimeTicket Proでは、案件概要のほか、発注金額、手取額、稼働時間などの条件をすべて公開する。

はじめはスタートアップなどの小さな法人や、IT関連企業など、TimeTicket Proへの賛同のハードルが低い法人から参加してもらい、徐々に大手にも利用を広げたいと各務氏は述べている。同サービスで最初に公開されたのは「tech」をサブドメインとするエンジニア、デザイナーのためのサイトだ。今後TimeTicket Proでは「経理」「総務」など、順次対象を増やしていく予定だという。

仕事の案件公表や相互レビューに関しては「これまで公開してこなかったので、どう書けばいいか分からない」という企業担当者も多いはずだ。タイムチケットでは、そうした担当者のためのサポート体制も準備している。「個人向けと同じく、プラットフォーム課金による直接課金を基本としたいが、タイムチケットが企業と個人との間に入って業務委託や派遣の中間業者としての役割も担当することで、補助を行うメニューも用意する」(各務氏)

従来の業務委託や派遣業とタイムチケットが違うのは、マージンや仕事の内容を隠さない点だ。「情報の透明性が確保されれば、特定企業が人材を囲い込みすることもできなくなる。今までは中間業者と企業しか、個々のフリーランスの評価を知らなかった。それが公開されるようになり、いずれリファレンスを取ることも可能になる。正社員になりたい、という人には、我々が業務委託業者、派遣業者としての立ち位置から、人材紹介業者として転職支援もしていく」(各務氏)

親会社グローバルウェイの事業との親和性、シナジーについては各務氏はこう述べている。「働いている人を活性化したいという目的で始まったのが、口コミサービスのキャリコネだ。タイムチケットが運営するサービスはその延長線上にある。キャリコネは社会人が中心の登録ユーザー130万人、年間5000万UUを抱えており、その流入も期待できる」(各務氏)

親会社との利害を調整しながら、スピンアウトでタイムチケットの成功を目指す、と話す各務氏。エクイティファイナンスだけでなく、IEO調達なども取り入れることで、日本だけでなくアジアなど海外も舞台にサービスを展開し、働く人が自由に評価されるエコシステム形成を図りたい考えだ。

投稿者:

TechCrunch Japan

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