個人宅の台所をクラウドキッチンにして家で働けるようにするDishServeがジャカルタで事業拡大中

クラウドキッチンは、配達用の食事を準備するための集約された施設で食事を提供することで食品・飲料ブランドにかかるインフラの負担を減らす。これは、クラウドキッチン運営側にはレストラン顧客からの需要を満たすだけの十分な施設をもつ責任があり、その一方で消費者への素早い配達も確保しなければならないことを意味する。

インドネシアのDishServe(ディッシュサーブ)は、資産保有を最小限にするクラウドキッチンネットワークを運営する方法を考案した。格安ホテルスタートアップのRedDoorz(レッドドアーズ)の元COOによって立ち上げられたDishServeは自社施設を借りたり購入したりする代わりに個人宅の台所であるホームキッチンと提携している。現在はジャカルタの約100のホームキッチンと協業し、中小の食品・飲料ブランドのラストマイル配達ネットワークになることに注力している。2020年秋に創業されたDishServeは額非公開のプレシード資金をInsignia Ventures Partnersから調達した。

DishServeは2020年9月にRishabh Singhi(リシャーブ・シンギ)氏によって創業された。シンギ氏は2019年末にRedDoorzを去ったのち、ニューヨークに移った。あらゆる商業スペースをSoho Houseのような会員クラブにすばやく変えることができる新たなホスピタリティスタートアップを立ち上げようという計画だった。新生スタートアップはサンプルのプレハブの部屋を作り、2020年3月に新型コロナウイルスによってニューヨーク市がロックダウンとなったまさにそのときに不動産のリースを始めようとしていた。シンギ氏は、何をすべきか、東南アジアに戻るべきかどうか、数カ月の間「自己分析にふけった」と話した。

そして同氏は、多くのレストランがパンデミック時代を生き残るためにオンライン注文と配達に切り替えなければならず、これがMcDonald’s(マクドナルド)のような大手と競っている小規模の食品・飲料ブランドにとって平等をもたらす機会になるかもしれないと気づいた。しかしロックダウンは多くの人が住まいの近くにある限られたレストランから食事を取らなければならないことを意味した。と同時に、お金を稼ぎたいが、主婦のように家の外で働くことができない人が大勢いることにも同氏は気づいた。

DishServeは3者を結びつけるために立ち上げられた。多額の資金をかけずに事業を拡大したい食品・飲料ブランド、在宅起業家、そしてより多くの食事の選択肢を求めている消費者だ。同社の他の創業者はRedDoorzの初期従業員でフィリピンの責任者を務めたStefanie Irma(ステファニー・イルマ)氏、連続起業家のVinav Bhanawat(ヴィナブ・バナワット)氏、スリランカのオンデマンドタクシーサービスPickMeの共同創業者Fathhi Mohamed(ファティ・モハメド)氏だ。

1〜15店舗を運営し、新しく店舗を開設することなく配達を増やしたいと考えている食品・飲料ブランドとDishServeは協業している。DishServeの顧客にはまた、配達とケータリングのサービスのカバーエリアを拡大するためのラストマイルの配達でホームキッチンネットワークを活用するクラウドキッチン企業も含まれる。

「ブランドは前払い費用を払う必要はありません。また商品を配達する安価な方法でもあります。というのもブランドは電気代や配管作業費などを払う必要がないからです」とシンギ氏は話した。「そして業務を請け負う代理店(ホームキッチン運営者)にとっては家にいながら稼ぐチャンスとなります」

仕組み

ネットワークにホームキッチンを加える前、DishServeはまず一連の写真を送ってもらい、その次に実際に直接訪れてキッチンをチェックして申込者をふるいにかける。そしてキッチンがOKであれば、DishServeはネットワーク内の他のホームキッチンと同じ機器や機能性をもたせるべく申込者のキッチンをアップグレードする。アップグレードにかかる費用は同社が負担する。アップグレードの所要時間は通常3時間、費用は500ドル(約5万5000円)だ。機器の所有権は同社が持ち、ホームキッチンオーナーがDishServeを辞めると決めると、DishServeが機器を回収する。通常、キッチンの運営が始まって4カ月で同社はアップグレードの費用を回収できる、とシンギ氏は述べた。

ホームキッチンはまずトライアルとして、他のブランド向けに展開する前にDishServeの自前のホワイトレーベルブランドにサービスを展開することから始める。各ホームキッチンは追加で3つのブランドにサービスを提供することができる。

重要な留意点は、通常1人が運営するDishServeのホームキッチンは実際には調理しないということだ。食材は食品・飲料ブランドが用意し、ホームキッチン運営者はピックアップと配達のために手順に従って食事を温めてまとめ、包装する。

DishServeのホームキッチン運営者と顧客向けのアプリのスクリーンショット

DishServeは、頻繁に行うオンラインでの監査を通じて標準的な運用手順と衛生基準が保たれるようにしている。キッチン運営者はチェックリスト(食品準備エリア、フロア、壁、手洗いエリア、冷凍庫内)に基づき定期的にキッチンの写真とビデオを提出する。キッチン運営者の90%が年齢30〜55歳の女性で、平均世帯収入は1000ドル(約11万円)だとシンギ氏は話した。DishServeで働くことで、4つのブランドの業務を引き受けるようになればキッチン運営者は通常1カ月あたり600ドル(約6万6000円)稼ぐ。DishServeは食品・飲料ブランドに課金し、それをキッチン運営者と分け合う売上共有モデルを通じて収益をあげている。

食品・飲料ブランドはDishServeに加わると、協業したいホームキッチンを選び、食材を届ける。そしてDishServeのリアルタイムダッシュボードを使ってストック状況を確認する。一部の食材は保存可能期間が6カ月あり、その一方で農産物や乳製品、卵といった腐りやすいものは毎日配達される。新たに利用を始めるブランド向けのDishServeの「スターターパック」ではキッチン5カ所を選ぶことができるが、大半のブランドは、ジャカルタでより多くのエリアに配達し、また大量の食事を準備することで節約できるよう、通常10〜20のキッチンで開始するとシンギ氏は説明した。

DishServeは少なくとも2021年末までは他都市に事業を拡大せず、ジャカルタでのネットワーク成長に注力する計画だ。「当社が食品・飲料産業で変えようとしていることの1つは、現在あるようなかなり集中・集約された食品事業の代わりに、マイクロ起業家をディストリビューションネットワークとして作用させて事業を分散させるというものです」とシンギ氏は述べた。

カテゴリー:シェアリングエコノミー
タグ:DishServeジャカルタインドネシアクラウドキッチン

画像クレジット:DishServe

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(文:Catherine Shu、翻訳:Nariko Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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