元NSAエンジニアが率いる暗号化サービスのVirtruが2900万ドルを調達

Computer in dark office, network lines radiating

時折ある企業がある市場でそれ以外にないというタイミングで事業を展開することがある。政府のスパイ活動や、データ漏洩、ハッキングや個人情報の盗難などオンライン上での脅威が次々と明らかになったことをうけ、今では4000以上もの顧客を抱えるメール・ファイル暗号化サービスのVirtruが、米国時間8月22日にシリーズAで2900万ドルを調達したと発表した。

Bessemer Venture Partnersがリードインベスターとなった今回のラウンドには、New Enterprise Associates(NEA)やSoros Fund Management(億万長者のジョージ・ソロスをトップとする投資会社。彼はさらに、透明性が高く寛容な民主主義を推し進める人権主義団体Open Society Foundationsの理事も務めている)のほか、Haystack Partners、Quadrant Capital Advisors、Blue Delta Capitalらが参加した。

投資ラウンド以外にも、Sonatypeの現CEOかつSourcefireの元CEO Wayne JacksonがVirtruの取締役に就任することが発表された。彼は今後、BVPのパートナーでありVeriSign、Good Technology、Defense.netといったサイバーセキュリティ企業を共同設立してきたDavid Cowanや、Authentic8のCEOであり過去にメールセキュリティ企業Postiniを設立したScott Petryらと取締役を務めることとなる。

Virtruを2014年に設立したAckerly兄弟(John AckerlyとWill Ackerly)は、どちらも公共セクターでテクノロジーに関わる仕事をしていた。具体的には、WillはNSA(アメリカ国家安全保障局)でクラウドセキュリティエンジニアとして勤務しており、Johnはプライベート・エクイティ・ファンドに参加する前にホワイトハウスに対してデジタルプライバシーを含む、テクノロジー関連の問題のアドバイザーを務めていた。

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ふたりは当初、日常的に使われているアプリケーションのセキュリティやプライバシー保護機能を向上させるというアイディアを持っており、一般ユーザーが簡単に実装できるような方法を模索していた。彼らにとってのデビュー作となる製品は、Gmailなどの人気メールサービスに対応したChromeとFirexfox用の拡張機能だった。これによってユーザーは、メールのエンドツーエンド暗号化のほか、メールを受け手の受信箱から一定期間の後に自動削除することや、送信したメールを転送できなくすることができたのだ。

その後Virtruは、自社の暗号化やアクセス制限、データ損失防止(DLP)といった技術をGmail、Google Drive、Yahoo、Outlook(2010、2013、2016に対応)などのサービスへ組み込んでいった。さらに同社はスタンドアローンのメールアプリをGoogle PlayとiTunes App Store上で配布している。今回調達した資金は、Microsoft Office 365のようなクラウドプラットフォームへのサービス拡充のほか、ソフトウェアディベロッパーが自分たちのアプリにVirtruを組み込めるようSDKやAPIの開発に利用される予定だ。

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Virtuの「サービスとしての暗号化」アーキテクチャは、Willが開発したオープンソーステクノロジーであるTrusted Data Format(TDF)上に成り立っており、ユーザーはTDFでコンテンツオブジェクトを包み込むことで、アクセス権を持つ人にだけファイルの中身を公開することができる。さらにユーザーは自分で暗号キーを管理することができ、ファイルが開封・共有された後でも受け手のアクセス権を無効化することができる。

今年に入ってから同社は新機能を導入し、メールやファイル内の暗号化されたコンテンツの秘匿検索や、ハードウェアベースの暗号鍵などがサービスに追加されたほか、SDKの配布もスタートした。

Virtruのテクノロジーが評価されている理由は、セキュリティの度合いではなく(John自身、オンラインコミュニケーションにおいてもっとセキュリティを高める方法があると以前認めていた)その使いやすさと価格にある。Virtruは誰でも使い方を理解できるくらいシンプルで、かつ様々なプラットフォームに対応している。さらに個人利用の場合は無料で、プロ・商用についても良心的な価格設定(月額5ドル)がされている。

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そもそもの製品アイディアは、一般ユーザーのために情報セキュリティを簡素化するというものであったが、現在Virtruは個人に加えて多くの企業に利用されている。企業はVirtruを使って簡単にGmail、Google Drive、Google Appsなどのセキュリティや暗号化機能を向上させることができるほか、知的財産の保護やCJIS、CFPB、HIPAAなどの規制対応にもVirtruを利用している。また、現在Virtruは、メディア、エンターテイメント、政府、医療、金融、製造などの業界にサービスを売り込んでいる。

スタートアップの資金調達に影響を与える引き締めが行われている中での今回のラウンドは、特に今年のはじめに投資資金が「枯渇する」と言われていた競争の激しいサイバーセキュリティ業界での出来事だったため注目に値する。BVPのCowanは当時、同業界に参入してくるスタートアップの多くが、既に市場に出ている技術を真似ているか、ハッカーが既に回避方法を知っている製品を販売していると語っていた。結果としてスタートアップ各社は資金調達に時間がかかり、支出を抑えるかイグジットを模索せざるを得なかったのだ。しかし、Virtruはしばらくの間そのような問題に悩まされなくて良さそうだ。

「銀行や病院、学校、雇用主そして政府に個人情報を渡した途端、私たちのプライバシー保護は彼らの情報セキュリティ頼みになってしまいます。Virtruのメール・ファイル暗号化サービスの成功は、ビジネスシーンでのプライバシー保護に新たな基準が生まれようとしていることを表しているのです」とCowanは声明の中で述べていた。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter