全米レコード協会がYouTubeダウンローダーに目を付けた

海賊行為が横行していたその昔(未訳記事)、全米レコード協会(RIAA)は日常的に削除通知を送りつけていた。私も何度か受け取ったことがある。しかし、海賊行為の追跡が難しくなり、通知はほとんど姿を消した。それでも、RIAAはいまもあのうるさいやつを出し続けている。その相手は、著作権を侵害する行為に利用される「恐れのある」ソフトウェア、例えばYouTube(ユーチューブ)用ダウンローダーなどの作者だ。

多くの開発者が利用している人気ソフトウェアに「YouTube-DL」(ユーチューブ・ディーエル)があるが、Freedom of the Press Foundation(報道の自由財団)のParker Higgins(パーカー・ヒギンズ)氏が米国時間10月24日早く伝えた(Twitter投稿)ところによれば、RIAAから脅しをかけられてGitHub(ギットハブ)から削除されてしまったという。

これはしかし、2000年代初め(未訳記事)によく出された、私たちの記憶にも残るあの削除通知とは性質が違う。あれはDMCA(デジタル著作権法)に基づいて大量に発行された通知だった。内容は「あなたのウェブサイトにはこれこれの保護されたコンテンツが含まれているため、削除してください」というものだ。もちろん、それはいまでも存在するが、ほとんどが自動化されている。例えばYouTubeなどのサイトでは、著作権侵害の動画は公開前に自動的に削除される仕組みになっている。

今回、RIAAが行ったのは、基本的にDRM(デジタル著作権管理)を回避するものを禁じた米国著作権法1201条(何人も本権利で保護された作品への利用を実質的に管理する技術的保護手段を回避することはできない)に違反するとの理由によるYouTube-DLの削除要請だ。

つまりこの法律は、単に海賊版ブルーレイディスクなどの配布を禁止するだけでなく、その前の段階でプロテクトを破ってコピーすることも違法だといっている。

その理屈を少し拡大すれば、YouTube-DLも含まれてしまう。これは、コマンドラインで使用するツールで、YouTubeのURLから動画や音声の元のデータの場所をユーザーに知らせるというものだ。当然、それらのデータはどこかのサーバーに保管する必要がある。通常、動画や音声のファイルが置かれている場所は、YouTubeのウェブプレイヤーにストリーミングされてくる。それを見れば、ユーザーは動画をダウンロードして、オフラインで見たりバックアップしたりできるわけだ。

だが、もし誰かがこのツールを使ってTaylor Swift(テイラー・スウィフト)の「Shake It Off」のオフィシャルミュージックビデオ(MV)をダウンロードしたとしたら?ショック!ホラー!海賊行為! YouTube-DLはそれができてしまう。だから削除すべき、と彼らは述べている。

いつものように、RIAAがずっと前に諦めた類似の(アナログな)状況に陥るのは時間の問題だ。例えば画面と音声をキャプチャーユーティリティーソフトを使って同じことをしたらどうなのか?ビデオカメラならどうだろう?その点でいうならカセットテープレコーダーは?これらはみな、テイラーのMVのオフラインコピーを著作権者の許可を得ずに作る際に、その動画を保護しているDRMを「回避」するために使われている。

もちろん、RIAAは著作権侵害からの保護という責務を担っているため、人々がYouTubeの公式アカウントをほじくってアーティストの全作品の高品質な海賊版を作るのを黙って見ているわけにはいかない。しかし、こうした単純なツールを追いかけ回すやり方は、古くさくて説得力のない「自宅用の複製は音楽産業を殺す」といったかけ声と同じだ。誰も耳を貸さない。もし、アーティストの作品を大量に盗むような行為を問題視するのであれば、まずはRIAA自身を立て直す必要があるだろう。同協会の恩恵で得られるストリーミングサービスの報酬は雀の涙だ。それよりは、Bandcamp(バンドキャンプ)で売った方がいい。

YouTube-DLのようなツールは、カセットテープやカメラやトンカチとも同じく、合法的にも非合法にも使える技術だ。フェアユース(公正使用)の原則によれば、こうしたツールは善意の行動のための使用は許される。例えばGoogle(グーグル)が興味を失ったために消失していまいそうなコンテンツをアーカイブにして保管したり、広く利用されている個人向けの無料コンテンツのコピーを何らかの理由で手元に置いておきたい場合などだ。

YouTubeも他のプラットフォームも同様に、明らかなそして大規模な著作権侵害を難しくする可能な限りの対策を誠実に行っている。最新のヒット曲トップ40の脇には「ダウンロード」ボタンを配置せず、代わりにその曲を購入できるサイトへのリンクが示される。コピーを自分の動画の背景に使った場合、それが自分で購入したもののコピーであっても、YouTubeには最初から投稿できないようになっている。

YouTube-DLをGitHubから一時的に削除したところで、この事態に関しては誤差以上の規模にはなり得ない問題への短絡的な対処でしかない。アカウント不正共有(未訳記事)の被害額のほうが大きいかもしれない。それや、それとよく似た他の何かが、すぐにまたもう少し賢くなって、もう少し性能をよくして帰ってきてはRIAAの仕事をさらに複雑化する。そしてそれが繰り返される。

RIAAは「モグラ叩き」ゲームの作者から、その知的財産権侵害で訴えられかねない。

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タグ:ネットサービス
カテゴリー:YouTube著作権

画像クレジット:Bryce Durbin

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(翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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