公開されたコンテンツからAIでインサイトを抽出し企業の意思決定を支援するSignal AIが約57億円調達

インターネットなどで公開されている膨大なデータの海を探索し、より良いビジネス上の意思決定を行うためのセンチメントインサイトなどを組織に提供する人工知能スタートアップのSignal AI(シグナルエーアイ)が5000万ドル(約57億円)を調達した。同社はこの資金でAIプラットフォームの構築を進め、より多様なデータソースを取り込むことで、人が尋ねる可能性のある、より幅広いビジネス上の質問に対するインサイトを引き出す。

「組織はまだ、脅威や機会を先取りし、困難をチャンスに変えるための効果的なレーダーを持っていません」と同社のCEOであるDavid Benigson(デイビッド・ベニグソン)氏はインタビューで語った。同社は、ソーシャルメディアやニュースメディアから2万5000のポッドキャスト、規制当局への提出書類、その他の公的記録まで、何百ものデータソースを単一のプラットフォームに集約している。

そして、機械学習やその他のAI技術を適用し、Signal AIの顧客が投げかけた自然言語の質問に基づいて、そのすべてからインサイトを抽出する。「当社はプラットフォームに注入するデータを多様化しています」とベニグソン氏は付け加えた。Signal AIは現在、約100の言語で動作する。

今回の資金調達はシリーズDの形で行われ、Highland Europeがリードし、新規投資家のabrdnに加え、既存投資家のRedline(Signal AIの2019年のシリーズCをリード)、MMC、戦略的投資家のHearstとGuardian Media Group Venturesも参加している。ロンドンに拠点を置くSignal AIは、これで累計1億ドル(約114億円)を調達したことになる。評価額は公表していないが、ベニグソン氏(同社のチーフデータサイエンティストであるMiguel Martinez[ミゲル・マルティネス]氏と共同で創業)は、前回のラウンドより100%成長したと述べた。

PItchBookは同社の評価額が2019年時点で1億ドル程度だったと推定しており、この数字が正確であれば、現在は2億ドル(約228億円)ということになる。いずれにせよ、Signal AI自体が成長したことは間違いない。ベニグソン氏によれば、同社は現在、フォーチュン500に選ばれている企業の40%と取引しており、その顧客層にはDeloitte(デロイト)、Bank of America(バンクオブアメリカ)、Google(グーグル)などが含まれるという。

Signalが特定し、解決しようとしている課題は誰もが日々遭遇するものだが、道を間違えれば数十億ドル(数千億円)の投資が危ぶまれる可能性のある厄介な問題を企業が対処する際には、特に深刻に感じられるだろう。

インターネットは私たちに膨大な情報の宝庫を提供してくれるが、それを解き明かし、回避するための最適な鍵や地図があるとは限らない。特に、センチメント分析に関するよりふわふわした質問や、実際には多くのソースからの情報の照合である「答え」の場合のように、探している答えが単純ではない場合はなおさらそうだ。

Dataminr(2021年、41億ドル[約4670億円]の評価額で膨大な資金を調達)、Meltwater(株式公開企業で、技術力を高めるために企業買収も実施)、Cision(現在は非上場で、成長のために大規模買収も実施)など、このギャップを特定し、解決に向けて構築を進めている企業も多数存在する。

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これらの企業が重視し、推進したのはメディアモニタリングの分野であり、他のメディアソースだけでなく、企業自体も利用する巨大なビジネスだ。実際、Signal AIも以前はSignal Mediaと呼ばれ、この分野を中心に活動していた。

従来のやり方は、メディアの切り抜きを集めてクライアントに提供するものだったが、新しいやり方は単に言及を集めるだけでなく、そこから得られたより要約された情報やインサイトを提供するものだ。インターネットが発達すればするほど、クリップの数は増え、実際、最も熱心なコミュニケーション専門家のチームでさえ、クリップの山に対応するのは不可能になっている。

しかし、よりインテリジェントなメディアモニタリングのために構築されたこのモデルは、同じフォーマットとアルゴリズムをより幅広いユースケースに適用する道を開くものであり、Signal AIはその前提のもとに構築されている。

このように、Signal AIはコミュニケーション戦略に携わる人々へのインサイト提供に重点を置いているが、AIQプラットフォーム(Signalはそう呼んでいる)を通じて、クライアントに提供できる情報の種類をさらに増やしている。

例えば、潜在的なビジネスパートナーに関する情報や「インサイト」の提供、多様性と包括性でのスピードアップやそれらに他社がいかにアプローチしているか、環境戦略に関する決定事項、税金やデータ保護などの規制遵守についての企業の戦略に関するデータなどだ、とベニグソン氏は話す。

同氏によれば、Signal AIをDataminrのような企業と比較するのは妥当だが、ユーザーが求めるクエリの種類や回答において、より多くのコンテキストを提供する点でSignal AIは異なるという。ビジネスの成長とともに、このような豊かな体験ができることも、同社がいかに成長するか投資家が関心を寄せる理由だ。

Highland EuropeのパートナーであるTony Zappalà(トニー・ザッパラ)氏は「Signal AIは、傑出したカテゴリー定義会社です」と話す。「同社の革新的な成長の次の章に関与することに興奮しています。デイビッドと経営陣は、彼らが定義するのに役立っている意思決定拡張カテゴリに対して明確なビジョンを持っており、Gartnerの調査が示すように、その機会は膨大なものです」と述べた。

画像クレジット:pigphoto / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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