共有経済と金融の未来

[筆者: Christoffer O. Hernæs]

編集者注記: Christopher O. Hernæsはノルウェーで二番目に大きな金融企業SpareBank 1 Groupの、戦略・イノベーション・分析担当VP。それまでの彼はCore Groupのパートナーとして、テクノロジやメディア、通信、金融サービスの方面を担当していた。

銀行は、そこへ行くところから、そこで何かをするところに変わった。共有経済がわれわれの未来の形を作る、という説を信ずるなら、銀行などすべての金融サービスは単なる背景的な存在となり、電気ガス水道などの公益企業に似たものになってしまうだろう。

ぼくは前に、金融サービスは伝統的な価値やビジネスモデルの崩壊と、ミレニアル世代からの不信により、コモディティ化する危機に瀕している、と主張した。共有経済はすでに、P2Pのレンディング(lending, 貸金サービス)やソーシャルペイメント、クラウドファンディング、P2P保険などを通じて、金融業の形を変えつつある。しかし、視野を広げて、そのほかの産業や社会全般を見渡せば、変化の広がりと浸透はもっともっと大きい。

Jeremy Rifkinの近著The Zero Marginal Cost Society(限界費用ゼロの社会)は多くの議論を喚起したが、同書で彼は、資本家の時代は去りつつある、と述べている。その変化の要因となるものは、テクノロジの広範な普及浸透と物のインターネット(Internet of Things, IoT)の勃興だ。Rifkinによると、自動化と共有化のサービスがこれまでの生産方式を置換し、製品とサービスの限界費用をゼロに近づける。

この仮説を実証しつつある企業が、すでにたくさん存在する。

ライドシェアリングサービスのUberは、ここであらためて紹介する必要もないと思うが、その、顧客が一度だけ自分のクレジットカードをスキャンして、それにより今後の支払も指定する統合化決済方式(integrated payment solution)では、サービスの決済方式がサービス本体に最初から統合されている。 McKinseyの報告によると、顧客の銀行利用の80%は商品やサービスの代金支払だ。この80%がUberのようなサービスに統合されてしまえば、銀行は顧客の日常の支出において目に見えないもの(存在を意識しないもの)になる。

保険についても同じことが言える。Airbnbは、ホスト保護のために家のオーナーに保険を提供している。それもやはり、このサービスに統合化されている。UberとLyftはどちらも、そのライドシェアリングサービスに責任保険をかけ、TaskRabbitなどの企業はそのサービス規約に保険ポリシーがあり、万一の場合のユーザの損害を補償することによって、初めて会う赤の他人を信用しやすくしている。旅行保険はどうだろう? あなたの場合、ご自分で旅行保険をつけよう・買おうとした最後の機会は、いったいいつだったか? 自動車保険も、今のライドシェアリングサービスが個人運転車に対して提供している、サービスと統合化された責任保険を見て、今後のやり方を変えざるを得ないだろう

これらのサービスは、デジタル化のグローバルな進展によって可能になり、それは既存の伝統的な業種にも、インフラストラクチャのレベルで課題を突きつけている。

金融セクターの場合は、台帳が公開されて分散するブロックチェーンの技術が、このような技術的パラダイムシフトを表している。これによって、手形の決済や清算など費用のかかる要素が要らなくなり、ブロックチェーンとマイクロペイメント(小額決済)が理想的なプラットホームになる。そしてまた、WiFiの料金を分単位で払うなど、小さな決済粒度のサービスが可能になり、決済処理から無用な軋轢を取り除く。

しかし、GoogleやFacebookのようなグローバルなエコシステムやUber、Airbnbなどのサービスプラットホームが、ある種の、デジタルの封建主義のようなものを作り出している今、共有経済はソーシャルな資本主義の正しい形なのか、それとも、貧富の格差の拡大要因なのか?

Quartzの投稿記事によると、Uberなどの成功を可能にした基盤的条件は格差の拡大だ*。このような説を、Brookings Institution(ブルッキングス研究所)の研究報告も支持している。すなわち、共有経済の発祥の地であるサンフランシスコは、2007年から2012年にかけて、格差がもっとも大きくなった合衆国の都市だ。共有経済のもうひとつの未解決の問題は、インフラ関連の固定費用が、長期的な視点ではどうやって手当されるのか、だ。テクノロジ分野のプラットホームはセットアップも展開も比較的安い費用でできるが、歴史が示すところによれば、限界費用の低い生産は初期の資本費用が高い場合が多いのだ。〔*: 格差の底辺にいる大量の‘浪人的’浮動労働力が、Uberなどの労働力リソースになっている、という意味。〕

しかし、さまざまな批判にもかかわらず共有経済は、2025年に総売上が3350億ドルに達し、そのインパクトはほとんどすべての産業に及ぶ、と予想されている。

そして結果がどうであれ、今の若い世代は、消費者になることよりも、共同的な創造や共有に価値を認め、有能で自立した市民になることを目指している。金融セクターはこれまでも一貫して、社会と経済の変化や成長に合わせて進化してきた。だから、将来の銀行や金融も、サービスや社会全体の一部として見るべきであり、単独の実体と見なすべきではない。

世界は変わった。かつてあったものはなくなり、金融業界は今、不確定な未来に直面している。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。