前置きからミッドシップへ、シボレーコルベット2020は今後が楽しみなスーパーカー

コルベットとは何か?私にとって、その質問に答えるのは簡単だ。強力なエンジンを備えながら、2つのゴルフバッグを収納でき、手頃な価格のパッケージにまとめられた車ということになる。過去62年間に渡って、ずっとエンジンは前置きで、床にシフトレバーを配置していた。それが今回はだいぶ様子の異なるものとなっている。そして、それは素晴らしいことの始まりのように思われる。

今回、コルベットとして初めてエンジンはミッドシップとなり、これまで守ってきた伝統からは大きく逸脱するものとなった。この配置により、コルベットの運転感覚もだいぶ異なるものとなった。「良くなった」という人が多いと思われる半面、変更を嘆く人もいる。私は前者のグループに入る。新しいコルベットはエンジニアリングの成果であり、強烈なスリルを与えてくれる車には違いない。その力強いトルクには微笑まずにはいられない。

最初にまとめておこう。コルベット2020は素晴らしく、今後もさらに優れたものになる。現時点でも、コルベットは購入した人の多くを喜ばせる素晴らしい車だ。しかし中には、もっとパワーが欲しいとか、ブレーキの改良が必要だとか、さらにエキサイティングなものを求める人もいるだろう。そうした要求を満たす車も、時間が経てばやがて登場するはずだ。

コルベット2020は、シボレーにとって新しい時代の始まりを意味する。今回のモデルは、これまでに最も長く維持してきたブランドにとって、最大の変更となった。1953年以来コルベットは、ヨーロッパ製の高級車に、ずっと安価ながら対抗しうる米国製のスポーツカーであり続けてきた。それは、この新しいパッケージでも何ら変わらない。新しいミッドシップのコルベットは、6万ドル(約642万円)からという価格設定だ。

私は、ラスベガスとその周辺で、新しいコルベットと数日を過ごす機会を得た。混雑した高速道路、砂漠を突っ切る空いた道、ラスベガスストリップの通りを走ってみた。また、サーキットでも数時間走ってみることで、この車の個性の異なる側面を見ることもできた。

コルベットには力強いパワーがあり、キビキビした運転にも、快適なクルージングにも適したシャーシを備えていることがわかった。後ろにはゴルフバッグを2つ、前にもビール箱をいくつか積むことができる。快適で余裕がある。新たなV8シボレー・スモールブロックエンジンには、タイヤを空転させて白煙を上げたり、ドライバーを笑顔にする力もある。

しかし、同時にがっかりした部分もある。コルベットは2020は、卓越しているとまでは言えない。ブレーキは気難しく、一貫性に欠ける。首に負担がかかるほどのパワーはなかなか味わえず、そこに達するためには、タコメーターの針をかなりの角度まで回す必要がある。数え切れないほどのメニューとオプションによって、さまざまな安全機能が制御されている。圧倒されるほどだ。そしてなぜかは不明だが、すべての空調コントロールボタンは、運転手と助手席の間にまたがる奇妙な仕切りの長いバーに収められている。

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新しいコルベットのハンドリング性能は優れている。シボレーはシャーシのチューニング方法を心得ている。その点はなかなかすばらしい。この車は、全幅の信頼を抱いてコーナーに飛び込むことができる。そしてそのコーナーを抜けるまで、何のドラマも起こらず、タイヤがスピンするようなこともない。

サーキットでは、路面の状態が車の挙動に大きな影響を及ぼすことがあるが、コルベットなら安心だ。ただし、それがいいことなのかどうか確信はない。

コルベットは、これまでずっと前輪の車軸上に重いエンジンを載せ、抑制の効いたカオスを提供するものだった。ダッジ・バイパーや昔のランボルギーニのように、度の過ぎたものではなかった。それでも尊敬に値するほどの、クレイジーなパワーを持っていた。ただし、それも昔のこと。コーナーに突っ込んだときも、ストレートでベタ踏みしたときも、Z51パッケージのコルベット2020は、きちんと制御され、整然としていた。これに納得する人もいるのはわかるが、以前の車のような恐ろしいほどの興奮が奪われたのは確かだ。

エンジンをドライバーの後ろ、かつ後輪の車軸の前に配置したミッドシップのコルベットは、マッスルカーというよりもスーパーカーのようなハンドリング特性となっている。サーキット上では、ほとんどどんな人がドライブしても、それなりに競争力を発揮する。常に狙い通りに操れるはずだ。高度なトラクションコントロールを備えたことで、コルベット2020は自信をもたらし、その上にエキサイティングなものを付加してくれる。起伏のある丘や、曲がりくねったコーナーに挑むのに、ためらいはいらない。テクニカルなカーブでも挙動は安定している。それでも、望むなら補助機能をいくつかオフにして、後輪をスライドさせることも可能だ。

ただし、人を微笑ませるだけのパワーはあっても、声を出して笑ってしまうほどではない。この基本パッケージのままでは、コルベットはレーサーというよりも、スピーディなグランドツアラーといったところだ。

もっとブレーキが優れていれば、と思う。

新しいコルベットには、新しいブレーキシステムが搭載されている。これは、ブレーキ・バイ・ワイヤーによるもので、従来のような油圧のブレーキシステムを制御するマスターシリンダーは存在しない。コンピューターがシステムをコントロールしているのだ。私は、この仕組があまり好きではない。一般道では、神経質で扱いにくい。サーキットでは、もっとできることがあるはずだと思わせる。

サーキットで走りたい人のために付け加えれば、ブレーキのフェードはほとんどない。ブレーキの状態はラップごとに安定するようだ。数時間におよぶレースの間、その状態が保たれるだろうか。今のところ不明だが、もしGMが車を提供してくれるなら、喜んで確かめたいと思っている。

ブレーキは、この車の中で、最悪の部分の1つだ。シボレーは、ブレンボ(Brembo)に助けを求めた。と言えば、うまくいきそうに聞こえる。ブレンボは、ブレーキシステムのトップメーカーだ。しかしこの組み合わせについて言えば、ブレンボとシボレーのどちらが悪いということではなく、なぜかうまくいかなかったようだ。このブレーキは変更の必要がある。

シボレーのスモールブロックエンジンは、コルベットの心臓であり、伝説的なコルベットのエンジニア、ゾラ・アルクス・ダントフ(Zora Arkus-Duntov)氏が、1955年に採用して以来、脈を打ち続けてきた。このV8エンジンのないコルベットなど、ホットドッグと法外な値段のビールのない野球の試合のようなもの。まったく非アメリカ的だ。

この車のLT2エンジンは、490hpの馬力と465lb-ft(637Nm)のトルクを発生するコンパクトなスモールブロックとなっている。現代のエンジンに期待される、あらゆるギミックを備える。たとえばシリンダーの半分をシャットオフして、4気筒だけでスムーズに動作するモードもある。この切り替えはシームレスで、実際に高速道路での燃費は、約30mpg(約12.7km/l)にまで向上する。

この洗練されたスモールブロックは、コルベットが静止状態から約3秒で60mph(約96.6km/h)に達することのできる要因の1つだ。もちろん、コンピューターによる発車支援機能、トランスアクスル、適切な重量配分も寄与している。

それから、インテリアにも触れておこう。コルベット2020のインテリアは、間違いなくシボレーがこれまでに作ったコルベットの中で最高のできだ。アウディ、マクラーレン、BMW、アキュラなどに引けを取らないほど美しく、よくできている。

こうしたものすべてが、6万ドル(約642万円)という価格に含まれている。オプションの装備をあれこれ加えても、8万ドル(約856万円)には収まるだろう。

つまり、7人乗りSUVほどの価格の車で、人は子供たちを打ち捨て、ゴルフクラブしか運べない、2人乗りのミッドシップコルベットを手に入れ、約3秒で60mph(約96.6km/h)にまで加速できるというわけだ。必要ならスノータイヤも装備できる。

これは、良くも悪くも、自動車にとって新しい時代の幕開けだ。

コルベットは米国のアイコンであり、それが問題になる。モデルチェンジのたびに、いつも非現実的な期待が寄せられる。どんなものになっても、けっして満足しない人達がいるのだ。モデルチェンジは、毎回とことん分析され、否定されてしまう。シボレーは、60年におよぶ伝統、伝承、噂に立ち向かわなければならない。たとえば、今回のモデルには、円形のテールライトがない。それは一部の頑固なコルベットファンにとっては、重罪に等しい。

コルベット2020では、ゼネラルモーターズのシボレー部門はすべてを捨て、最初から作り直した。その結果、頑丈なピックアップトラック程度の価格で、一般道でもサーキットでも快適なミッドシップのスポーツカーができ上がった。

コルベットは常にその時代の産物であり、今回も例外ではない。世界中が電気自動車に向かうという動向の中、シボレーはコルベットを未来に向けて進化させるしかなかった。しかし、エンジンをドライバーの後ろに置くよう、シボレーを仕向けたのはテスラではない。それは物理学だ。

コルベット2020がユニークなのは、その構成要素の集合によるものではない。車を構成するの部品と、その価格を合わせて考えた時にユニークと言える。コルベット2020は、十分に優れている。そして2021年以降のモデルは、さらに素晴らしいものになるだろう。コルベット2020を支えているプラットフォームは、見事としか言いようがない。

いくつかの装備の選択と、そこからくる運動性能については、議論の余地があるだろう。とにかくブレーキは良くない。インテリアのオプションは、キンピカし過ぎだろう。爆発的なパワーは、深く秘められていて、ほとんどの運転状況では、それを引き出すのはまず不可能だ。しかし、こうしたことは、すべて時間の経過とともに改善されるはず。現在の状態でも満足できる人はいるだろう。しかし、登場したばかりのものに完璧を求めるのは、どだい無理がある。

どうしても比較してしまうが、もう少し金額を足せば、フェラーリが買える。フロントエンジンのマスタング・シェルビーGT350Rと同じくらいの価格だが、ハンドリングはこちらの方が優れている。同じ価格帯のミッドシップでも、コルベットのスモールブロックはV型8気筒なのに対して、ポルシェのケイマンは4気筒だ。ポルシェを選ぶ理由があるだろうか。コルベット2020が、そうした車よりも本質的に優れているわけではない。まったく違う車なのだ。

コルベットは、誰にとっても入手可能なスーパーカーであるという点で、米国の自動車業界の頂点に位置している。シボレーは、コルベット2020で、ミッドシップの躍動を非常に安価に提供しているのだ。

もちろん、フェラーリやマクラーレンほど優れているわけではないが、かなり近いと言える。シボレーに、さらに数年を与えれば、このミッドシップのコルベットプラットフォームは、さらに高い競争力を獲得するはずだ。

このコルベットを作ったエンジニアの何人かと直接話ができた。古いモデルの2019年型コルベットZR1は、非常に強力なスーパーチャージャーを装備し、コルベット2020よりも速い。話をしたエンジニアによると、そのスーパーチャージャーを新しいエンジンに取り付けることも可能だという。さらなるパワーの獲得に期待できそうだ。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)