副業ヘッドハンティングのSCOUTERが人材紹介会社向けサービス「SARDINE」を提供開始

個人が副業で、知人や友人などの身近な転職希望者を企業に紹介して報酬を得られる——ソーシャルヘッドハンティングサービス「SCOUTER」はユーザーが人材エージェントとして登録する、というちょっと変わった切り口の人材紹介サービスだ。このサービスを運営するSCOUTERが5月29日、個人ではなく人材紹介会社が求人情報を利用できる、月額制の法人向けサービス「SARDINE(サーディン)」を正式リリースした。

2016年4月のSCOUTER運営開始から、約2年。SCOUTER代表取締役社長の中嶋汰朗氏によると、「スカウター」と呼ばれる個人の紹介者(ヘッドハンター)は順調に増えていて、審査応募数では約9000人となっているとのこと。求人を掲載する法人も約1000社となり、幅広い業界の大手からスタートアップまで求人がそろう。

そうした中、副業でなく本業として人材紹介を行っていた元エージェントや現役エージェントにも、スカウターとして登録するユーザーが現れてきた、と中嶋氏は話す。

有料職業紹介、つまり人材紹介を行う事業所は日本全国で約2万カ所。有効求人倍率が増え続け、紹介免許の許可基準が緩和されたこともあって、さらに増加が見込まれる。そして、そのうちの約85%が従業員数10名以下の小規模事業者と言われている。

しかし、中小規模のエージェントでは求人がそろえられず、転職希望者に紹介できる案件がないケースも多いという。そうした中小エージェントから「SCOUTERを会社で使いたいという要望が出てきた」と中嶋氏。しかしSCOUTERでは紹介者が得られる報酬は転職者の年収の5%に限られる。このため、法人向けにより高い報酬が得られるサービスが求められていた。

新サービスのSARDINEは「月額利用料のみ」「紹介手数料は100%還元」というモデル。毎月利用料を支払えば、SCOUTERと共通でサービス上に掲載されている約1000社の求人を、自社が抱える求人と同様に転職希望者に紹介することが可能になる。

「紹介免許の取得が容易になったことで、人材紹介会社は個人や小規模にシフトし、数も増えている。ただし、どこも同じような業務になっていて、求職者が分散している。SARDINEではクラウドサービスとして個人・小規模業者を一カ所に集めることで、管理コストを減らすことができる」(中嶋氏)

特に中小規模の紹介会社では、求人開拓のリソースが不足していることが課題となる、と中嶋氏は言う。「求人開拓をしなくてもいい、集客しなくてもいい、となれば、その分の時間を企業と求職者のマッチングに充てることができる。アナログ作業も多い業界だが、面談以外の時間を無くせば、人と向き合う時間が増え、求職者に満足いくサポートもできる。結果として採用される確率も高くなり、求職者の満足度も高くなる」(中嶋氏)

SARDINEでは、これまでSCOUTERで蓄積したノウハウをもとに、選考管理に関する機能もエージェントへ提供。面接スケジュールの調整や選考結果のメール・電話連絡などのアナログ作業を削減できるようにしている。

また求人を行う企業にとってのメリットも増える。「求人をサービスに載せるだけで、SCOUTERに加えて複数の紹介会社から一括で紹介を受けることができるので、効率的に採用ができるようになる」(中嶋氏)

SARDINEと同じように中小規模のエージェントと企業をマッチングするサービスでは、groovesが運営する「Croud Agent(クラウドエージェント)」などがあるが、これらのサービスでは月額課金に加え、成約時に成功報酬の30%を利用料として支払うことになっている。

SARDINEは月額利用料のみで利用できる。月額利用料は公表されていないが、3カ月に1人紹介が成立すれば収益化できる金額だということだ。SARDINEはこれまでにクローズドベータ版として、数十社の人材紹介会社向けに運用されていたのだが、既に1000万円を売り上げたところも出ているという。

中嶋氏は成果報酬を100%還元することで「エージェントがインセンティブが高い求人を優先するのではなく、転職者本人が希望する求人を選択してプッシュすることになるので、選択をねじ曲げず、マッチング率も高められる」と話す。

さらに成果報酬の還元でエージェントの利用が増えれば、データの集約・蓄積も進むと中嶋氏は考えている。「求人、エージェントをひとまとめにすることで、紹介数が増え、紹介が増えることでフィードバックがたまり、紹介の精度が上がる。レジュメが蓄積されるだけでは、採用されるかどうかはハッキリわからないが、選考が進めば情報がたまる。そうしたデータはSCOUTERでも共通で使える。利用が増えて、情報がアセットとしてたまるのが我々としては理想だ」(中嶋氏)

サービス名のSARDINEはイワシを意味する。イワシは群れで泳ぐことで生存確率を高め、泳ぐエネルギーを節約できるとも言われる。中嶋氏は「SARDINEは小規模な紹介会社をグループ化して、個の力を集めて大手にも対抗しうる存在となることを目指している」と言う。

「紹介が多く情報が集まる大手と中小エージェントとの差は開きっぱなしだった。しかし小さいからこそきめ細かくできる、というクオリティもある。(クラウドサービスは)中央集権的ではあるけれど、集まる情報を使って、大手だからできていたことを小さいところでもできるというのが大事。それで格差を埋めることができる」(中嶋氏)

「小さなエージェントがビジネスとして成立することで、求職者にも選択肢を提供できる。そのために(成果報酬を手数料に入れない)サブスクリプション型に振り切った」と中嶋氏は、新サービスで求職者へのメリットも増えると話す。

「サービスを通して、どの人がどの分野で成約率が高いかといった、エージェントに関する情報も持つことができ、それを求職者に提供できる。いいことをやっているエージェントに次の仕事が来るように、適切な評価軸を提供することも大切」(中嶋氏)

中嶋氏は「サービスはプロダクトを作る力と、企業の人事担当に営業して説明する力、両方がないと成り立たない。2年間のSCOUTER運営を通じて、そのバランス感覚がわかってきた」と話している。

SCOUTERとSARDINE双方で相互協力も進め、人材紹介カテゴリーでトップを取っていきたい、という中嶋氏。そのために「エージェントが仕事をしやすいように効率化し、データを活用しつつ、求人が集まり、求人が集まれば紹介も増える、といういい循環を作っていきたい」と語った。

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TechCrunch Japan

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